パン

2017年08月15日

サワードウ、あなたのパンを膨らませる最良の方法

サワードウと聞いて思い浮かべるのは、茶色いずっしりとしたパンの塊ではないでしょうか? サワードウはパンの種類ではなく、食パン、丸パン、ロールパンまたはフラットブレッド(穀粉、水と塩を混ぜてパン生地を作り、それを平らにのばして焼いて作られるシンプルなパン)などのパン種です。サワードウは、少なくとも30世紀以上前から、パン生地を発酵させる最古の方法として用いられてきました。これは、世界の身近な酵母文化です。

サワードウ、あなたのパンを膨らませる最良の方法

私たちが今、「酵母」と考えているものは、シンプルかつ上手く設計されたモノカルチャーとも言えます。5000年も前の古代エジプト人は、酵母を使ってパンを発酵させていました。彼らはプロセスの背後にある科学に注目し、それを奇跡と考えました。その地域では当時も今もフラットブレッドがパンの王様です。
そしてもちろん、マッツァ(matzo)、ボラニ(bolani)、ユフカ(yufka)、クスティビ(quistibi)など、種なし、つまり、発酵されていない平らなパンのメドレーも、食事の付け合わせとして未だ存在しています。

しかし、発酵したパンは現在、世界中の大半の人々の食生活の主流になっています。ふわふわで噛み応えのある分厚いパンのひと切れは、何にも勝る食感であり、食事の仕上げとしてとても優良で、食欲を満足させる方法であることは間違いありません。言うまでもなく、美味しいパンでお皿に残ったソースを拭くように食べるのはみんな大好きですよね。

パン生地を発酵させるプロセスは少なくとも、エジプト時代のスカンジナビアのパン屋と同じくらい前に遡ります。遠くの北部から現代のフランス、ドイツ、ベルギー、スペインのバスク地方まで、サワードウの伝統は、我々が知る現代のヨーロッパが始まる前の、国境が定かではないような時代から始まった多くのパンの基準として続いています。

それはふたつの経路で起こった “新しい世界”への旅でした。フランス人とバスク人の探鉱者達は、ゴールドラッシュ時にサンフランシスコ地域にサワードウを持ち込み、北ヨーロッパの移民達は東海岸に到着し、東西どちらでも、ずっしりしたライ麦パンを焼いたのです。

バーム(Barm)、中間のもの

ビールとワインの生産過程で出る副産物、泡状の酵母「バーム(Barm)」。10世紀頃のヨーロッパでは、パンの発酵剤としてサワードウに使われてきましたが、すでに1世紀頃にはイベリアとガリアでのパン製作に初めて使われていたと言われています。
純粋かつ均一に培養した上で計量が必要で、維持が難しいこと、もっとシンプルにいえば扱いにくくて面倒だったのでしょう、現在ではほとんど使われていません。しかし、長い間使われていた事実に触れる価値はあります。
例えば修道院。多くの修道院では手作業で醸造を行っていたため、ワインやビールの残りかすを使ってパンを発酵させ、主にライ麦と大麦を使って中身の詰まったずっしりとしたパンを作っていました。この酵母は「出芽酵母」と言い、中央および東ヨーロッパではあまり人気がありませんが、英国では比較的広く使用され、「醸造用酵母」として知られています。

ルイさん、低温殺菌が必要でしたね

1857年にサワードウの棺に最後の釘が打たれたのは、低温殺菌を意味するパスチャライズで有名になったルイ・パスツール氏が、アルコール発酵の重要な要因として酵母を分離することに成功したため。この発見により、「醸造用酵母」よりもはるかに安定した「パン酵母」という単一菌株のイーストが、現在も商業的に量産されているすべてのパンの世界標準となったのです。

サワードウは野生的で自由の象徴

サワードウは野生的で自由の象徴

サワードウは野生の酵母胞子と乳酸菌から生まれました。スプーン一杯のサワードウに5千万の酵母と50億の乳酸菌(微生物)が含まれています。乳酸菌が、糖を乳酸および酢酸に変えるため生地に酸味が増し、Phが低下します。Phレベルによってかなりの微生物は殺菌され、耐酸性酵母だけが糖を二酸化炭素とエタノールに変換しながら生き続けます。
活力があり、湿度や温度の変化に敏感な麹菌のように、また、「On the Crunchy Side, Nukazuke Delivers Next Day Pickles」で紹介したぬか床のように、発酵によって彼らは長い間腐らずに生き続けるのです。
当時は、最初の生地で作業した人の手によって、パン種が生み出されたと考えられていたそうです。これもまた、ひとの手によってぬかが少しずつ変わるのと共通していますね。

サワードウのパンは1日でも作ることができますが、一般的に2~3日間生地を休ませるのがベストです。パンの生地に加える穀物の重量が重いほど、より長く発酵時間を取る必要があります。サワードウの素晴らしい側面のひとつは『前消化』。酵母が乳酸菌とともにデンプンを分解することによって、そのパンを食べた人が消化しやすい状態にしてくれることです。
実際、イーストで作られた一般的なパンで消化不良を感じる多くの人々は、サワードウで焼いたパンなら楽しむことができるのです。イーストのパンに含まれるフィチン酸は、消化吸収を妨げるという一説もあります。そう考えると、実際多くの人は小麦のグルテン過敏症ではない、かもしれないと考えられます。

人間の文明と同じく、パンの文化もダイナミック、パンの味と質感は環境の変化によっても変わってきました。もちろんパン屋さんの手法も大きく変化します。
小麦粉、種、調味料の選択は、パンの味だけでなく質感にも影響し、小麦に対するライ麦や麦の比率が高いほど、(パンをフワフワにするためには)発酵時間を長く取り、生地を寝かせる必要があるのです。

シェア。共有。似て非なる繊細なもの

シェア。共有。似て非なる繊細なもの

1980年代。私が子供の頃、少なくともWiFiの心配をする必要がないシンプルな時代、ちょっとしたマイブームが自家製のサワードウを使った『ともだちパン』でした。私の叔母からの種と、フィンランド人とウクライナ人のお隣さんからの二種類の種を使用しました。しかし子ども時代のわたしは大体、パンにはピーナッツバターをたっぷり塗るか、メープルシロップに漬け込むようにして食べていたため、二種類のサワードウの繊細な違いにはほとんど気付きませんでしたが。

サワードウを育てる方法はインターネットで多数紹介されており、調べてみる価値があります。実際には、全粒粉の小麦粉と水を混ぜ合わせて置いておき、3〜4日間は毎日同量ずつの水と小麦粉を加えます。それが泡立ち、微かな酸味のある良い香りを帯びるまで置いておくだけ。簡単です。ここから、パン一斤分を発酵させるのに使う大さじ2杯分を取り出します。

もちろん、商業的に利用可能なサワードウ種は広く入手可能です。良い種は最も古い小売業者、サワードウ・インターナショナル(Sourdoughs International)でたくさんの品種から選ぶことが可能です。

サワードウは良いことづくめ

そしてもちろん、サワードウの健康メリットにこそ注目すべきです。
先ほども書いたように、近年グルテンフリーという言葉で度々話題になるパンの消化不良は、イースト菌で発酵させたパンに含まれるフィチン酸から来るという説もあります。イーストと異なり、サワードウは消化が容易でカルシウム、亜鉛、マグネシウム、カリウムなどのミネラルを増やす乳酸を多く含みます。同様に、ビタミンEおよびB(B1〜B6およびB12)チアミン、ナイアシン、葉酸、リボフラビンを多く含んでいるのです。

サワードウは万能!?

サワードウはパンそのもののことではなく、発酵を導くものを意味しています。日本でいう「お酒」がアルコール飲料全般を意味するのに対して、西洋でいう「Sake(酒)」は日本酒を指していることが多いのと似ています。
サワードウは様々なパンを発酵することができます。トルティーヤの皮であれ、英語でブロッツと発音されるドイツのずっしりとしたライ麦パンであれ、ベーグルやホットドッグのパン、フォカッチャ、ピザクラスト、または発酵を促進させ、膨らます必要があるものは何でも、どんなサンドイッチも、一層おいしくなります。
ただ、少しだけ長く時間がかかるということは忘れずに。サワードウはガスをゆっくりと放出するため、酵素がデンプンを分解するのに時間がかかり、発酵時間も長め、しかしそれによって結果としておいしいパンが仕上がるのです。

元記事/Sourdough, the Best Way to Raise Your Bread
翻訳/haccola編集部

キャメロン・オア

キャメロン・オア

圧倒的な大自然が代名詞とも言えるカナダに生まれ、世界中の移民が文化を作りあげる大都会、トロントで育つ。ひとつの街で世界の食を体験できる多様性豊かなトロントは、移民たちが安くとも本格的な飲食店をあちこちで繁盛させ、新鮮な市場や最高のスパイスに恵まれたキッチンカー達がストリートを活気づける街。幼少期はすでにクラスメイトの家で各国の家庭料理を食べ、学校では友達とお弁当を交換するなど、めくるめく味と香りを素直に楽しむ純粋な食への好奇心は現在でも変わらない。食べたものが体になるという言葉通り、自らの体は間違いなくアジア、ヨーロッパ、アフリカ、中東、カリブ海の食べ物でできている。 現在は高品質な食材に恵まれた街、東京に暮らす。なぜか似て非なる日本食が海外で一般化していくことを否めない中、本物の和食材が気軽に手に入る環境に感謝する日々。日本料理はもちろん、自ら慣れ親しんで育った多国籍料理も全て「発酵食品」が大切な食材であることに気づいて以来、発酵食品を楽しむことこそが食文化体験である、という信念を柔らかに広めている。

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