大徳醤油さんに教わる醤油づくりA to Z 醤油じかん上級編(前編)

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兵庫県北部、山間地帯の養父(やぶ)市で伝統の天然醸造による醤油づくりを続ける蔵、大徳醤油。100年以上もの間「有機・地域・伝統」をモットーに、地元の資源を最大限生かし、農家さんたちとの連携プレーで自然の営みに任せた醤油づくりを行われています。
豊岡市で行われているコウノトリの野生復帰に取り組み、田んぼに生き物を取り戻す農法で作られた大豆と小麦を使って作られた「コウノトリ醤油」や、『有機とは「機(とき)有るべし」』と読んで、機(とき)をかけて作られた「機(とき)有るべし」という有機醤油が看板製品です。

兵庫県北部、山間地帯の養父市
兵庫県北部、山間地帯の養父市

この春2018年5月17日から18日にかけ、念願叶って3代目浄慶耕造(じょうけい こうぞう)さん、4代目浄慶拓志(じょうけい たくし)さんに蔵見学と醤油講座を開講いただき、さらには泊まり込みで醤油用の製麹から醤油もろみの仕込みを教えて頂きました。

そもそも、麹づくりは用途に関わらず基本的に3日という期間がかかります。そのため、製麹の講座をしておられる蔵元を探すのはあまり容易ではありません。大徳醤油さんは、以前から消費者の皆さんに昔ながらの醤油の作り方を学んで頂くとともに、醤油蔵の現状、大徳醤油についても知ってもらえるきっかけになればと「醤油づくりキット」を販売してきたのですが、以前から麹づくり自体をそろそろ一般の方に教えたいなーという思いがあり、今回は醤油用の麹づくりを真剣に学びたいという参加者の思いとタイミング良く出会い、1泊2日で学ぶ強化合宿を企画する運びとなりました。
通常3日かかる製麹を、時間経過ごとの麹を用意して1日で講座をする、と快く引き受けてくださったのは現社長の浄慶拓志さん。今年の4月に3代目から4代目へ当主が受け継がれ、方方に出向かれお醤油の良さを広めておられます。
今回は初回とあって思いつく限りの内容を盛り込んで下さいました。特注の搾り器でできたてのもろみ絞り体験や、そのお醤油を使ったお料理など、盛りだくさんでお届けします。


醤油の原材料について

まずは、養父本社にて3代目浄慶耕造さんからお醤油についての座学がありました。

大徳醤油の入り口
大徳醤油の入り口

日本のJAS法で醤油と定義されているのは大豆の使用

醤油の原材料は、基本的に大豆、あるいは大豆と麦、塩、水だけでできています。
その歴史は紀元前800年、中国の書物に記された「醤」(ジャン、と読む)という字に遡ります。日本のJAS法で醤油と定義されているのは大豆の使用。
『大豆もしくは大豆及び麦等の穀類を蒸煮し、麹菌を培養したものに食塩水または生揚を加えたもの(もろみ)を発酵させ、及び熟成させて得られる清澄な液体調味料』
と定められています。言い換えると、大豆が1%でも入っていなければ醤油と呼べない、ということなり、麦だけでできている三河の白醤油も、ラベルには「醤油」ではなく「小麦醸造調味料」と表記されています。たまり醤油は、大豆100%あるいは大豆と少量の麦を混ぜてできたものです。

大豆を丸ごと使った丸大豆醤油の流通量は、全体の15%

醤油の原材料というと大豆というイメージがあると思いますが、実はその豆を丸ごと使った丸大豆醤油は全国で流通しているのは15%ほど。あとの85%は脱脂加工大豆からできているそうです。脱脂加工大豆というのは、大豆から油を取り除いたものなのですが、大豆の油の量は少ないので圧搾法では抽出できません。そのため、ヘキサンという溶剤が使われその中に油を溶かし、熱を加えると75℃でヘキサンだけが揮発し油だけが残る、という方法が取られています。それが今市販で売られている大豆油となります。
そして残った固形物の方がフレーク状の脱脂大豆となり、1970年台までは90%以上がこれを原材料として醤油に使われていたそうです。

醤油用の麹づくりの行程について予習

今回の麹づくりは、あとでご紹介する「大屋大杉」という会場で行われるのですが、実際の作業に入る前に浄慶耕造さんが流れを説明して下さいました。

醤油づくりは、『一麹、二櫂、三火入れ』。いい麹を作ることが一番大切

前述の通り醤油の原材料は大豆と麦と塩。麦は、炒煎(しょうせん)といって文字通り炒ってひき割りにします。これに蒸した大豆を合わせて、麹菌をふりかけ、これを機械製麹の場合では44時間(3日間)ほど発酵させていきます。家庭で行う場合は4日かけたほうがよいのでは、とのことでした。
そして、仕上がりの醤油の塩分を考えながら塩を水に良く溶かし塩水を作ります。およそ16-16.5%くらいになるように塩水を作り、そこにできあがった麹を入れて撹拌し、もろみにします。そして発酵、熟成し、圧搾して生醤油と粕ができるのですが、その生醤油を85度くらいで火入れをします。それから濾過し、検査し、やっと醤油ができるとのことでした。
醤油づくりには、『一麹、二櫂、三火入れ』という言葉があり、いい麹を作ることが一番大切とされます。「櫂(かい)」とはもろみを適正な状態に保つための手入れ。そして絞ったあとの加熱処理が「火入れ」です。

醤油の麹には、なぜ大豆と麦の2つの穀物が使われるのか?

なぜ大豆と麦、2つの穀物を使うのか? 味噌も酒もお酢も米のみ。ですが醤油には、タンパク質の多い大豆と、デンプン質の多い麦が使われます。
この大豆のタンパク質は、麹菌の出す酵素ペプチダーゼによっておおまかにペプチドというタンパク質の大きな粒子のかたまりに分解され、さらにはプロテアーゼという酵素でもっと細かいアミノ酸に分解されます。ペプチドは醤油にコク味、厚みを出し、アミノ酸は旨味をつけると浄慶さんは語ります。また、大豆の中の脂質は麹菌の出すリパーゼという脂質分解酵素によって、甘みを感じる物質グリセリンに分解されます。
一方、小麦のデンプン質はデンプン質分解酵素アミラーゼによって分解され、グルコース(ブドウ糖)になります。このグルコースは微生物の餌となり、それを乳酸菌が食べて乳酸発酵がおき、またそれを酵母が食べるとアルコール発酵がおきます。グルコースは微生物のエネルギー源となって、醤油づくりの中で分解と発酵という行程が時間をかけて起きているのです。
また、分解によって生まれたアミノ酸が糖と結びつくと化学反応がおきます。これをメイラード反応といい、人間の遺伝子修復に役立つ抗酸化作用がとても強い物質、メラノイジンができます。他の食物同様、醤油の色はこの反応によって濃くなっていきます。

様々な微生物が生息することで生態系が守られ、自然の営みに委ねていく醤油づくり

「蔵には、醤油に役立つ微生物だけではなくて、この地域に住む微生物みんながいてくれるといい」と浄慶耕造さんは語ります。
様々な微生物が生息することで生態系が守られ、持ちつ持たれつの環境で自然の営みに委ねていくーそんな醤油づくりを、大徳醤油さんはずっと心がけてきたのだな、と感じました。

醤油用の麹づくり~大豆の原料処理~

醤油づくりの細かい行程における大豆の原料処理について、いくつかポイントを教えていただきました。

大豆は完全に吸水させる

大豆はきれいに洗い、一晩浸漬させます。重さでだいたい2.25倍、かさで2.4倍くらいになるまで完全に吸水させます。
そうすることによって、この後の蒸しの行程で熱が通りやすくなるのだそうです。また、タンパク質は熱変性することによって、麹菌の作用を受けやすくなります。

大徳醤油3代目・浄慶耕造さんによる座学
大徳醤油3代目・浄慶耕造さんによる座学

「麹菌は、大豆に生えるのではなく、水に生えると言います」ホワイトボードに絵を書きながら、浄慶さんが丁寧に説明していきます。水に向かって菌糸を伸ばしていくため、大豆を割ると米麹と同じように破精(はぜ)込みが色の変化で確認できるそうです。
また、大豆の栄養成分が流出しすぎてしまったり、水が腐ってしまうのを防ぐため、浸漬させすぎるのも良くない、とのことでした。

大徳醤油さん秘伝! 大豆の浸水時間を測る方程式

とても興味深かったのは、大徳醤油さんが経験から編み出した、大豆の浸漬時間を生み出す方程式。
それは、『30-水温=浸漬時間』。
30というのは基準値として前提にあり、そこから大豆を浸漬する水の温度を引くと浸漬すべき時間が算出できる、という魔法のような計算式です。例えば、水温が18度だとすると、大豆の浸漬時間は12時間でよいことになります。

浸漬させた大豆は蒸していきます。

醤油用の麹づくり~小麦の原料処理~

小麦を炒って粉砕する

次に、小麦の原料処理について。家庭の場合は、フライパンで小麦を炒っていきます。焦がさないように、ぷっくりと膨れるまで炒っていきます。蔵では、川砂と一緒にバーナーで炒っているそうです。また、フライパンで炒る時にはパッパッと水を時々かけてあげるのがポイントだと教えていただきました。小麦が炒れたらミキサーで荒く粉砕していきます。

醤油用の麹づくり~種切り~

大豆と小麦を冷まして麹菌を振りかける

大豆と小麦の原料処理が出来たら、両方とも40℃以下まで冷ましていきます。これは、振りかける種麹の麹菌が熱で死活してしまわないようにするためです。この時、小麦の方を少量だけ取り分けておき、そこへ種麹を混ぜて、残りの小麦と大豆を混ぜたものに満遍なく振りかけ、よく混ぜていきます。これが種切りです。

麹の温度帯の変化

醤油用の麹を作る際、最適なスタートの温度は28℃。そのまま17時間位経過した頃から麹菌は動き出し、品温は上がっていきます。品温が32℃まで上がったら一回目の手入れ(混ぜて、放熱をはかる)をします。その後、今度は品温が34℃まで上がったら二番手入れ。それから品温を25℃くらいまで落として包み込み(麹菌をふって大豆と小麦を保温のために包み込む)から44時間後、あるいは出麹までそれをキープします。

丁寧でわかりやすく解説してくださる、大徳醤油3代目・浄慶耕造さん
丁寧でわかりやすく解説してくださる、大徳醤油3代目・浄慶耕造さん

手入れを最小限にとどめ、ふっくらとした水分の多い麹をつくる

家庭で行う場合は、品温が上がりやすいため頻繁に手入れを行う必要が出てきます。しかし、混ぜすぎると麹菌の生育が遅れ雑菌の繁殖にも繋がるので、手入れはあくまで最小限にとどめることが大事なのだそうです。
ポイントは、ふっくらとした水分の多い麹をつくること。良い麹をつくるには、過度の乾燥を防ぐ必要があります。早い段階で十分品温を上げてから、速やかで軽い手入れをすると水分の過剰な抜けを免れることができるとのことでした。

いよいよ工場見学

さて、いよいよ4代目の浄慶拓志さんに工場の中を案内していただきました。

入り口には「麹室/Koji room」と名札がありました。おしゃれです
入り口には「麹室/Koji room」と名札がありました。おしゃれです

小麦を炒る機械の説明をしてくださる浄慶拓志さん
小麦を炒る機械の説明をしてくださる浄慶拓志さん

川砂と一緒に小麦を炒る

こちらが小麦を炒る機械。この中で川砂と一緒に小麦を炒り、遠心力でその二つを分けます。小麦と大豆は重量でなく容量で同じ量を使用するのが昔ながらの醤油づくりのレシピなのだそうです。
ちなみに工場の壁はすぐに汚れてしまうのだそうで、昔は「醸造屋は建物を黒くして一人前」と言われたほど、胞子がつくと本当に真っ黒になるのだそうです。

小麦と大豆を合わせて麹にする

炒って砕いた小麦を大豆と一緒にします。極少量の麹菌をふりかけて麹にします。大徳醤油さんは、樋口松之介商店さんのヒグチモヤシを使われていました。

もやしの説明をしてくださる浄慶拓志さん
もやしの説明をしてくださる浄慶拓志さん

こちらは製麹室。ここに種切りをした大豆と小麦を薄くしいて麹にします。

大徳醤油の製麹室
大徳醤油の製麹室

昔は朝も夜手作業で温度管理をしていましたが、今は機械を使って品温は通風で管理できるのだそうです。麹はだいたい重さにして、仕込み時の1.2倍の2トン近くが一度にできることになります。

念願の蔵見学

次は、蔵の中を見せていただきます。ここは約13年前に建て替え、地元の大工さんと共に、コンクリートのタンクを作った上に隙間なく杉を貼ったのだそうです。この方法を取った理由は2つあります。ひとつ目は、職人が減り続ける今、自分達でメンテナンスがしやすいようにしておくこと。2つめは、この土地の微生物が住みやすい環境にすること。そのために、地元である大屋の杉を使って「この蔵全体が樽」というイメージで、壁も天井も全て、同じ大屋の杉を張り巡らせたのだそうです。

その言葉通り、壁にも天井にもびっしりと菌糸がはびこっていました
その言葉通り、壁にも天井にもびっしりと菌糸がはびこっていました

もろみが入った桶は、醤油の味や原材料の産地・農法によって分類されている

もろみの入った四角い桶
もろみの入った四角い桶

このような四角い桶が並んでおり一つ一つに違うもろみが入っているのですが、濃口、淡口など味の違いで分かれているだけではありません。例えば鳥取の学校給食用に使われる鳥取県産の大豆を使って仕込まれたもろみや、コウノトリ農法で作られた大豆と小麦のもろみなど、産地や農法でも分けられているとのことでした。

蔵付きの酵母を受け止め、その多様性にすべてを委ねた醤油づくり

完全無菌のFRP(繊維強化プラスチック:Fiberglass Reinforced Plastics)のタンクに酵母を添加し、加温して短期間で発酵させる醤油づくりとは違い、開放型のタンクを使用することで、上から落ちてくる蔵付きの酵母もすべて受け止めて、その多様性にすべてを委ねた醤油づくりをしているのだそうです。
もろみの比率は原料の体積に対して塩水を1.1。家庭で行う場合は絞れなくなると難しいので、塩水は多めでもいいとおっしゃていました。諸味は仕込んでから一週間は荒櫂(あらがい)と言って塩が全体にまわるよう毎日撹拌します。その後は様子を見ながら、産膜酵母の気配が出たらもろみが酸素を欲しがっているサインなので、また撹拌して空気を入れてあげる、という感じで手入れをしていきます。
醤油づくりでは、乳酸発酵で酸度をある程度上げ、酵母発酵の環境を整えてあげるといいのだそうです。

地元の人にも微生物にも愛される、天然醸造にこだわる蔵元・大徳醤油

「春仕込み、秋仕込みそれぞれの良さがあります。僕、醤油づくりで同じものを造ろうとはあんまり思っていないんですよ。自然にできたものを自然に食べてもらうほうがいいんじゃないかなーと思います。」と拓志さんは語ります。天然醸造にこだわる蔵元ならではの考え方は、地元の人にも微生物にも愛されているんだなーと思いました。

もろみを搾った後の粕は、淡路島の牛の餌として活用

これは諸味を絞る圧搾機。3日間は自然に諸味自体の重さで液体部分を取り、最終的にこの圧搾機で圧をかけていくのだそうです。
搾り取った後の粕は淡路島の牛の餌になっているとのことでした。

圧搾機の説明をしてくださる浄慶拓志さん
圧搾機の説明をしてくださる浄慶拓志さん

搾りたての醤油は赤い色をしているのだそう。ちなみに、減塩醤油で塩分濃度7%くらいの醤油よりも天然醸造で16%ほどの醤油の方が血圧を上げないのだそうです。それは、醤油の一つの役割―発酵を経た塩を安全に体に取り込む技術なのかな、とおっしゃっていました。

さて、このあとはいよいよ醤油用の麹づくりに入っていきます。後編をお楽しみに。


取材協力

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