ユニークな本が発売されました。『発酵教室』と手描きのタイトルも印象的なこの本は、発酵のお勉強本とも単なるレシピブックとも一線を画す、いろいろなエッセンスが詰まった一冊。発酵ファンは必見です。原書はアメリカのzine(ジン:個人で制作する冊子)なのだとか。その内容を一部ご紹介します。
サンダー・キャッツの発酵教室
アメリカの発酵の伝道師が最初に作ったzineの日本語版
発酵界注目の人物、サンダー・エリックス・キャッツ
サンダー・エリックス・キャッツさん
アメリカの発酵食カルチャーのリーダーである、サンダー・エリックス・キャッツをご存知ですか? 日本でも『発酵の技法』、『天然発酵の世界』などの翻訳本が知られており、本国では料理界のアカデミー賞といえるジェームス・ビアード賞を受賞したり、「ニューヨークタイムズ・ベストセラー」にリストアップされるなど、発酵界注目の人物です。
料理、栄養学、ガーデンニングなど、ユニークな視点で「発酵」を語るサンダー・キャッツさん
2016年には初来日し、その時開催されたワークショップにハッコラも参加。「【ザワークラウトの作り方】発酵のニューリーダー、サンダー・E. キャッツさん初来日!」という記事でレポートさせていただきました。
どんなお堅い研究者? と思いきや、サンダーさんは飄々としたネオヒッピー的風貌で、穏やかな自然体の人でした。テネシー州の田舎で電力に頼らないエコな暮らしを実践しているとか。発酵への関心を入り口に、料理、栄養学、ガーデンニングへと研究の分野を広げ、ユニークな視点で「発酵」を語ります。
待望の日本語訳版、『サンダー・キャッツの発酵教室』発売
他の書籍の原点である『Basic Fermentation』を翻訳した『発酵教室』
zine『Wild Fermentation』を原点にして作られた『BASIC FERMENTATION』(右)と『サンダー・キャッツの発酵教室』(右)
そんなサンダーさんが2001年に作った発酵に関する最初のzineが『Wild Fermentation』で、版を重ねて『Basic Fermentation』と改題されました。ほかの書籍の原点ともいえるこのzineが、満を持して翻訳、発売となったのが『サンダー・キャッツの発酵教室』です。既刊の本が資料性の高い研究書とすれば、この本は「発酵の楽しみ」をダイレクトに伝える、DIY的な視点に満ちあふれた本です。
ザワークラウトからチーズ、テンペ、チュニジアのパン・インジェラまで。『サンダー・キャッツの発酵教室』には、すぐに作ってみたいシンプルなレシピが満載
『サンダー・キャッツの発酵教室』に掲載されている味噌レシピ
印象的な表紙は、人気のアーティスト、CHALKBOY(チョークボーイ)さんによる手描き。温かみがあり、すみずみまで発見があります。ページをめくると、レシピが満載! ザワークラウトから、チーズ、テンペ、キムチ、日本の甘酒やみそ、チュニジアのパン・インジェラまで、わかりやすい写真とともに作り方が掲載されています。
小さな実験のような、わくわくを感じられる『サンダー・キャッツの発酵教室』
発酵食品を使った料理本は多数ありますが、発酵食品そのものばかりのレシピ本ってありそうでないかも。料理はできあがりを楽しみますが、発酵食品は仕込んでからできあがるまでの経過や、時間がたつごとに変化する味わいを楽しめるのが醍醐味のひとつです。発酵の速度も、いつも同じではなく、暖かければ早く発酵が進むし、寒ければゆっくり。そんなテンポも「自然のなせる技」って感じで愛おしいですよね。小さな実験のような、わくわく感があるのがたまりません。
『サンダー・キャッツの発酵教室』から特別公開!サンダーさんの「キムチレシピ」
サンダーさんの「キムチレシピ」
この本には、この季節に仕込んでみたい、白菜キムチの作り方も載っています。ヤンニョム(唐辛子やアミが入った赤いキムチの素)を使ったキムチではなく、塩水によるいわば水キムチなので、トライしやすい。そしておいしい。ぜひぜひ試してみてください。
材料(仕上り1リットル分)│サンダーさんの「キムチレシピ」
サンダーさんの「キムチレシピ」の材料
・大玉の白菜 1個
・海塩
・小さめの大根 1本
・ネギ(青い部分を含む) 1~2本
・ニンニク 2~3かけ
・唐辛子 1~2本(辛さの好みに合わせる)
・生のショウガ 小さじ2
作り方│サンダーさんの「キムチレシピ」
サンダーさんの「キムチレシピ」の作り方
1. 約1リットルの水と大さじ2杯の塩を混ぜる。白菜をざく切りにし、やわらかくなるまで数時間から一晩、塩水に漬ける。
2. その他の材料を用意する。大根を薄切りに、ネギを千切りにする。ショウガはおろし金でおろす。ニンニクと唐辛子をみじん切りにしてショウガを混ぜてペーストを作る。
3. 白菜を塩水から上げ、何度か水を変えてよく洗う。白菜に大根とネギの千切りを混ぜ、そこに塩大さじ1ほどを振り、ニンニク、ショウガ、唐辛子のペーストを加える。
4. すべての材料をよく混ぜ、清潔な1リットル瓶に詰める。野菜が隠れるくらい水を加え、ゆるく蓋をする。
5. キムチの味は毎日見る。数日間発酵させ、十分に発酵が進んだら冷蔵庫に移して発酵のスピードを遅らせる。
『サンダー・キャッツの発酵教室』に込められたサンダーさんのメッセージ
発酵リバイバリスト、サンダー・キャッツさんならではの独自の視点
それぞれのレシピに添えられたサンダーさんによる説明や、コラムも語り口調がおもしろく、発見があります。「ザワークラウトを作るとき、僕は一度も塩の量を計ったことがない」というような日本人から見たら考えられないようなひとことや(本には分量が書いていますのでご安心を)、また、「パンづくりとはまるで生命を躍動させるスピリチュアルなエクササイズみたいなもの」など、要所に哲学的なメッセージがはさみこまれており、「うーん、発酵って深い」とちょっとした感動を覚えます。発酵リバイバリスト(太古からの発酵技法を復活させる)という肩書きを持つキャッツさんならではの独自の視点が感じられます
日本語版だけに収録された、麹料理研究家のおのみささんによるエッセイも!
日本語版だけの記事「〜サンダー・キャッツが日本にやってきた〜発酵オタクたちのすんき旅」
また、日本語版だけに収録された記事、「〜サンダー・キャッツが日本にやってきた〜発酵オタクたちのすんき旅」も必見です。サンダーさんが来日時に、長野の漬物「すんき」の生産地を一緒に訪ねた、麹料理研究家のおのみささんによるエッセイです。すんきは長野の木曽町だけで作られる、塩を使わずに赤かぶの葉を乳酸発酵させたすっぱい漬物。すんき作りを見学し、酒造や味噌蔵を訪ね、温泉に入り、すんき入りどぶろく鍋を食べ、という旅の記録が臨場感があっておもしろいのです。ネパールやチベットにも似たような漬物(呼び名も似ている不思議)があるというサンダーさんの話も興味深いところです。
読んでおもしろく、ちょっと作ってみたくなる一冊。発酵マニアの方、初心者にもおすすめです。ぜひ本屋さんでチェックしてみてください。
サンダー・キャッツの発酵教室
サンダー・キャッツの発酵教室
著書名:サンダー・キャッツの発酵教室
購入:amazon/hontoなどのウェブショップほか、全国の書店(※取次JRC経由で注文可能です)
著者:サンダー・エリックス・キャッツ
翻訳:和田侑子(ferment books)、谷奈緒子
編集:和田義彦(ferment books)
表紙手描き:CHALKBOY(チョークボーイ)
装幀:川邉雄(自家製天然酵母パン Pirate Utopia)
出版元:ferment books
■ザワークラウト、味噌、サワードウ・ブレッド…。アメリカ発酵食シーンのリーダーによる、最もベーシックで、最もカウンターカルチャーな発酵D.I.Y.ガイド。
ザワークラウト、味噌、サワードウのパン、インジェラ、エチオピア・ハニーワイン、甘酒、塩水でつくるピクルス、ヨーグルト、ケフィアなどのレシピを掲載。『スペクテーター ポートランドの小商い』でも紹介されたカウンター・カルチャーな出版社「マイクロコズム・パブリッシング」からリリースされた歴史的ZINEであり、著者の処女作でもある『Basic Fermentation』の日本語版。著者のワークショップに参加したときのように、もっともベーシックな発酵DIYを学びながら「発酵リバイバリスト」たるサンダー・キャッツ哲学に親しむことができる。
■日本語版特別記事
長野県・木曽地方に伝わる無塩の漬物「すんき」を求めて旅する、サンダー・キャッツ氏の発酵ツアー同行リポート。
取材・文:おのみさ(麹料理研究家)
撮影:間部百合
編集協力:宇川静