麹づくり最終章。出麹から常在菌について学ぶ、なかじさんの「麹の学校」<後編>

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滋賀県高島市の『発酵つながり隊』隊長、他谷昌子さんの「ハーブの家」で3日間泊りがけで行われた発酵冒険家なかじさんの「麹の学校」も、ついに最終日。今回は麹が出来上がる時の「出麹」、「枯らし」 についてと、酒の話、常在菌の話についてレポートします。


麹づくりの最終章「出麹」のタイミングの見計らい方を学ぶ

参加者全員の熱気も丁度よい具合に発酵し、不思議な団結力なるものが生まれてきた3日目、麹づくりの作業も座学も、ついに締めくくりとなりました。なかじさんのお話が聞けるのも今日が最後です。
2日目までは、米の蒸し方からお米の熱を管理する「手入れ」について詳しく学びました。本日の座学1本目は「出麹」についてです。

麹づくりの最終章「出麹」のタイミングの見計らい方を学ぶ

前日までの手入れにより、麹菌を接種した蒸米はまだ帆布に包まれ木箱の中で保温されています。この状態で、出麹の前の12時間の温度帯をどのような温度帯で引っ張るかにより、目的に合わせた麹づくりが可能となります。

出麹前の温度帯の目安

目安として、麹の品温を40度以上で引っ張ると、さっぱりしてさらっとした甘みを生み、逆に40度以下で引っ張った場合は、こってりとした濃厚で旨みが強い酒ができるそうです。
42度くらいで引っ張ると、100種類以上ある蛋白質や脂質分解酵素がたくさんでき、さらっとした仕上がりになるため、酒造りにはこちらが適しているとされています。

出麹前の時間の目安

時間軸と組み合わせて見ると、品温(米自体の温度)が38度になってから12時間ほど経過した後が出麹のタイミングとなり、そのあと約8時間後からは、胞子形成期に入ります。
※酒造りの場合、この胞子は必要ないため、出麹のタイミングの見極めはとても重要。雑味のなく、色をつけない酒造りには特に気を使うポイントです。

麹の出来上がりの目安

出来上がりの目安としては、栗のような匂いと味がすること、また、良い麹は手に取るとふわっと盛り上がり、ほろっと崩れるものなのだそうです。

香りで麹の出来を確認するなかじさん
香りで麹の出来を確認するなかじさん

麹づくりに適しているのはいつ?

春から梅雨にかけて、カビが最も元気になる高気温多湿の時期

日本の気候において、春から梅雨にかけては麹菌に限らずカビが最も元気になる高気温多湿の時期です。6、7、8 月に麹づくりをする際は、加湿せずに日向に置いておいてもよいくらいだそう。

秋から冬にかけては、人間の手助けで加湿に気をつかう必要も

秋から冬にかけては、温度のコントロールはしやすいものの、人間の手助けで少し加湿に気をつかう必要があります。
特に、冬の寒い季節は外気温で品温が一気に下がってしまうのを避けるため、34度で行う「盛り」の作業を36から38度くらいで行う方がやりやすいようです。

季節を問わず、湿度90%を目指す

どの季節でも、目指す湿度は90%。木の道具は特に水浸しになりすぎず、温度も比較的に一定に保ってくれるので麹づくりには最適とされています。

「出麹」のあとは、発酵を止めるために熱と水分を飛ばす「枯らし」の作業

麹を木箱の中から出したら、布の上に平たく広げて放熱させます(扇風機を使うと尚よいとのこと)。これを「枯らし」といいます。この際、なかじさんは「花道」といって指で螺旋状の筋をつけ、放熱と蒸散を助けます。
この作業をした後は、ジップロックに入れて冷蔵庫で1ヶ月、冷凍庫で半年ほど保存することができます。

市販の生麹で発酵食品を作るときは、少し多めに使用

この枯らしの作業がないと発酵がどんどん進んでしまうため、市販の生麹も少しは枯らしてあるはずなのですが、乾燥麹の場合は熱風処理をしているので酸化している可能性があります。この酸化により、酵素の量が一割ほど減ってしまうため、発酵食品を作る際は多めに使用するとよいそうです。

出麹後すぐに麹を使う「出麹づかい」は温度に気を配って

ちなみにこの枯らしの作業を飛ばし、出麹後そのまますぐに麹を使うことを「出麹づかい」といいますが、醪(もろみ)の中ですぐに発熱、糖化が始まってしまうため、乳酸発酵させたいものに使用する場合はしっかり冷ましてから使った方がよいとのことでした。

最後の仕上げ、花道をつける
最後の仕上げ、花道をつける

午前中から盛りだくさんの座学が終わり、小休憩の発酵ランチ

さて滑り出しから充実した内容の座学がひと段落し、お待ちかねのランチです。今日も助っ人に来た発酵料理人たちと他谷さんが心をこめて、作ってくださいました。
本日のメニューは、前⽇の宴会で残った蛍烏賊の醤漬けや、お⿂の醤昆布漬けと野菜を⾊々⼊れて炊いた発酵炊き込みご飯、葛粉と⾖乳で作った⾖乳⾖腐に⼀番出しと塩で味をつけた餡かけ、⿂介を⽢酒で漬けたアクアパッツア、アレルノン のチョップドサラダでした。アレルノンは、近江の国(滋賀県)の名産である鮒ずしに含まれる乳酸菌を利用した米粉発酵食品です。

本日のメニューは、前⽇の宴会で残った蛍烏賊の醤漬けや、お⿂の醤昆布漬けと野菜を⾊々⼊れて炊いた発酵炊き込みご飯、葛粉と⾖乳で作った⾖乳⾖腐に⼀番出しと塩で味をつけた餡かけ、⿂介を⽢酒で漬けたアクアパッツア、アレルノンのチョップドサラダ

お昼ご飯で心も体も満たされた後は、いよいよ酒造りのお話

日本酒は、アルコール度数を人間がうまみを最も感じやすいとされる15%になるように割水して提供される

ランチの後は、酒屋業界出身のなかじさんから日本酒についてのお話を聞きました。
日本酒というのは常に割水をしているもので、 その理由として20%の日本酒はアルコール度が強すぎ、飲むのが困難であるということがあげられます。もちろん原酒として割水をせずに出されているものもあり、そのアルコール度は約18~19%にもなるのですが、原酒と表記されていても 1%ほどの割水をしている場合があるそうです。

アルコール度が高すぎて飲めない、が意味するところは、アルコール度が高すぎると舌が麻痺してしまい、日本酒の甘みやうまみが分からないまま飲むことになるということです。そのことから割水をするようになり、アルコール度を人間がうまみを最も感じやすいとされる
15%まで下げるようになったそうです。この背景には、江戸時代に料亭で出されるときに一番美味しいとされた割合が15%だったため、酒屋の方で初めから割水して出荷するようになった、というものがありました。

濁酒と日本酒の違い

また、濁酒と日本酒は作り方が少し異なるのだそうです。
濁酒は絞らないが日本酒(清酒)は絞るということの他にも、濁酒は麹と水と蒸米を一度に混ぜて作る一段仕込みの醸造酒であるのに対し、日本酒は同じ材料を3回に分けて仕込む三段仕込みであり、この方法をとるとアルコール度を自然にあげることができます。濁酒のままではアルコール度は最大で14から15%ほどまでしか上がらず、同じく一段仕込みで作られるワインとそう変わらないそうです。

濁酒と日本酒の違い

常在菌はどうして大事なの? 増やすにはどうすればよいの?

「麹を作るとは、菌を自給すること」

「麹を作る、ということは菌の自給をすることです」となかじさんは語ります。
どういうことかというと、腸の中に常在菌があると、せっかくほかの良い菌が入ってきたとしても免疫作用が働いてしまいその菌を受け付けないようにしてしまうことがあります。よって元気になるためには自分で自分の常在菌を増やし、そこに多様性を生むことが必要であり、それには家庭の中の発酵食品が大いに影響を及ぼしているということなのでした。

例えば、私たちの手にはたくさんの常在菌がついており、その手で作ったぬか漬けなどを食べると自分の腸の中にいる常在菌も「仲間
だ!」と認識し、スムーズに入ってきた菌を受け入れます。持続的に常在菌を元気にするには、手作りの発酵食が一番なのだということですね。
面白かったのは常在菌はほぼお母さんからもらうものだというお話です。もちろん、お父さんからも皮膚接触でもらうことはできるのですが、そもそも赤ちゃんはお母さんの子宮についている乳酸菌に守られて生まれてきます(そのため生まれたての赤ちゃんを舐めると酸っぱく感じるのだそう)。よって産湯等であまり洗わない方がよいということ、また、おっぱいの先にもお母さんの乳酸菌がついており、赤ちゃんが自分で分解することができないお乳(=オリゴ糖と乳糖)を分解するのを手伝っているのだそうです。
「だからお母さんの作った発酵食品を食べると、腸も元気になり、セロトニンが増えるんですよ」となかじさんは言いました。

お母さんの作った発酵食品を食べると、腸も元気になり、セロトニンが増える

幸せホルモン、セロトニンとは?

脳が作る幸せ、ドーパミンを知る

ではそのセロトニンとは何でしょう?
幸せのホルモンには、セロトニン系とドーパミン系があります。おそらく後者の方を耳にした方が多いのではないでしょうか。
このドーパミン系ホルモンは、「脳が作る幸せ」を生み出します。これは、目標を定め、それに対して努力というエネルギーをかけて得るタイプの幸せを意味します。どんどん次の刺激を求めて頑張るため、その過程で苦しみも伴います。

腸が作る幸せ、セロトニンを知る

これに対しセロトニン系ホルモンは、「腸が作る幸せ」と考えられます。これは、目標を定めず、何もなくてもしあわせ、という状態で、これを維持したまま仕事や遊びに精を出すと幸せが続くという考え方です。
乳酸菌がたっぷりの発酵食品を摂ると、このセロトニン系のホルモンを誘発してくれるため、常日頃からしあわせ、という状態が続くのだということでした。

さて、麹の作り方から腸からつくられるしあわせまで、盛りだくさんの3日間のレポート、いかがだったでしょうか。なかじさんは今秋もあちこちで発酵を暮らしに取り入れる方法を広めて日本全国を移動していらっしゃいます。
次の麹の学校は9月、大阪は堺市の「おかんの糀」で、夢先発酵案内人の小林よしみ先生のもとで開催されます。10月は京都で海外の方に向けたスペシャル講座も予定されています。

✔これまでのレポートにピン!と来た方は、是非、ご参加を!
9月16~18日:なかじの麹の学校@大阪堺/「おかんの糀」募集開始しました!
10月6~8日:なかじの麹の学校/海外向けスペシャル麹と日本文化の特別講座@京都
おかんの糀:http://www.okannokouji.com/


最後は他谷さんのハーブの家の庭で、記念撮影。できた麹をそれぞれ持ち帰りました。

最後は他谷さんのハーブの家の庭で、記念撮影。できた麹をそれぞれ持ち帰りました。


教えてくれた方

なかじ(南 智征)さん
発酵冒険家・麹文化研究家・瞑想家・「みなみ屋」主宰。
「腸と発酵とココロとカラダ。 なかじの発酵と冒険の日々」
「みなみ屋」

サポートしてくれた方

他谷昌子さん
発酵料理研究家・「美食倶楽部」主宰・「高島 発酵つながり隊」隊長。
「美食倶楽部」
「高島 発酵つながり隊」

関連リンク

「発酵するまち、高島」
「たかしま まるごと百貨店」
アレルノン

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