カルチャー

2017年02月22日

ロングラン大ヒット映画『君の名は。』の「口噛み酒」ってどんな味?

ロングラン大ヒット映画『君の名は。』の「口噛み酒」ってどんな味?
(C)2016「君の名は。」製作委員会

「もう観た?」ではなく、「何回観に行った?」という会話のほうがしっくりするほど、日本中を巻き込んで大人気となっている映画『君の名は。』。みなさんは、何回ご覧になりましたか?
主人公は、高校生の男女2人、立花瀧くんと宮水三葉さん。夢のなかで体が入れ替わったことから、奇跡の物語は始まります。
RADWIMPSの音楽にのせて展開するストーリーにどんどん引き込まれますが、二人はなかなか出会えません。時空を超えて、二人を結ぶ重要なアイテムが、日本最古のお酒と言われている「口噛み酒」です。それは、ヒロイン、三葉がつくったものでした。

日本最古のお酒、「口噛み酒」の作り方

宮水三葉は、山深い田舎町に住む女子高生です。ただし、代々続く神社の娘なので、巫女として生きる宿命を背負っています。神社の風習を嫌いながらも巫女として舞い、さらには奉納する口噛み酒をつくる儀式も彼女の大切なお勤めです。
口噛み酒の作り方はいたってシンプル。米を噛んで唾液ととも吐き出し、器に入れて封をし、アルコール発酵させれば出来上がり。映画でもヒロインの口から噛んだ米を出すシーンがあり、なんとも原始的でエロティックな描写です。

観客動員数1800万人、興行収入240億円突破! という今をときめく映画が、古代のお酒とつながっているなんて、やっぱりこの映画は神秘的な魅力をたくさん内包していますね。ではでは、口噛み酒がいつごろできたのか、探っていきましょう。

日本酒のルーツは縄文時代だった?

ハッコラでも発酵学の先生としておなじみ、小泉武夫先生の著書『発酵 ミクロの巨人たちの神秘』や『NHK人間講座 発酵は力なり』によれば、日本の発酵に関する最初の文献は、邪馬台国の記述もある『魏志』の「倭人伝」に行きつくそうです。時代としては、紀元2~3世紀のころらしく、すでに発酵物の代表として酒が日常生活に浸透していたことがわかるようです。

しかし、日本人が酒をつくり、飲んでいたとされるのは、それよりもさらに遡ること、縄文時代。秋田県の縄文時代前期の遺跡からは、ヤマブドウやキイチゴ、ニワトコなどの果実の種が植物の繊維に包まれて出土しています。縄文時代中期の長野県の竪穴遺跡からはそうした果物の種子が発見されたことから、諸説ありますが、縄文人はヤマブドウやキイチゴなどの果物を土器に仕込んで発酵させ、果実酒をたしなんでいたのでは…と考えられています。
果物を土器などに入れておくと、皮についていた酵母の働きでアルコール発酵が生じます。偶然の産物なのか、それが果実酒の始まりといわれていて、現代でもいろいろな果実酒を私たちは楽しんでいますよね。会ったことのない縄文人に、なんだかちょっと親近感がわいてきたりしませんか。

噛めば甘い! ご飯と唾液の出合いが酒の原点

そして、縄文時代晩期の遺跡からは、陸稲のもみが数多く発見されるようになり、米作りが始まったと考えてもいいみたいです。つまり、米による酒づくりのルーツは、縄文時代晩期にあると言えそうです。
当時の人たちは、果実酒をつくる体験と知恵から、糖分の多いものでなければ発酵しにくいことをわかっていたと想像できます。デンプン質の米を酵母の力で発酵させるには、そのままでは難しい……ブドウ糖に変化させる必要があります。そこで利用したのが、唾液の力です。

実際、ご飯を口のなかに入れて飲み込まないようにしながら3分間ほど噛んでいてみてください。唾液に含まれる消化酵素はデンプンを糖化する力がとても強いので、とっても甘くなります。それを容器に吐きためておけば、天然の酵母が繁殖してアルコール発酵が起こり、お酒ができます。それが、口噛み酒というわけです。

甘口のお酒にヨーグルトを混ぜたような味

小泉先生は、実際に大学の研究室の実験で学生3人に蒸した米を噛んでもらい、口噛み酒づくりに挑戦したこともあるそうです。噛んで甘くなったものを、唾液とともにフラスコに吐きため、自然発酵させると10日目にはアルコール度数9%の、甘口の酒にヨーグルトを混ぜたような味の酒が出来上がったと言います。
※農業学校における酒類製造は「試験醸造のための製造免許」という扱いで認められています

米でつくる以前は、ドングリなどデンプン質の多い原料で口噛み酒がつくられていた可能性もあるとか。どんな味だったのでしょうか。

8世紀初頭に書かれた文献『大隅国風土記』には、「くちかみの酒」の条があり、「男女一所に集まりて 米を噛みて さかぶねに吐き入れて」とあり、『古事記』には「この御酒を 醸みけむ人は その鼓 臼に立てて 歌ひつつ 醸みけれかも 舞ひつつ 醸みけれかも この御酒の 御酒の あやに うた楽し ささ」とあります。

現代風に訳せば、米を噛んでは吐き、噛んでは吐きしながら、その壺の周りを舞っていたと推測されます。

映画『君の名は。』でも、水宮三葉は巫女として舞いながら、口噛み酒の儀式を行っています。そんな目線も加えつつ映画を観れば、また新しい発見や気づきがあるかもしれません。

映画『君の名は。』公式サイト

http://www.kiminona.com/

山本裕美

山本裕美

編集者/ライター。出版社勤務後、フリーランスに転身。ガーデニングや料理、掃除&収納、防災、健康など、女性が気持ちよく、楽しく暮らせることをテーマに、雑誌や書籍で企画、取材、執筆を行う。考えるより「やってみよう!」をモットーに、取材で得たネタを試すのが楽しみのひとつ。おいしいものにも目がない。

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