コラム

2016年10月22日

小泉武夫先生の発酵生活

ご実家が造り酒屋で、お酒をはじめ、味噌も醤油も自家製。文字通り「生まれた時から発酵食品に囲まれていた」小泉武夫先生。今は定番になりつつある塩麹も、小さく頃から食べていたそうです。
小泉先生が好きな発酵食品やお気に入りのお店など、小泉先生の「発酵生活」についてお聞きしました。

小泉武夫先生の発酵生活:haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」

大好きな発酵食品、代表選手は納豆

・造り酒屋では納豆はタブーだった。いまは毎日、欠かさない。
・海外の民族調査で私以外は全員下痢に。私は「納豆に救われた」
・納豆のオリジナルレシピも数多く編み出した

納豆_小泉武夫先生の発酵生活:haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」

実家が造り酒屋でお酒だけでなく、味噌も醤油もつくっていました。生まれた時から発酵食品に囲まれていて、今流行りの塩麹も小さいころから食べていました。お酒をつくるには米麹が不可欠です。米麹に塩を加えたものを「塩麹」と言います。塩を加えると一年中持ちますから、鶏肉を柔らかくするのに使ったり、ほぼ毎日食べていました。

発酵食品はすべて大好きですが、まず最初にひとつあげるとすると、納豆ですね。実は造り酒屋では、納豆を食べてはいけないのです。どこの造り酒屋でもそうです。

納豆菌は繁殖力が強いうえに、煮沸しても死にません。納豆菌が酒づくりをする蔵に入ったら、米に納豆菌が入って、「すべり麹」と呼ばれる、ヌルヌルした麹ができてしまうと考えられていたのです。造り酒屋にとって納豆はタブー。でも、実はそんなことはあり得ません。米に納豆菌は生えませんからね。

同級生の家が魚屋さんで、隣の隣にありました。この家では毎日、納豆を食べていて、私も遊びに行って時々ご飯をごちそうになると納豆が食べられました。その納豆が美味しくて、美味しくて。

家で納豆を食べられるようになったのは、小学2年生くらいの頃です。酒蔵の奥に離れがあって、そこでなら食べていいことになりました。それからですね、朝も晩も納豆。今朝も食べてきました。

納豆には「救われた」経験もあります。昔、カンボジアの山奥に民族調査に行きました。高地クメール族という山岳民族です。そこで豚の肝臓のなれずしを振る舞われたのですが、一緒に行った4、5人は全員強烈な下痢に襲われました。でも、私ひとりだけ平気、なれずしを一番食べたのに何ともない。

なぜかというと、私はどんな旅行にも「乾燥納豆」を持って行きます。乾燥納豆にはものすごい数の納豆菌がいますから、腸の中で腐敗菌をやっつけてくれた。それで下痢にならなかったのだと思います。

納豆は毎日ご飯にかけて食べています。古来、日本人は肉を食べない代わりに、大豆を食べてスタミナを摂ってきました。しかもグルタミン酸が多いから、すごく美味しい。食欲は出るし、醤油やご飯と相性がいいし、生卵、ネギ、鰹節、いろいろなものと合います。オリジナルレシピもいろいろ考えましたよ。

くさや、鮒ずし、漬物、塩辛、チーズ、味噌。順番はつけられない。

・立川談志さんとくさやを食べに行った。
・鮒ずしは、魚のチーズ。
・最後の晩餐は、白菜の漬物をご飯に巻いて。

発酵食品_小泉武夫先生の発酵生活:haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」

次に好きなのは、くさやです。くさやを作っている島には何度もいきました。一番多いのは新島です。夜、竹芝桟橋から船に乗ると、翌朝の9時には新島に着きます。船着場のすぐ隣が波かぶりの露店風呂になっているので、着いたらまずひと風呂浴び、それから前田さんというくさやづくりのお店に行きます。

今、集合住宅では、くさやを焼けないところもあるそうです。非文化的なことで悲しいですね。

くさやは、ムロアジを発酵した汁に何度も何度も漬けます。ムロアジはもともとそれほど美味しい魚ではないのですが、汁に漬け込むことでどんどん美味しくなります。

都内で美味しいくさやが食べられるのは、神田明神の近くにある「左々舎」さんです。以前は立川談志さんとよく行きました。彼もくさやが大好きでしたね。

3番めは、鮒ずし。鮒ずしはすごいですよ。ニゴロブナのエラから針金をいれて、卵巣以外の内臓を取り出して、ご飯と塩の中に漬け込みます。

古来、日本には牛乳がなかったので、チーズもありませんでした。でも魚はあった。両方とも動物性タンパク質で、乳酸菌で発酵します。だから私は鮒ずしを「魚のチーズ」と呼んでます。大好きなのですけど、最近は高くなりましたね。いいものだと、1匹3万円くらいします。

美味しい鮒ずしを食べさせてくれるのは、滋賀県長浜市余呉町にある「 徳山鮓(とくやますし)」さん。私の弟子と言ってもいいお店で、発酵食品の名店として、雑誌やテレビにもよく出ています。

ここまでの3つに共通しているのは、くさいこと。独特の香り、発酵した匂いがあることです。「くさいは、美味しい」です。

それから漬物も欠かせません。特に白菜漬けがいいですね。一番好きな漬物屋さんは、群馬県渋川市にある「針塚農産」さん。ここの漬物は比類がないくらい美味しいですよ。自分たちで無農薬で野菜をつくって、麹も自分たちでつくり、その野菜と麹で漬物をつけています。年に何回か、都内のデパートの催事にも来ますが、長蛇の列。幻の漬物ですね。

白菜漬けには、お気に入りの食べ方があります。葉っぱの方にお醤油をちょんとつけて、炊きたてのご飯にくるくると巻いて食べる。たまりませんね。これは、私の最後の晩餐の3つのうちのひとつです。

漬物は、どんな漬物も好きですね。辛子漬け、奈良漬、ぬか漬け、キムチ。どれも素晴らしい発酵食品です。

あとは、海の発酵食品も好きです。塩辛類ですね。イカの塩辛、このわた、めふん。めふんは鮭の背骨にある腎臓の塩辛です。札幌に「佐藤水産」さん。ここのめふんは絶品ですよ。

チーズも好きです。フランスのコンテチーズ。コンテの3年ものくらいが一番美味しいと思います。サイコロ状に切って、ワインと一緒に味わうのがいいですね。

味噌も、1日中、欠かしません。夏は前の日に作った味噌汁を、朝、冷たいまま飲むのがいいですね。朝、味噌汁を飲まないと、不安な感じになるくらい好きです。味噌汁のほかに、魚の味噌漬けも大好きです。

一番好きな発酵食品は「お酒」

・若い頃の武勇伝は数えきれない。
・日本酒で肌がキレイに
・発酵食品は、究極の自然食品

酒_小泉武夫先生の発酵生活:haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」

最後に一番好きなものをいうと「お酒」です。若いころの武勇伝はありすぎるくらい。今でも日本酒なら2合〜2合半、ビールはジョッキで5杯、ウイスキーならダブルで5、6杯、ワインならひとりで1本あけます。

オススメはやはり日本酒。酒の肴は、お酒との相性はもちろんですが、カラダにいいものを選びます。私は70歳を過ぎていますが、肌はピカピカ、頭の毛もフサフサでしょ。すべて発酵食品のおかげです。

以前、初代の若乃花が「最近の相撲取りは、ウイスキーばかり飲んでいるから肌が良くない。昔の相撲取りは、日本酒を飲んでいたから肌がすべすべだった」と言っていたそうです。

私の祖母もお酒をもとに「美人水」というものをつくっていました。福島の山の中は冬はとても寒く、女の人は皆、ひどいあかぎれやしもやけになっていました。祖母はそれを見かねて、お酒にグリセリンやゆずなどを入れて化粧水のようなものをつくっていた。大変喜ばれたそうです。

発酵食品の素晴らしいところは、すべての食物の中で「究極の自然食品」であることです。何も添加しないでできる。ヨーグルトは牛乳に乳酸菌を入れるだけ。納豆は茹でた大豆を稲わらの中に入れたらできる。味噌も麹と塩と豆でできる。なんの添加物も入らない。素晴らしい食べ物です。

私は発酵食品に本当に感謝しています。まず何よりも発酵食品は美味しくて、食欲を湧き出させてくれます。そしてカラダにいい。私にとっては、なくてはならないものです。そして発酵食品を研究することで、本を40冊も書くことができ、「発酵」の世界を多くの人に知らせることができました。

これからも毎日欠かさず、発酵食品を食べていきます。

文中に登場したお店

くさや

左々舎

東京都千代田区外神田2-10-2
TEL 03-3255-4969
http://www.dobocho.com/1/sasaya.php

鮒ずし

徳山鮓

滋賀県長浜市余呉町川並
TEL 0749-86-4045 FAX 0749-86-4050
http://www.zb.ztv.ne.jp/tokuyamazushi/

めふん

佐藤水産株式会社

札幌市中央区宮の森3条1丁目
フリーダイヤル0120-813-105
http://www.sato-suisan.co.jp/

小泉先生オススメのお店

豊年萬福

日本の食をテーマにした文化情報発信型飲食店。
日本各地の発酵食品が楽しめるほか、小泉先生が厳選したこだわりの商品や小泉先生が塾長を務める〈日本橋室町 豊年萬福塾〉が開催されています。

東京都中央区日本橋室町1-8-6
TEL 03-3277-3330
http://www.hounenmanpuku.jp/

奈加野

渋谷のセンター街にある老舗の居酒屋。小泉先生とのつきあいは20年以上。名物は「鯖押し寿司」。厚みのある鯖と昆布、すし飯のバランスが絶妙です。

東京都渋谷区宇田川町31-3 田中ビル2F
TEL 03-3476-1787

美酒和膳 ひがし中野しもみや

日本各地のとっておきの日本酒・焼酎約120種が楽しめるお店。店主の下宮さんは、東京農業大学醸造学科出身。小泉先生の教え子のひとり。醸造を知り尽くしているので、お酒も酒の肴も絶品。

東京都中野区東中野1-52-18 クワハウス1階
TEL 03-3363-7878
http://www.shimomiya.jp/

自然食の店「まほろば」

北海道・札幌にある自然食の店。めったに手に入らない本物だけが置いてある。本当に自然食品が好きな人が行くお店。

本店
札幌市西区西野5条3丁目1-1
TEL 011-665-6624
http://www.mahoroba-jp.net/

小泉武夫

小泉武夫

1943年福島県の酒造家に生まれる。 東京農業大学名誉教授。農学博士。専攻は食文化論、発酵学、醸造学。 現在、鹿児島大学、琉球大学、広島大学大学院医学研究科、石川県立大学ほかの客員教授を務める。 特定非営利活動法人発酵文化推進機構理事長。全国発酵のまちづくり協議会長。全国地産地消推移新協議会会長(農水省)、「和食」文化保護・継承国民会議委員(農水省大臣官房)、食料自給率向上協議会会長(農水省大臣官房)など、食に関わる様々な活動を展開し、和食の魅力を広く伝えている。 著書に、『食あれば楽あり』(日本経済新聞社)、『発酵食品礼賛』(文春新書)、『食と日本人の知恵』(岩波現代文庫)、『食の世界遺産』(講談社)、『江戸の健康食』(河出書房新社)、小説『夕焼け小焼けで陽が昇る』(講談社文庫)、『猟師の肉は腐らない』(新潮社)、『幻の料亭・日本橋「百川」黒船を饗した江戸料理』(新潮社)など単著は140冊を超える。日本経済新聞に連載の「食あれば楽あり」は現在24年間にわたり連載中。丸ごと小泉武夫 食マガジン  NPO法人発酵文化推進機構

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