チーズ

2018年08月17日

カマンベールチーズの歴史・作り方・健康作用から、食べ方・食べ頃・保存法・マリアージュまで

世界中にファンを持つ、木箱に入ったカマンベール・チーズは、フランスのノルマンディー地方カマンベール村がふるさと。今も伝統的な製法で手作りされるナチュラルなカマンベール・ド・ノルマンディーを作り続ける農家、カマンベール村の「フロマージェリー・デュラン」を訪問し、カマンベール・チーズの作り方、食べ方、魅力を教えていただいてきました。

ノルマンディー地方で作られた「カマンベール・ド・ノルマンディー」
ノルマンディー地方で作られた「カマンベール・ド・ノルマンディー」

カマンベールチーズの歴史

まずは、カマンベールチーズの歴史や発展の経緯をご紹介します。

カマンベールチーズの最初の作り手は、ノルマンディー地方カマンベール村の農婦マリー

カマンベール村付近のヴィムティエの町に立つマリー・アレル像
カマンベール村付近のヴィムティエの町に立つマリー・アレル像

時はフランス革命、パリ郊外のブリー地方からイギリスを目指して逃げてきた聖職者が、ノルマンディー地方カマンベール村に身を隠していました。その時、彼が農婦マリー・アレルに、ブリー地方の白カビチーズのレシピを教えたのだそうです。その後、マリーはブリー・チーズより、ずっと小さい円盤状のおいしい白カビチーズを作ることに成功。
こうして1791年に誕生したとされるカマンベール・チーズは地元の市場で大評判になり、レシピはマリーの子孫に受け継がれていきました。

ナポレオン3世に気に入られ、パリのチュエルリー宮へも献上されたカマンベールチーズ

人口200人ほどのカマンベール村
人口200人ほどのカマンベール村

ある日、パリとノルマンディーの海岸を結ぶ鉄道を建設するため、この地方を訪れたナポレオン3世にカマンベール・チーズを差し上げたところ、大変気に入られ、以来、パリのチュエルリー宮へも献上するほどになったそうです。

ノルマンディー地方の3大チーズ 、カマンベール、ポン・レヴェック、リヴァロの中でもカマンベールチーズがスターに

1855年に開通した鉄道はパリまでの道のりを大幅に短縮し、ノルマンディー地方の3大チーズ 、カマンベール、ポン・レヴェック、リヴァロが、パリの市場でも売られるようになり、チーズ作りはますます盛んに。1890年に丸い木箱も誕生し、型くずれなく輸送されるようになったカマンベール・チーズは、ノルマンディー産チーズのスターになりました。

カマンベールチーズの違い

一言で「カマンベールチーズ」と言っても、様々な違いがあります。ここでは、カマンベールチーズの種類や違いをご紹介します。

フランスの「AOP(原産地名称保護)」とは?

フランス人が誇りにするワインやチーズ、多くの農産物には村の名前が付いており、味と質を保証する伝統製法は、その村の文化であり、大切な知的財産。そこで、そのテロワール(※1)の伝統を保護するために、1935年、原産地名称保護(以下AOP(※2)。当時AOC。2012年から欧州連合規格AOPに統一。)ができました。400種類以上あるフランスのチーズのうち、約50がAOPで保護されています。

(※1)テロワール(Terroir):「土地」を意味するフランス語から派生した言葉。ワイン、コーヒー、茶などの「生育環境」ともいうことができる。
(※2)AOP(アペラシン・ドリジン・プロテジェ / Appéllation d’Origine Protégée):伝統的な製法で作られた質の高い食料品を広く一般の消費者に知ってもらうために作られたフランスの制度AOC(アペラシン・ドリジン・コントロレ / Appéllation d’Origine Controlée)に倣って、1992年に生まれた欧州連合で設定された原産地保護呼称。
参考文献:I.N.A.O.(国立原産地名称研究所) ホームページ

AOPカマンベール・ド・ノルマンディーと他のカマンベール、どこが違うの?

昔から大ヒットしたため、「カマンベール」は一般名詞として扱われてきましたが、「ノルマンディーの」という冠つきで、1983年にAOP登録されました。この国の原産地呼称委員会による次のような規定に沿って作られていないと、AOPカマンベール・ド・ノルマンディーと名乗れないことになっています。

最低一年のうち6ヶ月間牧草を食べて育った、最低50パーセントのノルマン種牛から搾られた低温殺菌されていない生の牛乳を原料とし、発酵させた凝乳は、ルーシュと呼ばれる柄杓で5杯、同じ時間差で型に入れ、乳清を放出させる。直径10.5から11.5センチ、高さ3センチの円柱形、250g以上…

など詳細にわたります。(2021年から、変更の予定)
※参考文献:Cahier des charges de l’appellation d’origine « Camembert de Normandie »

AOPカマンベール・ド・ノルマンディーの特徴

カマンベール・ド・ノルマンディーがAOPたる理由をご紹介します。

ノルマン種の牛乳を殺菌せず生のまま使用、濃厚な味のAOPカマンベール・ド・ノルマンディー

黒と茶色の斑点があるノルマン種の牛
黒と茶色の斑点があるノルマン種の牛

放牧に適した気候のノルマンディー地方で、高脂肪でタンパク質も豊富と評価されるノルマン種の牛乳を、殺菌しない生のまま使うので濃厚な味になります。夏は特に、牧草の香りがほのかに残る、深い味わいが特徴です。また、冬、乾草ロールを食べている間にできる牛乳を使う場合は、色も薄く、香りも減ります。

AOPカマンベール・ド・ノルマンディーは、乳酸菌をそのまま体内に摂取できる生のチーズ

牛乳を殺菌せず生のまま使用するため、チーズを柔らかくする役目もする表面の白カビが、アルカリ性に代わってアンモニア臭を放つようになると、食べにくくなる場合があります。好みの熟成度での食べごろを逃さないよう、注意しなくてはいけません。

パストライズ(殺菌)されていないため、栄養素が豊富なAOPカマンベール・ド・ノルマンディー

工場で作られる「ド・ノルマンディー」が付かない「カマンベール」の大半は、パストライズ(殺菌)された牛乳を使ったものです。比較的長期保存できるチーズですが、体に有益な栄養素も減ってしまっています。

カマンベールチーズの作り方

ラベルと同じマリー・アレルさんのイラストが描かれた看板が目印のフロマージェリー・デュラン
マリー・アレルさんのイラストが描かれた看板が目印の「フロマージェリー・デュラン」

カマンベール村にあるフロマージェリー(チーズ農家)「フロマージェリー・デュラン」で、製造者のナディア・デュランさんに伝統的なカマンベールチーズの製造過程を伺いました。

1: 搾乳する

約90頭のノルマン種牛が毎日1800リットルのミルクを生産
約90頭のノルマン種牛が毎日1800リットルのミルクを生産

ノルマン種の牛90頭から、1日2回、朝晩搾乳。1800リットルの牛乳から、1日にカマンベール800個を製造する。

2: 発酵させる

34度に保ちながら、若干の脂肪成分を調整したあと、仔牛のレンネット(※)を少量生乳に加え、1時間ほど発酵。

※レンネット:牛乳を固めるために使用する酵素剤

3: 容器に入れる

凝乳した牛乳を手作業で入れる
凝乳した牛乳を手作業で入れる(施設内のビデオ映像より)

凝乳した牛乳を長いナイフのようなもので垂直に切り目を入れ、プラスティックの筒に、ルーシュという柄杓を使って手作業で入れる。40分間隔で5杯ずつ入れる作業は、約4時間を要する。

4: ホエー(乳清)を放出する

4時間後、プラスティック容器の穴からホエー(乳清)が放出されて少し硬くなり、筒の下に沈んでいるものを筒ごと上下逆さにする。そして、薄い円盤状の金属を一枚ずつ乗せて重しをし、更にホエーが放出されるのを待つ。

5: 白カビを発生させる

ふんわりと白カビが覆う若いチーズが並ぶ乾燥室
ふんわりと白カビが覆う若いチーズが並ぶ乾燥室

次の日、筒を外して軽く塩を振り、白カビを吹き付ける。ここから、網棚に並べられて、温度13度、高い湿度に保たれた部屋でカビを発生させる。

6: 熟成させる

側面にも塩をつけて、チーズは数日に一回裏返され、10日から2週間ほど農家で熟成される。

7: 出荷する

パラフィン紙に包み、丸い木箱に入れられて出荷される。

詳細はフロマージェリー・デュランオフィシャルサイトのカマンベールの製造段階をご覧ください。

カマンベールチーズの食べ頃

フロマージェリー「フロマージェリー・デュラン」のナディア・デュランさんに、カマンベールチーズの食べ頃を伺いました。

カマンベールチーズの食べ頃は、製造日から30〜40日

輸送中やチーズ屋の熟成室で熟成が進み、食べごろと言われる、おおよそ製造日から30〜40日で店頭に並ぶのが一般的です。熟成したものは、中までしっかりトロトロになっています。これを「フェタ・クール(Fait à coeur)」、“真ん中まで熟成”と呼びます。また、チーズの中心が漆喰状の半熟状態は、「クール・プラトルー(Coeur plâtreux)」、“真ん中が漆喰状”と呼びます。

真ん中まで熟成した「フェタ・クール(Fait à coeur)」と、真ん中が漆喰状の「クール・プラトルー(Coeur plâtreux)」はお好みで

中身までクリーム状になった完熟状態(上)と、石膏状の中心部が無くなった直後のチーズ(下)の熟成の差は10日
中身までクリーム状になった完熟状態(上)と、石膏状の中心部が無くなった直後のチーズ(下)の熟成の差は10日

日本に持ち帰る時などは、店の人に食べる予定日と、「フェタ・クール」か「クール・プラトルー」いずれかのカマンベール・ド・ノルマンディーが欲しいと伝えましょう。

カマンベールチーズの健康効果

おいしくて体にもうれしいカマンベールチーズ
おいしくて体にもうれしいカマンベールチーズ

「健康維持に1日1切れのカマンベールを」と言われるのも納得! 認知症も予防も期待できるというカマンベールチーズの健康効果についてご紹介します。

良質なタンパク質、カルシウムが豊富なカマンベールチーズ

一般的なカマンベールチーズの総量は250g、1人分は約30gとした場合、エネルギー量は約81kcal、タンパク質は1日の摂取量の約8分の1にあたる6gを含みます。
他にも、カルシウム、リン、カリウム、ソジウム(ナトリウム)、また、妊婦や子供、妊活時にも大切な亜鉛も含んでいます。
その他、免疫力をアップさせるリタノール(ビタミンA)が54.3μg、皮膚や粘膜の健康維持を助けるB2が0.18mg、そしてアミノ酸や核酸の合成に必要な補酵素である葉酸が26.4 μg。葉酸と関連し赤血球中のヘモグロビン生成を助けるB12が、0.48μg含有する食品だというデータがあります。

参考文献:Camembert cheese, from cow’s milk, from raw milk(ANSES)

カマンベールチーズに発見された、アルツハイマー病の予防に役立つ可能性

2015年、世界を驚かせたのは、カマンベール・チーズの摂取が、アルツハイマー病の予防にも役立つ可能性がある、という日本の研究部グループ(キリン株式会社、小岩井乳業株式会社、東京大学大学院農学生命科学研究科の共同研究チーム)の発表。

この報告によると、カマンベール・チーズにオレイン酸アミドが含まれ、これがアルツハイマー病の原因となるアミロイドβという老廃物を除去する働きをする細胞、ミクログリアを活性化することが実証されたとのこと。カマンベール・チーズが脳の健康にも良い発酵食品として、大注目されるようになりました。

参考文献:カマンベールチーズから、アルツハイマー病予防に有効な成分を発見(キリンオフィシャルサイト)

カマンベールチーズの食べ方

フロマージェリー「フロマージェリー・デュラン」のナディア・デュランさんに、カマンベールチーズの食べ方を伺いました。

チーズプラトーに欠かせないカマンベール・ド・ノルマンディーは、放射線状に切り分けて

お皿やボードにチーズを盛り合わせる「チーズ・プラトー」
お皿やボードにチーズを盛り合わせる「チーズ・プラトー」

ノルマンディー地方では、お皿やボードにチーズを盛り合わせる「チーズ・プラトー」にカマンベール・ド・ノルマンディーは欠かせない存在。プラトー(皿やボード)から各自、カマンベールチーズを1/8程度づつ放射線状に切り分けて、自分のお皿にとりわけます。

カマンベール・ド・ノルマンディーはそのまま食べるのがいちばん

取材に対応してくださったナディア・デュランさんに、どのように味わったら一番おいしいか、と尋ねたところ、「もちろん、そのまま食べるのが一番です! ! 」とのこと。確かに、デュラン家が誇りにするチーズを一口頬張ると、濃厚なミルクの味、心地よい塩味、そしてノルマンディーの牧草の香りを漂わせながら、舌にゆっくりと溶けていきます。パリなどでは、バゲットのサンドイッチにバターを塗る店もありますが、バターなしの方がサンドイッチに挟まったチーズの滑らかな食感を100パーセント味わると思います。

加熱してもおいしいカマンベール・ド・ノルマンディー

更に、デュランさんは、「このチーズは熱を加えてもおいしいので、夏はバーベキューの傍らでアルミホイルに包んでプロヴァンス・ハーブ(ローズマリー、オレガノ、セイボリー、タイム、バジルなどが混ざったハーブ)をまぶして焼き、トロトロに溶けたカマンベール・ド・ノルマンディーをソースのように、焼いたお肉や野菜と一緒にいただくのも気に入っています」と教えてくださいました。

カマンベールチーズと飲み物のマリアージュ

フロマージェリー「フロマージェリー・デュラン」のナディア・デュランさんに、カマンベールチーズと飲み物のマリアージュについて伺いました。

カマンベールチーズにはりんごの発泡酒「シードル」を

地元でできる辛口のシードルの渋みとねっとりしたカマンベールの感触が美味しいマリアージュを奏でる
地元でできる辛口のシードルの渋みとねっとりしたカマンベールの感触が美味しいマリアージュを奏でる

飲み物とのマリアージュは、りんごの発酵酒、辛口のシードルをおすすめします。こちらもノルマンディーの農家でできたもので、若干渋味と苦味もある、りんごの風味が、ねっとりしたチーズと不思議なほどマッチします。りんごの薄切りや干しぶどう、クルミを添えても美味しいですよ。

カマンベールチーズは赤ワインとのマリアージュも◎

赤ワインも、良いマリアージュが期待できます。ボージョレーのグラン・クリュ、ムーラン・ナヴァンの赤ワインといただくのがオススメです。

カマンベールチーズの保存法

フロマージェリー「フロマージェリー・デュラン」のナディア・デュランさんに、カマンベールチーズの保存法を伺いました。

カマンベールチーズ専用容器「クロッシュ・ア・カマンベール」に入れて保存を

涼しい室内なら専用のクロッシュというガラスの容器に入れて保存するのがベスト
涼しい室内なら専用のクロッシュというガラスの容器に入れて保存するのがベスト

保存は冷蔵庫の野菜室で行いましょう。涼しい日なら、カマンベールチーズ専用の”鐘”と呼ばれるガラスの容器「クロッシュ・ア・カマンベール」に入れて常温保存でも大丈夫です。

カマンベールチーズは食べる1時間前には冷蔵庫から出して

食べる前1時間以上前には冷蔵庫から出して、室温にして食べるのが原則です。温度が低いと、舌にとろける食感と、牧草の香りが減少してしまいますので、気をつけましょう。

とってもおいしくて、健康作用にも優れているカマンベールチーズ、ぜひ一度「カマンベール・ド・ノルマンディー」を味わってみたいですね。

取材協力:フロマージェリー・デュラン(Fromagerie Durand)

施設名:フロマージェリー・デュラン(Fromagerie Durand)
URL:https://www.camembertdurand.fr
住所:La Heronnière 61120 Camembert France(パリから約200km)
営業時間:10:00~18:00
電話番号:02.33.39.08.08(日本からの場合:33 2.33.39.08.08)
メール:contact@camembertdurand.fr
※ショップ内での製造過程のビデオ鑑賞、農家見学は無料
※見学と試食(有料)は、20人以上のグループのみ、要予約

取材、文、写真(1/10/11枚目以外)=Tomoko FREDERIX

Tomoko FREDERIX(知子・フレデリックス)

Tomoko FREDERIX(知子・フレデリックス)

ウェブマガジン「FRENCH CULTURE MAGAZINE」編集長。フランスを拠点に活動するトラベル・カルチャーライター、マーケティングコンサルタント、翻訳家、通訳者、ビジネスコーディネーター。フランスの文化、歴史、時事に精通し、様々なメディアへの寄稿やコンテンツ制作、各種プロジェクトのコンサルティング、コーディネートを行っている。 https://frenchculturemagazine.com

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