タイ、チェンマイの納豆「トナオ」中編:トナオ料理を食べる【諸国菌食紀行】

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フリーランスの料理人であり、発酵トラベラーでもある安田花織さんの「諸国菌食紀行」。前回は、タイの納豆「トナオ」の作り方を、チェンマイのタン村で現地のトナオアーチャン(納豆先生)に教えてもらいました。今回は、いよいよ「トナオ」を使ったさまざまな料理に挑戦します。

✔タイの納豆「トナオ」について、トナオアーチャン(納豆先生)に教えてもらいました!
タイ、チェンマイの納豆「トナオ」前編【諸国菌食紀行】


タイの納豆「トナオ」を使った納豆料理教室がスタート

カラリと晴れた青空の下、いよいよ待望の納豆料理教室が始まろうとしていた。

タイでのトナオの食べ方は、日本の納豆のようにそのままご飯にかけて食べることはせず、スープやカレー、炒め物などに入れて旨味をつける役割が多いと聞いていたので 、一体どんな風に使っていくのか、何を合わせるのか、ずっと楽しみで仕方がなかった。

とはいえ、タイの奥地で納豆料理をタイの人に習う日が来るなんて思いもしなかった。しかも。納豆に七輪が用意されていて、何だかおかしな気分。

ハーブやスパイスを多用していくものと思っていたが意外にでシンプルな食材や調味料
ハーブやスパイスを多用していくものと思っていたが意外にでシンプルな食材や調味料。

タイの納豆「トナオ」に合わせる食材や調味料

まずは簡単に食材や調味料を説明してもらう。
トナオ以外はトマトやニンニクなどの野菜に、豚肉粗挽き、卵、塩、粉唐辛子、ナンプラー(魚醤)、カピなどの調味料。
初めて見るものや特別なものは特にない。

ナンプラーはタイの発酵調味料で、魚を塩と共に漬け込み、自己消化、好気性細菌の働きで発酵させたものから出た液体。貴重なタンパク源の保存ができる上、魚の動物性タンパク質が分解されてできたアミノ酸を豊富に含んだ、すばらしい発酵調味料だ。
ちなみに日本には「しょっつる」や「いしる」など、ナンプラーと似た魚醤がある。

今回用意された調味料の中で、日本に馴染みの薄いものといえば「カピ」だろうか?

タイの代表的な発酵調味料「カピ」

タイの納豆「トナオ」に合わせる調味料「カピ」

「カピ」とは主にオキアミを塩で発酵させた塩辛のような滋味深い味わいがあるタイの代表的な発酵調味料で魚醤の一種。英語圏では「シュリンプペースト」、インドネシア語では「トゥラシ」と言われている。
ナンプラー同様、発酵により保存性だけでなく栄養や旨みも増加。独特の臭みは加熱する事で香ばしい香りに変わるため、炙ってから使ったり、炒め物などの料理で使われている。

タイの納豆「トナオ」を使った料理がスタート

タイ料理に欠かせない調理器具「クロックヒン」と呼ばれる石臼

タイ料理に欠かせない調理器具「クロックヒン」と呼ばれる石臼

タイでは「クロックヒン」と呼ばれるこの石臼が調理には欠かせない道具で、食堂や家からぽくぽくと小気味いい音とともに料理を作る風景を何度も見かけた。
クロックヒンは石の重さと硬さを利用して「割る」「叩く」「砕く」「すり潰す」の作業がこれひとつでできる。また、構造が簡単なので、洗いやすく乾きやすい。野菜から肉、魚介類、スパイス、調味料までと幅広く使えるとても優れた調理器具だ。

私もやらせてもらったが、簡単そうに見えてアーチャン(先生)のようにはぽくぽくと上手く均一には潰せないし、コツが掴めていないので体に力が入ってしまって、結構腕が疲れてしまった。

1品目は、タイの納豆「トナオ」をバナナの葉で包んで蒸したもの

さっそくトナオアーチャン(納豆先生)が1品目に取り掛かった。

クロックヒンの中にニンニク、塩を入れ、石の棒で潰す。そこへトナオを入れ更に潰す。
ペースト状になったら塩で味を整え、バナナの葉にスプーン2杯くらい入れて、折りたたむように包み折り目を下にして蒸し器へ並べていく。

包む前に味を見ると、納豆と味噌の中間のような味で、塩だけとは思えない奥深くまろやかな風味だ。

重たい石の臼で潰していく
重たい石の臼で潰していく。

庭のバナナの葉で包んでいく
庭のバナナの葉で包んでいく。

15分くらい蒸す
15分くらい蒸す。

2品目は、唐辛子が入ったタイの納豆「トナオ」をバナナの葉で包んで焼いたもの

七輪は1台しかないので、1品目を蒸している間に2品目も同じ要領でクロックヒンでニンニクを潰しトナオを入れる。
こちらには唐辛子が入り、包んだものは蒸さずに炭火で焼く。

七輪に焼き網。
七輪に焼き網。

味付けは塩のみ、作り方もとってもシンプル。
味付けは塩のみ、作り方もとってもシンプル。

3品目は、タイの納豆「トナオ」を使った納豆卵焼き!?

そして次の料理へ。またもクロックヒンにニンニクをいれ、更にトナオをいれ潰していく。
ある程度、潰れたところへカピを入れ塩で味を整える。そして唐辛子を入れ、一旦置いておき別の料理に取り掛かった。

クロックヒンを使ってニンニクとトナオ、カピを潰す
クロックヒンを使ってニンニクとトナオ、カピを潰す。

どんぶりを手に取りナンプラー、卵を入れて混ぜ、そこへトナオを入れ、更に混ぜていく。

結構たくさんトナオを入れる。
思ったよりたくさんのトナオを入れる。

「おお、納豆卵焼き! うちもこれよく作るやつ!」と思ったが、次の工程でアーチャンがフライパンにどぼどぼと油を入れ始めた。どうやらこちらが思っていた納豆卵焼きとは少し違うらしい。

卵を入れる油の温度が低すぎたら、卵に油が入り込みベタベタになってしまうし、温度が高すぎても焦げてしまう。
油がちょうどいい温度になったのを確かめて、アーチャンがジョワーッと卵を入れると、ブワブワーッと卵が膨らんだ。
焼くというより揚げている感じ。

油の中に卵を入れる
油が多い。

揚てるに近い。トナオとナンプラーのいい香りが上がってくる。
揚てるに近い。トナオとナンプラーのいい香りが上がってくる。

もう片面もじっくり焼く
もう片面もじっくり焼く。

混ぜると卵に油が入り込むので、卵を混ぜずに片面を焼き、固まったらひっくり返し、きつね色になったら完成。

4品目は、「カピトナオ」と豚肉とトマトの炒め物

そして先ほど潰しておいたカピを加えたトナオの出番がきた。

このカピトナオは二つの異なる発酵が複雑な旨みを醸していて、そのままでも大変美味しい。
居酒屋の短冊に「ピリ辛海老塩辛納豆」なんてあったら絶対人気メニューになること間違いなしな味だと思う。

熱した鍋にカピトナオ、豚肉、トマトの順で炒めていく。
熱したことでトナオの香りが強くなり、カピが香ばしい香りに変わり、最高においしそうな匂いになる。そこへ豚肉の油の甘さやトマトの酸味が加わって一つになっていく。

カピトナオを炒める
まずはカピトナオを炒める。

カピトナオにトマトを加える
カピトナオにトマトを加える。

発酵した食材に火が入った香ばしい香りとフレッシュなトマトの甘酸っぱい匂いがたまらない
発酵した食材に火が入った香ばしい香りとフレッシュなトマトの甘酸っぱい匂いがたまらない。

私が食べたくてたまらない顔をしていたからだろうか、スプーンで味見ではなく皿にご飯を入れてもってきてくれた。
なんという心遣い! 早速ご飯とともに口に運ぶと、ピリっとした辛さの後に複雑な旨みが広がってめちゃくちゃ美味しい! ご飯にもしっかり合う。合うどころの騒ぎじゃ無い、止まらなくなってしまった。

米はさらっとしたタイ米
米はさらっとしたタイ米。

タイの納豆「トナオ」尽くしのランチ

ずらりと並んだ料理

あっという間にトナオ料理が4品出来た。
作った料理に野菜、近くで採って茹でておいてくれた旬の筍。アーチャンとお家の方々と庭のテーブルに集まって、トナオ尽くしの料理を囲んでお昼をすることになった。

タイの納豆「トナオ」ランチの献立

・トナオのバナナの葉蒸し
・トナオのバナナの葉焼
・トナオ卵焼き
・カピトナオと豚肉のトマト炒め煮
・野菜
・かぼちゃのトナオスープ(事前に作っておいてくれたもの)
・サラサラとした黒米の入ったご飯ともち米2種類ご飯

タイの納豆「トナオ」のバナナの葉蒸し&バナナの葉焼

バナナ蒸しはふっくらしっとりした感じでトナオの香りも強い

バナナ蒸しはふっくらしっとりした感じでトナオの香りも強い。そのまま食べてもいいしご飯にのせたり、野菜につけて食べる。
バナナの葉焼も同じ感じで食べるが、ピリ辛なのと、焼いた香ばしさが加わり、個人的にはこちらが好み。
蒸しても焼いても、どちらも火を入れる前より味も香りもまろやかになっている。肉や魚にのせて蒸したり焼いたりしても美味しそうだなと思った。

タイの納豆「トナオ」の卵焼き

トナオの卵焼きは、やはりうちで作るのとは全然違う。
まず、元の納豆の香りと味が強いので、油が多少強くても納豆の風味は消えていないし、逆に油のコクがあることで食べ応えがある。
本来肉や魚が豊富にとれる場所ではないから発展したであろう、タイのトナオ(納豆)文化。卵と合わせて貴重なタンパク質源にもなるし、オカズとしての満足度も高い。

「カピトナオ」と豚肉のトマト炒め煮

カピトナオと豚肉のトマト炒めのおいしさを日本の料理で例える事は難しい。魚醤系の発酵食品と納豆の組み合わせをあまり食べた事がないからだ。
発酵食品が重なった味、特に動物性のものと植物性のものが組み合わさり、さらに加熱され香ばしさが加わった味は、最強だ。塩気は少なくても、旨みや香りが深く豊かなので、米や野菜に乗せていくらでも食べられる。

かぼちゃのトナオスープ

かぼちゃのトナオスープは、かぼちゃだけを多めの水で煮てスープにしたもので、香辛料やハーブの味はなく、シンプルな塩味。
言われなければトナオが入っている事がわからないが、かぼちゃだけでは出せないであろう旨みや出汁が利いていて、不思議と癖になる味だった。

トナオ尽くしのランチ

食後の青いマンゴーにもカピを乗せて

青いマンゴー

一通り食事が済むと、庭の奥からまだ青いマンゴーを取って来て、切って出してくれた。そして、そこへカピをのせて食べると美味しいのだと進められる。
別の村でも、同じようにまだ酸味のある青いマンゴーを切ってナンプラーを和えたものを、おやつに出してもらったことがある。
酸味と魚介系の発酵の旨みと匂いが合わさり、不思議な味だなと思いつつ、気がつけば手が止まらなくなっている。

蒸すか、焼くか、煮るかで味が変化するタイの納豆「トナオ」

蒸すか、焼くか、煮るかで味や香りがとても変化するためか、どのトナオ料理もそれぞれ特徴があり、合わせる食材や調味料で味が更に変化する。食べ飽きるどころかどんどん食が進むのがトナオ料理だ。

こんなにも、タイの納豆「トナオ」の魅力を引き出しているタイの豊かな納豆文化に驚いた。また同時に、日本の納豆文化もさらに発展していくのだろうと、今回の「諸国菌食紀行」で強く思った。

✔タイの納豆「トナオ」について、トナオアーチャン(納豆先生)に教えてもらいました!
タイ、チェンマイの納豆「トナオ」前編【諸国菌食紀行】


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