江戸時代の発酵コスメ『紅』、その秘伝の発酵技法とは?【中嶋マコトの発酵コスメビューティ】

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江戸時代の女性にとって憧れのコスメであった『紅』。紅花から作られた口紅である『紅』が、実は発酵の技法を用いて作られていることをご存知ですか?
今回は、現在日本にたった一社だけ、秘伝の技法で紅を作り続けている伊勢半本店さんの「伊勢半本店 紅ミュージアム」に、モデルでビューティジャーナリストの中嶋マコトさんとお伺いしました。

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江戸時代の発酵コスメ『紅』、その秘伝の発酵技法とは?【中嶋マコトの発酵コスメビューティ】

この「伊勢半本店 紅ミュージアム」は、紅の文化と技をこれから先の世まで途切れることなく繋げていけるようにという願いを込めて設立されました。今回、丁寧なご説明と共にご案内してくださったのは、江戸の文政8年から続く株式会社伊勢半本店・本紅事業部の島田美季さん(左)と阿部恵美子さん(右)です。

江戸時代から続く『紅』とは

江戸時代から続く『紅』とは
©Ryoichi Toyama

マコトさん:江戸時代の女性たちのくちびるを彩った紅は、口紅以外でも大活躍だったんですよね?

阿部さん:そうなんです。紅は口紅や目元のポイントメイクなどお化粧に使われる他にも、様々な用途があり、布の染料として、和菓子などの食紅として、浮世絵などの絵の具、神社や寺のお守りなどの文字を書くといったことに使われていました。また、昔は血の巡りを良くする作用があるとも信じられており、女性の身体を病気から守るものとみなされてきました。そんな紅は、紅花の花弁にわずかに含まれる1%の赤色の色素から作られます。

マコトさん:たった1%…! ものすごく貴重なんですね。

阿部さん:ええ。紅花は、一見すると黄色なのですが、その黄色を洗い流して洗い流して、やっと赤色と出会えるのです。紅花の原産地は中近東・エジプトといわれ、シルクロードを渡って中国に伝来し、日本には3世紀中頃までには伝わっていたようです。

紅花
©Ryoichi Toyama

マコトさん:日本伝来のルートを聞くと、ますます紅が大切に思えてきますね。

紅と伊勢半本店の歴史

マコトさん:伊勢半本店さんでは、いつごろから紅を作っていたのですか?

阿部さん:その昔、紅は京都を中心に作られており、江戸では京都などで作られたものを仕入れて売っていたそうです。お化粧の習慣が一般庶民に普及したことで江戸でも盛んに作られるようになり、伊勢半本店は江戸時代後期に澤田半右衛門によって創業されました。初代澤田半右衛門のたゆまぬ努力に試行錯誤を重ねた末、京都製の紅に劣らない玉虫色の紅が完成したのです。

「小町紅」も、見た目は紅色ではなく玉虫色
©Ryoichi Toyama

マコトさん:玉虫色…。たしかに、サロンスペースで販売されている「小町紅」も、見た目は紅色ではなく玉虫色ですね。

阿部さん:水で溶くと、紅色に発色します。この玉虫色の輝きこそ、純度の高い良質な紅の証しです。その評判はたちまち江戸に広がり、今日に至るまでその製法は歴代の紅匠(紅職人)により受け継がれています。伊勢半本店の紅の製法は、代々口伝えで受け継がれてきた門外不出の秘伝の技。昔は一子相伝、代々たった一人の職人にしか教えず、現代でも技を受け継いでいるのは二人のみです。

マコトさん:伊勢半本店さん一社だけが、江戸時代の製法をそのままに、紅作りを続けているのですものね。

阿部さん:だからこそ、最後の紅屋としてその伝統と文化を伝えていかなければ、と思っています。

紅も発酵している!

マコトさん:伊勢半本店さんの紅についてはもちろん知っていたのですが、発酵の技法が使われていたことに、改めて驚かされました。

阿部さん:そうなんです、紅花を発酵させることでなんとも言えない紅色が誕生します。紅づくりの工程は以下となります。

花弁を摘み取る。
1.花弁を摘み取る。

花弁についた汚れや葉、ガクなどの異物を丁寧に取り除き、水洗いする。
2.花弁についた汚れや葉、ガクなどの異物を丁寧に取り除き、水洗いする。

手でよく揉みながら黄色い色素を洗い流し、日陰で朝・昼・晩と水を打ちながら発酵させる。
3.手でよく揉みながら黄色い色素を洗い流し、日陰で朝・昼・晩と水を打ちながら発酵させる。

発酵した花弁を臼に入れて搗(つ)き、いったん団子状に丸めてから煎餅状に潰し、天日干しをして紅餅が完成する。
4.発酵した花弁を臼に入れて搗(つ)き、いったん団子状に丸めてから煎餅状に潰し、天日干しをして紅餅が完成する。

※紅作り工程写真撮影:外山亮一

マコトさん:この紅餅の状態から、伊勢半本店さんで紅を作り出していくんですね。

阿部さん:紅餅は保存が効く上に、乱花(摘んだ花弁をそのまま乾燥させたもの)より赤い色素が多く抽出できるという利点があるので、江戸時代から紅餅に加工して出荷されています。紅餅は一晩水につけて、アルカリ性の灰汁と酸性の梅酢を順に加えて赤色色素を取り出します。ここでは「ゾク」と呼んでいる麻の束を使い、紅液をどんどん濃縮していきます。この濃い紅液を羽二重をかけたセイロに流し入れて濾すことで、ようやくドロッとした紅「艶紅」が抽出できるのです。それをおちょこに塗って乾かすと、玉虫色の紅になります。

それをおちょこに塗って乾かすと、玉虫色の紅になります。
©Ryoichi Toyama

マコトさん:でも、紅を玉虫色にするのが難しいんですよね?

阿部さん:紅花そのものの状態が気候などに左右され均一ではないので、「こうすれば必ず玉虫色になる」というマニュアル化はできません。ですので、紅職人は経験で補っていくのです。

マコトさん:まさに職人技…! おちょこ一杯の紅を作るのに、どれくらいの紅花が使われているのですか?

阿部さん:約1000輪の紅花が必要です。最大の紅花の産地としても有名な山形県で育つ最上紅花の開花期には、わたしたちも紅花の花弁を摘み取りに行っています。最上紅花はとても棘が多いので、朝露で棘が柔らかい早朝に手摘みをしているんですよ。

マコトさん:丁寧に摘まれた1000輪の紅花がこの紅に凝縮されていると、とても感慨深いですね。

次回は江戸時代の女性が紅を使っていた様子や、実際に紅を使ってみた体験についてお届けします。
(text:まつながなお

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お話をお伺いしたのは…

中嶋マコト モデル ビューティジャーナリスト アロマセラピーアドバイザー 気学鑑定士

中嶋マコト
モデルとして雑誌·広告·CMなどで活躍。その経験から培った知識をいかし、ビューティジャーナリストとしても 雑誌·web·イベント·TV·ラジオ等、多方面にて活躍中。繊細な感覚から生まれる、カラダにやさしい美容·食·ファッションの提案や連載には定評がある。アロマセラピーアドバイザーや気学鑑定士の資格を活かし、セミナー講師をするなど仕事の幅を着実に広げている。
http://www.ipsilon-japan.com/profile/makoto/

伊勢半本店 紅ミュージアム
©Ryoichi Toyama

伊勢半本店 紅ミュージアム
所在地:〒107-0062 東京都港区南青山6-6-20 K’s南青山ビル1F
TEL:03-5467-3735
開館時間 :10:00~18:00(入館は17:30まで)
※ただし、企画展開催中は開館時間に変更が生じる場合があります。
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日または振替休日の場合は、翌日休館)、年末年始
http://www.isehanhonten.co.jp/index.html

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