「きしな屋」「結い物で繋ぐ会」代表 岸菜賢一さん【木桶職人復活プロジェクト】

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1月23日(火)に「木桶職人復活プロジェクト」に参加されていた、食のセレクトショップ「きしな屋」「結い物で繋ぐ会」代表の岸菜賢一(きしな けんいち)さんにお話をうかがいました。

きしな屋 岸菜賢一さん
食のセレクトショップ「きしな屋」「結い物で繋ぐ会」代表 岸菜賢一さん

「旅するバイヤー」として全国を回る中で、木桶が日本の食文化に大きく貢献していることを改めて痛感。「木桶職人復活プロジェクト」参加のきっかけのひとつに

岸菜さん(左)と、ヤマロク醤油五代目の山本さんと「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げた三宅真一さん(右)
岸菜さん(左)と、ヤマロク醤油五代目の山本さんと「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げた三宅真一さん(右)

大阪の船場と枚方市で食のセレクトショップ「きしな屋」を営んでいます。全国のおいしいものや昔からあるいいものを、自分で探して、食べてみて、話を聞いて、納得したものだけを置いているお店です。
前職では、大手食品メーカーで営業職に就いていました。そのときから、「日本には昔ながらのやり方でいいものを造り続けているところがたくさんあるのに、なかなか表に出てこないなぁ」と思っていて。なぜ多くの人が、そんなに素晴らしい食品を知らないのか。それは、商品の良さを伝える人がいないからで、いないのであれば自分でやろう!と8年前に独立しました。

普段は、「旅するバイヤー」として各地のおいしいもの・いいものを探して全国を飛び回っています。そんな中で、木桶が日本の食文化に大きく貢献していることを改めて痛感しました。それが、木桶職人復活プロジェクトに参加したきっかけのひとつです。

「木桶職人復活プロジェクト」で出会った仲間と3人で、“何か”を形にしたい

このプロジェクトへの参加は、今年で4回目になります。3年前に参加したときに、徳島の「司製樽(つかさせいたる)」の棟梁・原田啓司君と意気投合して、「一緒に何かやろう」と話していました。そして2年前の参加で、五島列島の桶屋「桶光(おけみつ)」の宮﨑光一君と出会って、「3人で何かしたいね」と。
でもその“何か”が漠然としていて、去年1月の木桶職人復活プロジェクトの後、原田君とひざを突き合わせて6時間、じっくりと話し合いました。そして、自分たちが持てるものを役割分担して形にしていこうとなりました。

造る、売る、伝える。3人がそれぞれの役割を担い、木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」を立ち上げる

「結い物で繋ぐ会」のメンバー、棟梁の原田啓司さん(左)、代表の岸菜さん(中)、職人の宮﨑光一さん(右) ※「結い物で繋ぐ会」オフィシャルサイトより
「結い物で繋ぐ会」のメンバー、棟梁の原田啓司さん(左)、代表の岸菜さん(中)、職人の宮﨑光一さん(右)
※「結い物で繋ぐ会」オフィシャルサイトより

本来、ものづくりをする人間は造ることに特化し、ものを売る人間が販売に特化するのがあるべき姿で、造る人が販売までこなすのはまれなことです。なので、販売や営業、マネジメントは自分の役割、原田君は棟梁として木桶造りの技術をストイックに突きつめる、その木桶の文化をワークショップや本の執筆などでうまく伝えていくのが職人の宮﨑君、と3人の役割を明確にしました。そして昨年、木桶の製造・修理を行う木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」を立ち上げたのです。

すると、ほどなくして大桶の注文が舞い込んできました。その時、「あ、動いた」と。3人の想いを形にすることで、いよいよ進んでいくんだという実感が持てましたね。

木桶の使い方やメンテナンス法、文化などを伝える場所として、きしな屋2号店をせんばにオープン

きしな屋せんば店の様子 ※きしな屋木桶部 Facebookページより
きしな屋せんば店の様子 ※きしな屋木桶部 Facebookページより

その後、「そこからもう一歩踏み込みたい」、そう考えて、原田君は各都道府県に一人ずつ桶職人を誕生させるため、弟子を取り始めました。また、自分の店である「きしな屋」も、最初は枚方市の1店舗のみだったのですが、木桶のことを多くの方に知って欲しくて、大阪市船場に2店舗目である「木桶とご当地うまいもの きしな屋 大阪せんば店」を出店しました。そこで、食品関連の販売と合わせて、木桶のワークショップなどを定期的に開催しています。

船場は、大阪市のど真ん中にある日本有数の問屋街です。家賃も高いですし、食品だけを扱ったほうが売上もいいのですが、せんば店では店内に入った途端、木桶がいっぱい置いてあります。たぶん、木桶を推している店は、うちの他にはないと思いますよ(笑)。最近では、発酵に興味があるというお客様も多く、木桶仕込みの醤油や味噌をディスプレイしている大きな木桶をバックに写真を撮る方もいらっしゃいます。

きしな屋2号店は、木桶について発信する場所、みんなが集ってご縁を結ぶ場所でありたい

木桶職人復活プロジェクトがメディアに取り上げられたり、食に関して意識が高い方々も多く、木桶について徐々に知られるようになってきました。でも、その使い方やメンテナンス法、文化などを正確に伝えられる場所がない。そこで、きしな屋が機能したい、と。儲けよりも、ちゃんと木桶について発信する場所、みんなが集ってご縁を結ぶ場所が「きしな屋」でありたい、そう思っています。

「結い物で繋ぐ会」をLLP(有限責任事業組合)として立ち上げ、活動や仕組みの見える化に取り組む

また、「そこからもう二歩目を踏み込みたい」、そう考えて、自分たちの活動の仕組みそのものの見える化に取り組んでいます。そのために、「結い物で繋ぐ会」はLLP(有限責任事業組合)(※)として立ち上げました。
LLPとは、株式会社や有限会社などと並ぶ新たな事業体です。構成員全員が有限責任で、損益や権限分配の自由決定など内部自治が徹底されるメリットがあり、企業同士はもちろん、産学連携、専門人材同士など、様々な共同事業がしやすくなるのです。

(※)有限責任事業組合(LLP) – 経済産業省

「結い物で繋ぐ会」は、売り方、伝え方、造り方までを残す会を目指す

会社にしたり個人のままだと、やっぱり外からは何がどうなっているのか見えにくい形にならざるを得ない。「結い物で繋ぐ会」は、利益を残さない会。その代わりに、お金の仕組みや営業の仕方、売り方、伝え方、造り方までを残す会でありたい。内容は違っても、同じような仕組みで何かをやりたい人が出てきたときに参考にしてもらえたら、と思っています。

何かをやりたい人たちが増えること、そのために仕組みを造るのも自分たちの役目。でも、これは一人では絶対にできないことで、原田君、宮﨑君と自分の3人がいて初めて見えてきたことなのです。

寒い時期には木桶を造る、暑い時期には木桶を伝える。そんなサイクルで木桶ワークショップ全国ツアーをやりたい

食のセレクトショップ「きしな屋」「結い物で繋ぐ会」代表 岸菜賢一さん

ありがたいことに、木桶の発注や、「自分の町でも木桶の出張ワークショップをやって欲しい」というオファーがたくさんあります。今後は、「やりたい!」という声が集まって繋がったら、全国ツアーを組みたいと思っています。
食品を取り扱っていると、どうしても夏場は盛んに動けません。また、木桶造りも、使用する杉の乾燥なども考えると夏は作業に適していない。そういう、食品も木桶も活動が緩やかになる夏場にツアーをやりたいです。
寒い時期には木桶を造る、暑い時期には木桶を伝える、そういった効率のいい循環型のサイクルで活動する仕組みも、どんどん実践して見える化していきたいですね。

昨年は各地の醤油屋さんと木桶を造り、その後イベントやワークショップを行い、携わったみんながハッピーに

2017年10月、足立醤油株式会社(兵庫県)さんにて「木桶職人復活プロジェクトin兵庫」と題して味噌用の仕込み桶を2本新調※結い物で繋ぐ会オフィシャルサイトより
2017年10月、足立醤油株式会社(兵庫県)さんにて「木桶職人復活プロジェクトin兵庫」と題して味噌用の仕込み桶を2本新調
※結い物で繋ぐ会オフィシャルサイトより

去年も、兵庫県の足立醸造さん、埼玉県の弓削多醤油さんと笛木醤油さん、佐賀県の丸秀醤油さんで木桶を造らせてもらいました。
原田君のお弟子さんも入れて4人で現地に入って、醤油屋さんと一緒に木桶を造る。でも、それだけではもったいないので、木桶造りの期間中に地元の方を集めて、木桶のイベントやワークショップを開催しました。参加いただいた地元の方々に地元の醤油屋さんのことや木桶のことを知ってもらえて、醤油も買って帰ってもらって、イベントは大盛況。木桶を通じて、参加者の方も、醤油屋さんも、自分たちも、携わった人たちみんながハッピーになる、そんな活動をしていきたいと思っています。

「結い物で繋ぐ会」で、日常の生活に木桶のある懐かしくて新しい日本の風景を造っていきたい

木桶は、3人いないと造ることができません。「結い物で繋ぐ会」の結い物(ゆいもの)とは、板を円筒状に並べて竹などで締め、底板を貼って造る木製品のことで、木桶もそのひとつです。木桶を造る原田君、木桶を伝える宮﨑君、そして木桶の営業と会をマネジメントする自分、この3人の力を結い物のように組み上げることで、日常の生活に木桶のある懐かしくて新しい日本の風景を造っていきたいです。

きしな屋

食のセレクトショップ きしな屋
きしな屋 Facabookページ
きしな屋 大阪せんば店Facabookページ
きしな屋木桶部Facabookページ

結い物で繋ぐ会

結い物で繋ぐ会
司製樽
桶光

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