日本酒

2017年02月14日

自然発酵のお酒造りに340年の歴史!寺田本家の蔵見学

千葉県北部の神崎町(こうざきまち)は近年「発酵の里 こうざき」として発酵をテーマに地元の活性化に取り組み、人気を呼んでいます。
中でも300年以上の歴史を持つ由緒正しい酒蔵が2軒あり、いずれも地元のアイコン的存在として多方面な取り組みをされているのですが、今回はそのひとつ「寺田本家」へ編集部がうかがいました。

酒粕料理研究家、寺田聡美さんのおもてなし!”うふふ”な「発酵ごはん弁当」

かつては酒造り用のお米を蒸していたという煙突が奥にそびえ立つ、レンガの門構え。
ここを一歩入ると、そこが自然の菌たちが自由自在に暮らす「寺田本家」です。

かつては酒造り用のお米を蒸していたという煙突が奥にそびえ立つ「寺田本家」
見学当日、到着した頃には少し雨模様でした。

蔵を改造した素敵なスペースでお昼をいただく

到着早々、以前はお米を保存されていたという蔵を改造した素敵なスペースでお昼をいただきます。

先代の次女であり、現当主の奥様である聡美さんは酒粕料理研究家としてもご活躍されており、聡美さんレシピの発酵ごはん弁当は数年前から、蔵見学の参加者に出されるようになりました。

寺田本家の発酵は、口にしたひとが思わず”うふふ“と楽しくなるもの
寺田本家の発酵は、口にしたひとが思わず”うふふ“と楽しくなるもの

たくさんのおかずには、酒粕バーニャカウダソースや酒粕チーズなどの発酵調味料が使われている

たくさんのおかずには、聡美さんが作られた酒粕バーニャカウダソースや酒粕チーズなどの発酵調味料が使われており、少しずつ色んな味が楽しめるように配慮されています。一つ一つどれもが素晴らしいお味ながら、お弁当全体としてのバランスも最高です。
蔵見学の参加者に大好評のこのお弁当、リピーターの中には「このお弁当が楽しみ!」とおっしゃる方がいるのも納得のクオリティでした。

酒粕がたっぷり入ったお味噌汁は、冷えた体を温めてくれます
酒粕がたっぷり入ったお味噌汁は、冷えた体を温めてくれます。

蔵見学参加者たちのお昼ご飯を用意くださる皆さま。
蔵見学参加者たちのお昼ご飯を用意くださる皆さま。

寺田本家の現当主・寺田優さんの「百薬の長」となる日本酒造り

先代・啓佐(けいすけ)さんの時代には、食品添加物を使ったお酒造りをされてきたとされる寺田本家。しかし啓佐さんはご自身の体調不良によって、当時の反自然的な製造方法と、それを原因とする社内の不調和に疑問を持たれ、自然由来の発酵から本当の「百薬の長」となる日本酒造りへ方向転換を決意されました。

その背景や思いは、2007年に出版された啓佐さんのご著書「発酵道」に詳しく記されていますが、発酵に伴う微生物たちの働きから学べる同書は、ビジネスマンをはじめとする多くの社会人たちに支持され、発売以来のロングセラーとなっています。

(右)先代・啓佐さんのご著書「発酵道」、(左)聡美さんと優さんによるレシピ本「麹・甘酒・酒粕の発酵ごはん」
(右)先代・啓佐さんのご著書「発酵道」、(左)聡美さんと優さんによるレシピ本「麹・甘酒・酒粕の発酵ごはん」

2012年に啓佐さんが他界され、現当主の優さんが24代目となられたあとも、先代の意思を継ぎ、自然と調和した発酵の力を使い、生きたお酒造りに取り組まれているのです。

発酵は、微生物のおかげさま。まさに自然の恵みの力です。

 発酵は、微生物のおかげさま。まさに自然の恵みの力です。
 だからこそ人が本来持っている体を癒す力を呼び覚ましてくれると考えています。
 引用:寺田本家 自然酒「五人娘」

微生物の活躍に学ぶ「いい社会」の作り方

冬の時期に仕込まれる日本酒ですが、寺田本家ではお酒造りをしない時期には自然栽培のお米も育てています。お米から麹、お酒の元になる酒母、もろみ、そして絞ってから最終的な自然酒へ…というすべての工程が、蔵人(くらびと)たちの手によって行われているそうです。

そのプロセス一つ一つに関わる菌は「蔵つき」と呼ばれ、歴史ある蔵に昔からいる無数の菌です。
タイミングがくると自然に降りてきて、蔵人たちと共に発酵のプロセスに参加。ひとつの役割を終えると、次はまた別の菌が参加して次の発酵へ…と、菌たちはそれぞれの役割をまわりとの調和の中で行っているのだとか。

「いろんな人がいる僕らの社会も実は同じで、菌たちのようにバランスをとって仲良くできたら、みんなが幸せになれるんじゃないかなって思うんです」という優さんのお話に、参加者の多くが頷いていました。

流れるようにリズムカルに、分かりやすい優しい言葉でお話くださる現当主・寺田 優さん
流れるようにリズムカルに、分かりやすい優しい言葉でお話くださる現当主・寺田 優さん

そして、優さんのお話の後はいよいよ、仕込み時期まっ最中の酒蔵の中へ移動です。

菌への信頼100%!見学者の”持ち込み微生物”もウェルカム。

蔵に移動する前、優さんは「今日はみなさんに付いた菌たちも歓迎です」と言ってくださり、全員がそのままの格好で蔵へ移動。
これは、白衣やヘアキャップを強いることなく多様な人の往来によって新たな菌と出会い、より深化した発酵が生まれるという「菌への信頼」があってこそ。

他の酒蔵見学では考えられない?!そのままの格好で蔵の中へ。
他の酒蔵見学では考えられない?!そのままの格好で蔵の中へ。

ここから約1時間に渡り、優さんの丁寧な解説の元、仕込みの様子を間近で見学させていただきました。

手際よくお米を洗う蔵人の皆さん。創業から変わらず、蔵の裏にある神崎神社の井戸水を使っているそうです。
手際よくお米を洗う蔵人の皆さん。創業から変わらず、蔵の裏にある神崎神社の井戸水を使っているそうです。冷たい冬のお水ももちろん素手による手作業。きれいに洗われたお米は後ほど、この大きな釜に移して蒸されていきます。

続いて麹が作られる麹室(こうじむろ)へ移動。
続いて麹が作られる麹室(こうじむろ)へ移動。

麹が作られる麹室(こうじむろ)。34〜35度前後にキープされた多湿空間。
34〜35度前後がキープされた多湿空間の麹室は、部屋の四方に5トンもの炭が敷き詰めて建てられているという弥盛地(いやしろち)。寺田本家では敷地内や田んぼにも炭が使われているそう。

蒸したお米に麹菌をふりかけ、日本酒用の麹が生まれる場です。
蒸したお米に麹菌をふりかけ、日本酒用の麹が生まれる場です。

麹室では蒸したお米に麹菌をふりかけ、日本酒造りの肝といえる麹が生まれます。
神聖な気持ちにさえなる麹室は貴重なものがたくさん。写真は、麹がつけられた後お布団をかぶせて温度や湿度が保たれているお米。まさに麹になる途中、参加者からも質問がたくさん出ていました。

麹室にある道具のほとんどは蔵人たちによる手作り
大量のお米を平たく広げる大きな台や、作業に適した麻布など、天然素材が大切に使われ、これらの道具のほとんどは蔵人たちによる手作り。

麹に向かう途中のお米を少しずつ味見させてくださいました。
麹に向かう途中のお米を少しずつ味見させてくださいました。この麹が次の日本酒になるんだと思うと感慨深い味見に。

酒母造りの工程で聞く、寺田本家名物の仕込み唄

続いて、種麹に蒸し米と水を加えて大きな桶で潰す「酒母」造りの場へ。

生もと(きもと)造りと呼ばれる昔ながらのこの製法は、寺田本家の大切なポイント。

生もと(きもと)造りと呼ばれる昔ながらのこの製法は、寺田本家の大切なポイント。
木桶でデモンストレーションしながら優さん聞かせてくださったのは、蔵人たちに伝わる「仕込み唄」の一節でした。

蔵人みんなで歌うことにより、潰す力の加減が統一されるほか、作り手たち同士に調和が生まれ、心を一つにするチームワークにも貢献するという仕込み歌。お米の状態を見ながらちょうど良い具合に潰すためにも、その日の蒸し具合をみて「今日はなん番まで歌おうか」といった作業時間の調整もこの仕込み歌で叶っているそうです。

さらに、「歌うときの楽しい気持ちが菌たちに伝わる」と話す優さん。
手作業によるリズム、歌に乗った響き、口ずさむ蔵人たちの笑顔、それらの響き合いがお酒に入り込み、飲んだ人を楽しい気持ちにする「幸せのお酒」ができていると教えてくれました。

「菌に耳があるかどうか分かりませんが」と笑う優さんのその言葉もまた、きっと菌たちに届いてるんでしょうね。

ぶくぶくとまるでおしゃべりしているような酒母たち。
ぶくぶくとまるでおしゃべりしているような酒母たち。

「味見」のたび、見学者たちからこぼれる喜びの声と笑顔。
見学中に何度もある「味見」のたび、見学者たちからこぼれる喜びの声と笑顔。まさに「幸せのお酒」を体現しているかのよう。

見学中に様々なプロセスを見せてくださいます。
仕込み始めからほとんど完成に近づいているお酒まで。見学中に様々なプロセスを見せてくださいます。

職人たちの酒蔵にフランスの香りが登場

優さんが「普段のままです」とおっしゃる酒蔵にお邪魔した蔵見学では、各所でてきぱきと働く蔵人さんたちのお姿も見られます。一切むだのない彼らの動きは、清潔感あふれる蔵の背景に見事に溶け込み、まるで日本絵画を眺めているかのような錯覚を覚えました。

てきぱきと働く蔵人さんたち。

女性も男性もかっこいい!思わず見惚れてしまう蔵人たち。
女性も男性もかっこいい!思わず見惚れてしまう蔵人たち。

今年の寺田本家の酒仕込みに1ヶ月間だけ参加されているというフランスからの研修生、Yannick(ヤニック)さん

と、その中におひとり、欧米の男性がいらっしゃいました。
今年の寺田本家の酒仕込みに1ヶ月間の研修に来ているという、フランス人のYannick(ヤニック)さんです。
発酵食や文化について英語でも発信しているhaccola編集部として、少しお話をうかがってみることにしました。

フランスのアルザスでワイン造りをしているヤニックさんは、独自で学んで実践してこられた発酵の知識をさらに深めるため、欧米や北米各地のワイナリーで働く経験を重ね、その旅の中で寺田本家さんに行き着いたそうです。

寺田本家での研修中は、優さんや杜氏さん、蔵人の皆さんから様々なことを学ばれたそうで、中でも一番の学びが何かを聞いてみましたが「どれも大切なことばかりだったよ」とのこと。
微生物のことや菌たちの働き、発酵にかける時間、菌に与える喜び、手作業の大切さなど、これから先ご自身のオリジナルワインを造るためにも参考になったことがたくさんあったそうです。

ドイツにほど近いフランスのアルザスからいらしたヤニックさん。
ドイツにほど近いフランスのアルザスからいらしたヤニックさん。酒蔵法被がお似合いです。「ここに来て一番はじめのチャレンジは朝のラジオ体操。見よう見真似だったけどでみんなについていったよ。朝のエクササイズはすごく良いね!」と爽やかな笑顔。

蔵見学のラストは幸せな試飲タイムと発酵ショッピング

酒蔵見学のあとは、お昼をいただいたスペースに戻り、数種類のお酒をいただける試飲の時間です。

「五人娘」「絞ったまんま」「懐古酒」「むすひ」「醍醐のしずく」「木桶仕込」、そしてノンアルコールの「マイグルト」と、寺田本家の名品がずらっと並びます。
これら全てを味わえるなんて!
参加者全員の笑顔が弾けるように蔵を満たしていました。

名品を飲み比べる参加者の皆さん

飲み比べで、酒坏が進みます。

美味しいお酒に、会話も弾みます。

季節限定、「五人娘」の無濾過しぼりたて生原酒「しぼったまんま」も。
季節限定、「五人娘」の無濾過しぼりたて生原酒「しぼったまんま」も。

優さんも一緒にいてくださり、質問にも気軽に答えてくださいます。
試飲時間は優さんも一緒にいてくださり、質問にも気軽に答えてくださいます。

蔵見学の最後には臨時の販売所が用意され、お酒はもちろんお弁当に使われていた調味料や書籍の購入も可能です。参加者の多くが両手にいっぱいの紙袋でした。

24代目当主の優さんと、奥様で酒粕料理研究家の聡美さん。
24代目当主の優さんと、奥様で酒粕料理研究家の聡美さん。毎年こうしてたくさんのファンに見学の機会を作ってくださっています。

行ってみたい!そう思ったら3月12日の「発酵の里こうざき 酒蔵まつり」へ!

寺田本家の蔵見学は毎年1〜2月に数回開催されますが、これらは全て事前予約制となっており、2017年分はすべて満席に。
来年の開催まで待てないよ!という方は、3月12日(日)の「発酵の里こうざき 酒蔵まつり」がチャンスです。

酒蔵まつり

酒蔵まつり道路
近年は来場者約5万人という大規模のイベントに発展された酒蔵まつりの様子。

もともと開催されていたという寺田本家による「お蔵フェスタ」と、神崎が誇るもうひとつの老舗酒蔵「仁勇鍋店」さんの「蔵まつり」が同時に開催されることになり、近年かなりの盛り上がりを見せる「発酵の里こうざき 酒蔵まつり」。

寺田本家・仁勇鍋店さん周辺の街道に約200というたくさんの出店が出るほか、お酒の試飲、販売、トーク、ライブ、蔵見学など盛りだくさん!予約なしで誰でも遊びに行けるお祭りです。
日本酒ファンも、発酵ファンも見逃せませんね。ご家族やお友達と一緒に、幸せな発酵漬けの1日を過ごされてはいかがでしょうか。

✓こちらの記事もチェック
小さな町の大きな“醸し場” 「発酵の里 こうざき」に行ってみた

寺田本家
http://www.teradahonke.co.jp/

鍋店株式会社
http://www.nabedana.co.jp/

発酵の里 こうざき 
http://hakkou.org/

やなぎさわ まどか

やなぎさわ まどか

フリーライター/ 通訳翻訳コーディネーター/ 農家見習い 10代後半から20代前半の海外生活後、英会話学校のマネージメントやコンサルティング企業に勤務。2011年3月の震災を機に、兼ねてから興味のあった農的な暮らしへの移行を求めて退職。現在はフリーランスにてライターやマネージメントの活動をしつつ、自然との繋がりを深める暮らしの実践中。心はいつでも旅人のままであり、自由と安定のバランスを模索する日々。 Instagram

関連タグ

この協力者の他の記事を見る

このライターの詳細へ

最新記事

もっと見る

SERIES 連載

More

CATEGORIES カテゴリー