「愛酒の日」に考える日本酒の国際的普及。ワインの国フランスで実施される、学生が開発した日本酒のテストマーケティング

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お酒好きの方にとってはなんともうれしい記念日が、8月24日の「愛酒の日」。お酒を愛し、お酒にまつわる歌をたくさん残している歌人・若山牧水の誕生日が8月24日であることから、この日が「愛酒の日」に制定されたようです。

8月24日は「愛酒の日」
8月24日は「愛酒の日」

若山牧水が愛した日本のお酒は、現代では「SAKE」として海外でも一大ブームになっています。しかし、各国で飲まれているのは、一部の銘柄の日本酒だけなのだとか。
そこで、愛知県名古屋市の名城大学で実施されている「チャレンジ國酒プロジェクト」では、日本酒の国内需要の低迷とは裏腹に、輸入量が伸びている海外の酒市場向けの日本酒を開発しています。また、地域の関係者とともに製品化し、日本酒普及に貢献しながら市場へ参入するというプロジェクトが進行中です。そして、この9月には、白ワインの生産地として有名なアルザス地方で、名城大学が開発した日本酒によるテストマーケティングが実施されます。

名城大学農学部応用微生物学研究室の加藤雅士教授らは、2010年に、愛知県が全国有数の産地を誇る「カーネーション」から酵母を取り出すことに成功、2013年にはその酵母を使った日本酒『華名城(はなのしろ)』を商品化したことでも有名です。

名城大学で開発された赤いカーネーションから採取した酵母を使った日本酒『華名城(はなのしろ)』
名城大学で開発された赤いカーネーションから採取した酵母を使った日本酒『華名城(はなのしろ)』

そこで今回は、日本酒『華名城(はなのしろ)』の開発秘話や、アルザス地方でのテストマーケティングについて、名城大学の加藤雅士教授と、名城大学日本酒研究会の阪野里帆さん、コーディネーターの宮田久司さんにお話を伺いました。

カーネーションから取り出した酵母を使った日本酒『華名城(はなのしろ)』とは、どんなお酒?

名城大学農学部応用微生物学の加藤雅士教授にお話を伺いました。

お酒の科学について講演なさる名城大学農学部応用微生物学の加藤雅士教授
お酒の科学について講演なさる名城大学農学部応用微生物学の加藤雅士教授

日本酒市場の開拓には新しい清酒の開発が必須

ハッコラ:加藤雅士教授が、名城大学の学生とお酒を開発された理由を教えてください。

加藤雅士教授:近年の消費者の嗜好多様化に伴い、清酒消費量が減少しています。とりわけ、若年層の清酒離れは深刻です。その一つの理由として、アルコール飲料のニーズの多様化、そして、従来の清酒が消費者ターゲットの嗜好に添っていないことなどが考えられます。「この状況を打破する新たな清酒を開発できないか?」という想いから、当名城大学のように、各大学、研究機関と地元産業がコラボレーションし、各地のシンボルともなりうる、そしてイメージも良い花から有用酵母を分離して、新しい味の清酒を醸造するケースが増えています。

酵母はお酒のキャラクターを決める重要な鍵

ハッコラ:今回のお酒の開発で、なぜ“酵母”に着目されたのでしょうか?

加藤雅士教授:まずは、お酒の製造工程を簡単に説明しますと、お酒は人と米と麹菌、水、そして酵母でできる芸術品で、酵母がブドウ糖からアルコール(エタノール)と炭酸ガスを生成する“発酵”によって作られます。

何百もの種類がある酵母ですが、酒醸造には通常、プロ用の清酒酵母(サッカロミセス・セレビシエ:Saccharomyces cerevisiae)が使われます。ある清酒酵母は「発酵力が強く、香りは低くまろやかな酒作り」を担い、ある酵母は「もろみで華やかな香りと吟醸香が高い」酒作りをする、といったように、酵母はお酒のキャラクターを決める重要な鍵なのです。

全国有数のカーネーションの産地・愛知県だから見つかった!?カーネーションから酵母を発見

カーネーションから発見された酵母で日本酒を開発
カーネーションから発見された酵母で日本酒を開発

ハッコラ:カーネーションの酵母はどのようにして発見されたのですか?

加藤雅士教授:2010年に名城大学に赴任した私は、「ラーン&アクション・フォー・國酒プログラム(※)」の中で、新しいお酒を作るために、農学部応用微生物学研究室の学生と一緒に、各種植物から清酒作りに適する酵母を探す研究を始めました。大学に咲いている花200種類ほどを集めて検索をはじめ、約3ヶ月後、赤いカーネーションから、お酒作りをする清酒酵母(サッカロミセス・セレビシエ:Saccharomyces cerevisiae)の仲間が見つかったんです。

(※)ラーン&アクション・フォー・國酒プログラム:名城大学の事業「学びのコミュニティづくり創出支援事業」と国際日本酒普及連盟(ISF)が連携したプロジェクト。国際的な日本酒普及のため、有識者を招き、一般の方、および、学生が共に学び交流する「美食とお酒の広場」も開催している。学生発の海外向け日本酒の製品プロデュースを行う「チャレンジ國酒プロジェクト」はそのひとつ。

カーネーションの酵母で醸した『華名城(はなのしろ)』は低アルコールで飲みやすい日本酒

ハッコラ:カーネーションの酵母は、そのままお酒の開発に活かすことができたのでしょうか?

加藤雅士教授:2年ほど「あいち産業科学技術総合センター」の協力で試験醸造を繰り返し、酵母の最適化(※)を行いました。

(※編集部注)酵母の最適化:カーネーションから分離した清酒酵母(サッカロミセス・セレビシエ:Saccharomyce cerevisiae)を清酒醸造に最適化するために、香気成分生成能を改良(セルレニン耐性の付与)した酵母「MC9株」を取得した。

この酵母で醸すと、約11%と低アルコールで、初めて日本酒を飲む女性にも好まれるような、上品な甘みとフルーティーな酸味を持つお酒ができる、という結論に達しました。その後、地元の原田酒造に協力を願い、学生とともに醸造し製品化に成功。学内公募でネーミングも決まり、2013年『華名城(はなのしろ)』の発表に至りました。地元のメディアに取り上げていただき、発売初年度は限定製造の1,000本がすぐに売り切れるほど盛況ぶりでした。

世界に広げたい!新しい味の日本酒文化

イベントで日本酒『華名城(はなのしろ)』を販売する名城大学日本酒研究会のみなさん
イベントで日本酒『華名城(はなのしろ)』を販売する名城大学日本酒研究会のみなさん

ハッコラ:今後の展開を教えてください。

加藤雅士教授:海外市場用の清酒開発を行うプロジェクトとして、9月に、白ワインの生産地として有名なフランス・アルザス地方で、我々が開発した日本酒のテストマーケティングを行います。このお酒を元にしたデザート用の酒と、愛知県産のお米と酵母をつかった淡麗、辛口のお酒の試作品を持って参ります。現地で、どんな味や香りのお酒がフランス人に受けるのかを見極めて、製品開発に反映させる予定です。

白ワインの生産地として有名なフランス・アルザス地方で実施される、名城大学が開発した日本酒のテストマーケティング

コーディネーターである、国際日本酒普及連盟(ISF)の宮田久司さんにお話を伺いました。

日本酒について講演中の国際日本酒普及連盟の宮田久司氏
日本酒について講演中の国際日本酒普及連盟の宮田久司氏

テストマーケティングは、名城大学生のアクティブラーニング(実践教育)「チャレンジ國酒プロジェクト」の一環

名城大学の「チャレンジ國酒プロジェクト」講義風景
名城大学の「チャレンジ國酒プロジェクト」講義風景

ハッコラ:名城大学が開発した日本酒のテストマーケティングを、フランスで実施なさる理由を教えてください。

宮田久司氏:文理融合型総合大学である名城大学は「ラーン&アクション・フォー・國酒プログラム」を支援していまして、その中に、学生が日本酒を海外市場にアプローチする「チャレンジ國酒プロジェクト」があります。商品の企画から製造、マーケティング、販売、検証を、4年の期間を通じて一貫して学習するアクティブラーニング(実践教育)のひとつです。

これは、学生が地域の関係者と連携しつつ学習することで、学習的価値を社会的・産業的価値に結びつけていくことを目論むものです。その中で「チャレンジ國酒プロジェクト」は、日本酒の国内需要の低迷とは裏腹に、輸入量が急激に伸びているフランスの酒市場向けに日本酒を開発、地域の関係者とともに製品化し、日本酒普及に貢献しながら市場へ参入、というシナリオに沿って進行しています。

日本酒の国際普及効果を産み、文化の相互理解や新たな文化の創造へと繋がる「チャレンジ國酒プロジェクト」

アルザス地方のストラスブール
アルザス地方ストラスブール

ハッコラ:実際にどのようなテストマーケティング実施される予定ですか?

宮田久司氏:今回学生たちは、アルザス地方のストラスブールとコルマールへ訪れます。そこの風土や文化を体験する中で、アルザス・ワイン協議会と国立農業研究機関にご協力いただいて、ワインと日本酒の微生物学的な観点に触れながらのテイスティングを実施し、フィードバックを得ます。また、現地のシェフを招き、名古屋文化短期大学の山田実加准教授や学生によるスイーツとお酒とのマリアージュに挑んでいただく機会も設けます。現地の大学と連携した公開講座なども計画中です。

これからも、学生たちはこのプロジェクトで、日本酒の国際普及効果を産み、地元業界関係者と出会い、協力し、共に学習していくでしょう。この双方向の経験が、文化の相互理解や新たな文化の創造へと繋がっていって欲しいです。

ワインを愛するフランスの方に、日本酒の良さを伝えたい

名城大学農学部生物資源学科3年生で、日本酒研究会の阪野里帆さんにお話を伺いました。

名城大学農学部の阪野里帆さん
名城大学農学部の阪野里帆さん

ハッコラ:このプロジェクトへの抱負を教えてください。

阪野里帆さん:今までの日本酒のイメージとは違う、私たちが開発中の新しい日本酒をフランスの方に飲んでいただき、反応を直接、現地で感じ取れるのを大変楽しみにしています。日本酒を飲んだことがあるフランス人も多いと聞きますが、日本酒を全く知らないフランス人にも、日本酒の良さを伝えられればいいなと思います。

2013年『華名城(はなのしろ)』は限定製造の1,000本がすぐに売り切れた
2013年『華名城(はなのしろ)』は限定製造の1,000本がすぐに売り切れた

学生による酒米田植え
名城大学の学生は、酒米田植えも経験した

フランスの中でも特にグルメな地方として有名なアルザス地方でのテストマーケティングは、日本酒の国際的な普及に大きな成果が期待できそうです。名城大学と国際日本酒普及連盟(ISF)が連携したプロジェクト「ラーン&アクション・フォー・國酒プログラム」、これからも目が離せません。

取材、文=知子・フレデリックス

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