炭水化物の摂取を減らそう!という声が聞こえる機会も増えましたね。とは言うものの、炭水化物は私達が必要とするエネルギーの貴重な源であり、糖は身体を活動的に保ち、脳を冴えさせるのに有効です。そして、炭水化物であるパンのほとんどは発酵しています。
また、ベーグル発祥地・ポーランドでは、その丸い形が妊婦さんに出産と長寿をもたらすという言い伝えもあったのだとか。
合わせて、大隅良典氏がノーベル生理学・医学賞を授与された「オートファジー」の研究に酵母が使われたことも記憶に新しいですよね。そのことから、パン作りに関する発酵の工程についてお話するのにぴったりだと感じました。
この記事では、ベーグルとその歴史と品種に焦点を当てます。
焼きたてのパンへの12のステップ
パンを作るうえでの12段階です。2回の発酵が必要です。
1.材料を量る
2.混ぜる
★3.一次発酵
4.捏ねる(またはパンチする)
5.分割する
6.丸める
7.ねかせる
8.成形して天板に並べる
★9.二次発酵
10.オーブンで焼く
11.冷ます
12.保存
パン作りにおいて、生地が発酵するとふくらむことが知られています。この段階で、酵母はデンプンと糖を二酸化炭素とわずかな量のアルコール、ならびに酢酸および乳酸に変換します。発酵段階が長びくほど、酸はより効果的になります。 それに加え、発酵環境が低温であればあるほど、最終的にできあがったパンが長持ちするだけでなく、より深い味になります。 その後、次の工程で捏ねることによってグルテンが生成されます。 やり過ぎると生地は堅くなり、高密度のパンになってしまいます。このことから、一般的に生地を二段階においてねかせること、いわゆる一次発酵と二次発酵が必要不可欠です。
ベーグルは、ポーランドから世界へ
ベーグルの発祥地はポーランド。1610年の記録では妊娠中の女性が食べていたと伝えられており、その丸い形は出産と長寿に幸運がありますようにとの願いを表すものと考えられていました。ベーグルは当時、トルコ侵略者を敗北させるのに成功したポーランド王、ヤン3世ソビェスキに贈られた、と伝説ではそのように伝えられています。
しかし、ベーグルの形をしたパンは、古代エジプトやシリアの作品にも見られます。ドイツからのポーランドへの移住者は、プレッツェルブラットと呼ばれるパンを持って行ったことが確認されています。
それは、スーパーで見かける袋入りのパンとは異なり、ベーグルにとてもよく似た密で噛みごたえのあるパンです。
ベーグルは14世紀のこの時期に、当時の女王であるヤドヴィガ女王によって初めて、『オブヴァジャネック』という名前で書面に記され、レントと呼ばれる四旬節で食べられた、というまた別のベーグル誕生ストーリーも生み出されています。当時の農民が食べていた固いライ麦パンではなく、白く精製された小麦粉が使われたため、貴族と上流階級層しか手に入れることができませんでした。
ベーグルの北米における歴史
ベーグル、またはプレッツェルブラットの独自性は、その発酵プロセスにあります。
一般的に他のほとんどのパンより酵母の比率がかなり高く、および麦芽を含むことが多いうえ、生地を力強く捏ねる工程によって、短時間でふくらませた生地をねかせる段階で、突然重炭酸塩入りの湯で沸騰させることによって発酵を中断させます。
「オブヴァジャネック(obwazanek)」という言葉は、ポーランド語の『湯通しする』から派生した言葉ですが、湯通しすることにより、内側はもっちりとやや粘り気があり外側はサクッとした食感で、焼くと深みのある茶色になります。
この外側の仕上がりが日持ちや保存に役立ち、硬くなったパンをスープやお茶に浸せば素晴らしい食感に戻すこともできます。
現代の、特に北米のベーグルは、ユダヤ人の人口と関係しているとも言えるでしょう。実は何十世紀も前のヨーロッパでは、ユダヤ人がパンを焼くことを禁じていました。
キリスト教会においてパンは、礼拝での重要性が成立していた一方で、ユダヤ人は教会に対する反対派と見られており、ユダヤ人がこっそりパンに毒を盛る可能性があると疑いはじめたキリスト教司教が、パンやお菓子などを焼く前に湯通しすることを命ずる法令を定めたのです。
この背景にこそ当時すでに受容的な国だったポーランドの存在がありました。ポーランドのボレスワフ王子は、ユダヤ人が他のヨーロッパ人と同じようにパンを焼くことを許していましたが、13世紀当時とても宗教的な欧州大陸の中でその寛容さが故にかなり非宗教的と見られていたポーランドに対抗して、欧州の教会ではこのような決まりができたのでした。
穴の空いたベーグルが旅をする
初期の芸術作品に、旅行者がベーグルの穴にひもを通して運んでいるのが見られます。 前世紀の初めまでに、大多数のヨーロッパ系ユダヤ人が、北アメリカの東海岸に大移動しました。少数の正統派ユダヤ人以外、ほとんどの住民はその他の人口に溶け込むことを望んでいました。 1900年代初期までには、東ニューヨークに数十のユダヤ人経営のパン屋がベーグルを生産していました。
そして戦後。
このほとんど知られていなかったパンが大ブレイクしました。ベーグルは女性誌で紹介され始め、より速いペースで生活する忙しいビジネスマンにとって気軽に楽しめるファーストフードとして大人気になりました。冷凍庫が家庭に普及し始めると、人々はベーグルが他のパンと違って、解凍されたあとも風味を損なわないことに気づいたのです。
カナダのモントリオールはユダヤ人にとっても関係性が深く、ベーグルの食文化が有名にもなりました。燻製肉やプーティンと並んで、ベーグルが食の要と言えるでしょう。
おもしろいことに、お隣のアメリカ・ニューヨーク式のベーグルに質感こそ似ていますが、モントリオール式のベーグルは卵と少量の砂糖を入れて、少し甘みと柔らかみのある食感が主流になっています。
スモークサーモン、クリームチーズ、サラミ、チーズ、メープルシロップなど。
ベーグルサンドは何でもうまく包み込み、たとえ満員電車に乗って持ち歩いたとしても、形が崩れずに見栄えの良いままでいてくれるランチとしてありがたい存在です。
元記事/Bagels Are a Perfect Fit For Life On the Go
翻訳/haccola編集部