麹の歴史から発酵の法則までを学ぶ「麹の学校」in 滋賀県高島市<中編>

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4月21日から23日、滋賀県高島市の『発酵つながり隊』隊長、他谷昌子さんの「ハーブの家」で、発酵冒険家なかじさんの「麹の学校」が開催されました。興奮覚めやらぬ第1日目が終わり、2日目が幕を開けました。麹づくりにおいて必要な温度や湿度の管理だけではなく、麹の歴史から発酵の法則までを学んでいきます。


2日目のスタートは発酵朝ごはんで腹ごしらえ

一夜明けた朝も、1日目のランチ同様、他谷さんと他発酵料理が大得意な参加者のみなさんで特製の発酵朝ごはんを用意してくださいました。この日のメニューは、鮭の甘酒漬け、塩とオイルで和えた春菊、ニンジンサラダの塩金柑のっけ、朝摘みしたフキの醤油麹和えです。塩金柑ももちろん手作りです。

他谷さん特製の発酵朝ごはん

また、参加者の中には野草に詳しい方も多く、朝早起きして蓬を摘んで蓬ショットを作ってくださりました。ちなみにその搾り粕は、天日干ししてお灸に使うことができます。

摘んできた蓬を絞って、その搾り粕を天日干ししているところ。
摘んできた蓬を絞って、その搾り粕を天日干ししているところ。

蒸米の温度を下げる、麹づくりに欠かせない『手入れ』

朝食がすむと、なかじさんの麹づくりの座学が始まりました。午前中は『手入れ』のお話です。

1日目に寝かせた蒸米は、麹菌が繁殖する過程で熱を放つので、翌朝温度が高くなっています。そこで、人の手で蒸米をほぐして熱を取る『手入れ』を行います。そうすることで麹菌の働きがさらに活発になり、いい麹ができあがるそうです。

麹づくりの手入れは『盛・仲・仕舞』の3段階

手入れは大きく分けて『盛・仲・仕舞』に分けられます。

盛り

種切から約24時間後くらいに行う作業を『盛り』といい、蒸米の温度(品温)が34度程度になるように蒸米を麹蓋に盛って手入れします。この時、蒸米が30度を下回っていたら、この作業は先延ばしにしたほうがよいとのこと。必要な水分が飛び、温度が急激に下がってしまうのを防ぐためです。「包み込み」からこの「盛り」までは、麹の発芽期となります。

仲仕事

種切から28時間後くらいに行う作業を『仲仕事』といい、ここでもまた麹に空気を送り込み、品温36度くらいになるようにもっていきます。この仲仕事から次の仕舞仕事までは、菌糸成長期となります。

仕舞仕事

仲仕事から4時間後くらいに行う作業を『仕舞仕事』といい、ここで38度くらいになるように手入れをします。この手入れのあとは、50度以上にならないように注意しましょう。それを超えると「焼け麹」になってしまいます。この最後の12時間が酵素生成期となります。

麹を作る目的は、発酵食品を作るために酵素の力を借りたいから

なかじさんによると、麹菌は餌となる糖分を食べるときに酵素を出すのだそうです。外硬内軟の蒸米の表面には麹菌の菌糸は入り込めません。よって、麹菌が酵素を出して米の表面を溶かし、その液を麹菌が吸うことによってできた空洞から菌糸をのばしていき、また酵素を出す…を繰り返すのだそう。

そもそも、麹を作る目的は何でしょうか、となかじさんは問いかけます。それは酵素を作りたいからであり、最終的な理由は発酵食品を作りたいから。では、その酵素が多い麹を作るにはどうすればよいのでしょうか。なかじさんからいくつかのアドバイスをいただきました。

なかじさんによる、いい麹を作るためのアドバイス

なかじさんによる、いい麹を作るためのアドバイス

高すぎる湿度に注意

湿度が高すぎると、その水分を吸って胞子(モフモフ)ばかりが育ち、酵素があまり生成されていない麹ができてしまうそう。

高湿度で作った麹は、たんぱく質をうまみに変える酵素『プロテアーゼ』が優位に

その麹の使い道によっても湿度管理を変える必要があるそうです。例えば、湿度過多な環境だと、『プロテアーゼ』という酵素が優位の麹ができます。プロテアーゼは、たんぱく質を分解し、うまみの元となるアミノ酸に変える働きをします。プロテアーゼが形成される温度は28度から35度だそうです。

また、麹菌の菌糸は水分を求めて伸びていきます。まずは蒸米の表面に菌糸を伸ばすのですが、表面にはたんぱく質、脂質があり、ここに菌糸がぶつかるので、それを溶かすためのプロテアーゼを出すという仕組みなのだそうです。

低湿度で作った麹は、でんぷん質を甘みに変える酵素『アミラーゼ』が優位に

その一方、空気中に水分がない場合、麹菌は米の中心部の水分を求めて菌糸を伸ばしていきます。その時に麹菌が出すのが、『アミラーゼ』という酵素です。アミラーゼはでんぷん質を分解し、甘みの元となるブドウ糖に変える働きをします。アミラーゼが形成される温度は36度から42度だそうです。

高湿度で作った麹は味噌や醤油、低湿度で作った麹は甘酒に向く

高湿度でできた麹は、味噌や醤油作りに向いています。また、低湿度でできた麹は、いうまでもなく甘酒作りに向いています。
これらの理由から、酒屋ではあまりモフモフさせた麹(高湿度でできた麹)は作らないのだそうです。酒に色がついたり、酸味が出たりするのを避けたいからだということですね。

なかじさんからお話をうかがったあとは、昨日寝かせた蒸米を広げて大き目の麹箱に広げていくと作業をしました。少し早めの「盛り」の作業です。

昨日見た時よりも菌糸の伸びが確認しやすい
昨日見た時よりも菌糸の伸びが確認しやすい

発酵冒険家であり麹文化研究家のなかじさんによる「麹」のお話

麹パウダーいりのふわふわパンに越田商店さんのものすごい鯖、チキンを挟んだサンドイッチのランチ

麹パウダーいりのふわふわパンに越田商店さんのものすごい鯖、チキンを挟んだサンドイッチ

麹パウダーいりのふわふわパンに越田商店さんのものすごい鯖、チキンを挟んだサンドイッチ

麹パウダーいりのふわふわパンに越田商店さんのものすごい鯖、チキンを挟んだサンドイッチのランチのあとは、さらに深い座学が続きます。

麹(こうじ)の語源『カムタチ』とは?

「こうじ」とは、もともと『カムタチ』という言葉に由来されるそうです。「カム」とは「上」を意味し、「タチ」は「立ち現れる」、「ゼロから現れる」を意味します。よって『カムタチ』は「お米の上に新たなカビが立ち現われましたよ」ということなのだそう。
この音がカウチ、カウヂと変化し、300年の間に「こうじ」と呼ばれるようになったとのことでした。

日本にいるカビの神様『ウマシアシカビヒコジ(宇摩志阿斯訶備比古遅神)』

なかじさんによると、日本ほど何にでも神様を作って祀る国は他になく、日本ではカビの神様までいるのだそう。
その名前を『ウマシアシカビヒコジ(宇摩志阿斯訶備比古遅神)』といい、この名前にも意味があります。「ウマシ」は旨い、甘い、「アシ」は禾、稲などアシ科の植物、「カビ」は麹、「ヒコジ」は彦、神様のことで、全体で「旨い米につくカビの神様」のことなのだそうです。

その後、この麹はどこから来たのか、というお話から、なぜもろみが発酵中のお味噌屋さんや酒蔵に行くと気持ちがいいのか、「0と1の循環」と発酵の関係などなど…。麹から始まり、地球の循環、発酵の法則まで、なかじさんにしか語りえない言葉の数々を聞くことができるのも、この「麹の学校」の醍醐味です。
いよいよ次回は、「麹の学校」最終日のレポートを届けします!(続く)


教えてくれた方

なかじ(南 智征)さん
発酵冒険家・麹文化研究家・瞑想家・「みなみ屋」主宰。
「腸と発酵とココロとカラダ。 なかじの発酵と冒険の日々」
「みなみ屋」

サポートしてくれた方

他谷昌子さん
発酵料理研究家・「美食倶楽部」主宰・「高島 発酵つながり隊」隊長。
「美食倶楽部」
「高島 発酵つながり隊」

関連リンク

「発酵するまち、高島」
「たかしま まるごと百貨店」

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