海外

2018年06月27日

インドネシアの羊羹⁉麹で作る発酵スイーツ「タペクタン(tape ketan)」│諸国菌食紀行

フリーランスの料理人であり、発酵トラベラーでもある安田花織さんの「諸国菌食紀行」。今回は、多くの伝統的発酵食品が存在するインドネシアのカリマンタン島で出会った、麹ともち米だけで作る「タペクタン(tape ketan)」という発酵スイーツをご紹介します。

「甘く、僅かに酸味のある『いも羊羹』に似た軟質の食品である。」
(※)引用元:「インドネシアにおけるラギとその発酵食品への利用」(日本食品工業学会誌:vol.29,No.11,685~692(1982))

とも評されている「タペクタン(tape ketan)」とは? ちょうどラマダン中のインドネシアをたずねた安田さんによる、現地レポートをお届けします。

麹ともち米だけで作るインドネシアの発酵スイーツ「タペクタン(tape ketan)」
麹ともち米だけで作るインドネシアの発酵スイーツ「タペクタン(tape ketan)」

料理人・発酵トラベラー、安田花織さんの料理教室へ行こう!
【6/30(土)開催】夏野菜を使った水キムチなど、夏を楽しむ発酵食を学ぶ


麹文化は日本だけじゃない!?

日本の発酵食品に欠かせないものといえば、まずは「麹」を思う浮かべる方が多いと思う。しかし、他の国の「麹」について意識したことのある方は少ないのではないだろうか。また、「麹」は日本だけのものと思っている方もいらっしゃるかもしれない。

東アジアの中国や韓国にも、麹を使った発酵食品がたくさんある

麹は日本の国菌であり、醤油や味噌、酒など、様々な発酵食品を作るために至るところで活躍していて、「麹菌無しでは日本食が成り立たない」と言っても過言ではないだろう。
しかし、日本だけでなく、高温多湿の東アジア一帯は、菌にとって実に住み心地の良い環境が整っている。そのため、中国や韓国など、日本以外の東アジアにも麹を使って発酵させる酒や調味料などの発酵食品は多数存在するのだ。

日本の麹は「ばら麹」

日本の麹(滋賀県彦根市「ハッピー太郎醸造所」さんより)
日本の麹(滋賀県彦根市「ハッピー太郎醸造所」さんより)

日本の麹は「ばら麹」と呼ばれ、穀物を潰さずに加熱(主に蒸す)し、菌糸を外側に繁殖させ、フワフワの白い菌糸に包まれている。その様子から、「麹に花が咲いた」なんて言う素敵な表現があったり、「糀(こうじ)」という日本特有の漢字もあったりする。

アジアの麹は「餅麹」

右が韓国の餅麹「ヌルッ」、左上がタイの餅麹「ルクパン」、左下がインドネシアの餅麹「ラギ」
右が韓国の餅麹「ヌルッ」、左上がタイの餅麹「ルクパン」、左下がインドネシアの餅麹「ラギ」

それに対して、日本以外のアジアの麹は、「餅麹」と呼ばれるものが大半となる。餅麹は、生、または加熱した穀物を粉砕して固めたのち、放置、乾燥させコウジカビなどを繁殖させるもので、団子状の穀物に根っこのように菌糸を張り巡らせていく。コウジカビ以外にも、クモノスカビなど複数の種類の菌で形成されている。

インドネシアの麹を使った発酵食品「タペクタン(tape ketan)」

今回は日本から遠く離れたインドネシア、カリマンタン島で出逢った、麹ともち米のみで作る、砂糖を一切使わない「タペクタン(tape ketan)」という発酵お菓子を紹介したいと思う。

多種多様な食文化が存在する世界最大の群島、インドネシア

インドネシアのカリマンタン島
インドネシアのカリマンタン島

インドネシアは1万3,466もの大小の島により構成された東西に非常に長い国である。赤道に近いため、夏と冬の大きな気温差は少なく、年間を通して30℃前後の気温となる。2つの季節風により、雨期(5月から9月)と乾期(10月から4月)に分かれている。

インドネシアには多種多様な食文化が存在している

人口は2億3,000万人を超え(世界第4位)、その90%はイスラム教徒で、宗教上の決まりが食や暮らしに大きく関わっている。しかし、少数派であるキリスト教徒の地域があったり、島や地域特有の文化が残っていたり、生活水準の違いなどによって、多種多様な食文化が存在している。「インドネシアの食文化とは、こんな感じです」とは一言で言えない奥深さがあった。

ムスリム(イスラム教徒)による断食月「ラマダン」

私がインドネシアのカリマンタン島に降り立ったのは5月下旬、丁度「ラマダン」と言われる断食月が始まったばかりであった。
ラマダンとは、イスラム月(太陰暦)の9月の1ヶ月間、日の出から日の入りまで飲食、喫煙をしてはいけないイスラム教の行事のひとつ。日の出前から日没にかけて一切の飲食を断つことにより、空腹や自己犠牲を経験することで、ムスリム(イスラム教徒)同士の連帯感や信仰心を強めるのだそうだ。

ラマダン期間中の楽しみは、日没後のお菓子たち

ラマダンの時期は、食堂やレストランは殆ど開いていないが、代わりにフルーツポンチなどのスイーツを売る露天が並ぶ
ラマダンの時期は、食堂やレストランは殆ど開いていないが、代わりにフルーツポンチなどのスイーツを売る露天が並ぶ

断食月の最高の楽しみと言えば、日没後にみんなで食べる、断食明けの冷たいフルーツポンチや様々なお菓子たちだ。断食明けの時間が近づくと、たくさんのお菓子や南国の果物を提供する露店が並びだす。
空腹で喉がカラカラの状態に、甘く冷たいジュースやお菓子たちを迎え入れると、言葉にならないくらいおいしい。もう、身体中が喜ぶのがわかる。その喜びを近くの人たちと分かち合うのも、またいいものだ。

ラマダン中のカリマンタン島で出会ったお菓子「タペクタン(tape ketan)」

断食明けのサイレンを聞いたら、準備していたお菓子をみんなで食べる
断食明けのサイレンを聞いたら、準備していたお菓子をみんなで食べる

毎日、様々なお菓子を試しながら、他にどんなものがあるのか現地の方に聞いてみたところ、気になるものがあった。
それが「タペクタン(tape ketan)」だ。

インドネシアの伝統的な発酵菓子「タペクタン(tape ketan)」とは

インドネシアの伝統的な発酵菓子「タペクタン(tape ketan)」
インドネシアの伝統的な発酵菓子「タペクタン(tape ketan)」

「タペクタン(tape ketan)」とは、話しによると、一見団子のようだが、とってもジューシーで甘いのだそう。砂糖は使わず、米と麹だけで発酵させて作るのだという。なんとなく日本の甘酒のイメージだが、それとも異なるようだ。
物凄く気になり、絶対食べてみたい!と熱いトーンで伝えると、現地の方がすぐに作ったものを持ってきてくれた。

「タペクタン(tape ketan)」は、ジューシーで甘く、甘酒より酸味が強い

初タペクタン!ホロリと柔らかいが、崩れることはない
初タペクタン!ホロリと柔らかいが、崩れることはない

実際に「タペクタン(tape ketan)」を見てみると、話に聞いた通り、見かけは団子のようだが、手でつまむと柔らかい。そして、つまんだ指先から汁がしたたり落ちる。口に含むと、とってもジューシーで甘い。味は甘酒の酸味を少し強くした感じで、ほんのりお酒のような風味もあっておいしい。

「タペクタン(tape ketan)」がジューシーでモチモチ食感の秘密は、発酵にあり!

「タペクタン(tape ketan)」は、シロップに漬けたみたいにジューシーだけど、液体を足してるのではなく、発酵中にしみ出てくるのだそう。また、もち米の粒は柔らかくなっているが、しっかり粒の形が残っていて、団子の形状が保たれている。材料は麹ともち米だけだというのに、どうしてこんなにジューシーでモチモチに…!?
「どんな風に作っているのか気になる」と現地の方に伝えると、タペクタン作りが上手なイブ(大人の女性を指すインドネシア語)が居るので、作り方を見せて貰えるよう、お願いしてくれる事になった。

現地のイブに教わる「タペクタン(tape ketan)」の作り方

タペクタン作りに欠かせないインドネシアの麹「RAGI(ラギ)」
タペクタン作りに欠かせないインドネシアの麹「RAGI(ラギ)」

イブのお宅へお邪魔すると、すでに水に浸したもち米と「RAGI(麹)」が用意されていた。
「RAGI(ラギ)」は麹の事。「TAPE(タペ)」は、発酵や発酵した米やキャッサバ(※)などを指すとの事。

(※)キャッサバ:インドネシアでよく食べられるイモ。タピオカの原料としても知られる

「タペクタン(tape ketan)」は2日間ほど発酵させてから食べる

タペクタン作りの前日、イブが外に向かってタペクタン用のもち米のゴミや悪い米をより分ける
タペクタン作りの前日、イブが外に向かってタペクタン用のもち米のゴミや悪い米をより分ける。扉からいい風が入ってくる。外は暑いが、窓からは日差しは殆ど入らず室内は日陰で風の抜けも良く、クーラーがなくても特に暑さは感じなかった

タペクタンは2日ほど室内で発酵させ食べるのだという。最近では、いい感じに発酵が進んだら、すぐ冷蔵庫に入れるそうだ。冷蔵庫に入れることで発酵が安定し、3週間くらい長くおいしく楽しめるのだという。早速作り方を見せてもらう。

1. もち米を浸漬させる│「タペクタン(tape ketan)」の作り方

まずはもち米を洗い水に浸け、蒸す。
日本のように一晩水に浸けて蒸すのではなく、3時間ほど浸けたらまた洗って、3時間ほど浸ける。暖かい地域なので、時間が経って水が腐敗するのを防ぐ為の知恵だろうか?

2. もち米を蒸す│「タペクタン(tape ketan)」の作り方

もち米を蒸す
インドネシアでは普段食べる米も茹でてから蒸す場合が多い。日本も江戸時代前までは同じ炊き方が多かったと聞いたことがある

浸水させた米を、蒸し器に入れて蒸していく。
蒸しながらたまに水分をぱっぱっとかけるのだが、隣で沸かしているお湯をかけていた。こちらも腐敗防止か、またはたまたま近くにあるので使っただけか…。もち米を1、2回シャモジでひっくり返して、均一に火が通る様にしていた。
30分ほど蒸して終了。触ると、芯はないが、少し硬めな感じだった。

酒蔵で聞いた「米をなぜ蒸すのか?」の理由を思い出す

米を蒸す工程を見ながら、以前酒蔵で「米をなぜ蒸すのか?」と聞いたことを思い出していた。その回答は以下だ。

「米を蒸すことで、一つひとつの米粒の外側は硬く、内側は柔らかい状態になる(外硬内軟)。糖化も発酵も、それなりの日数をかけたほうが、味わいが良くなる。もろみにした時、すぐに米が融けてしまうようでは困るわけで、ある程度の硬さが必要なのです」

麹の種類も、使う目的も違うのでなんとも言えないが、表面が水に浸かりながら火が通る『炊く』や、『茹でてから蒸す』では、柔らかい表面から発酵し、後に米粒が残らないのかもしれない。ふむふむ…。

3. もち米に熱湯をかけて混ぜ、粗熱を取る│「タペクタン(tape ketan)」の作り方

もち米に熱湯をかける
もち米に熱湯をかける。この時点で汁気はない、酢飯くらいの感じで餅米が少ししっとりしたかなといった感じ

蒸し上がったもち米は、熱いうちにボールに入れて熱湯をかけ、酢飯を作る要領で米を切るように混ぜていく。
この熱湯がポイントだそうで、「他の家では水をかけるが、それだとおいしく出来ない」とイブは言う。

あら熱をとる為、ホウロウの盆の上にもち米を広げる
粗熱をとる為、ホウロウの盆の上にもち米を広げる

4. もち米に「麹(RAGI)」を振りかける│「タペクタン(tape ketan)」の作り方

粗熱の取れた餅米、砕いたRAGI(麹)、手水
粗熱の取れた餅米、砕いたRAGI(麹)、手水

粗熱が取れたらいよいよ「RAGI(麹)」の出番だ。
粉状にしたRAGIをさらにふるいにかけながら、もち米全体に均一に振っていく。全体に振り終えると、もち米をひっくり返してまた同じようにRAGIを振っていく。
全体にRAGIをまぶし終わると、シャモジで全体を混ぜ合わせ、材料は準備完了。

5. もち米を丸める│「タペクタン(tape ketan)」の作り方

もち米を丸める
もち米を丸める

あとは、残った「RAGI(麹)」を手水に入れて溶かし、それで手を濡らし、もち米を丸める。
片手できゅ、きゅっと中の空気を抜くように握り、最後に両手でピンポン球のようなキレイな形に整えて、完成。

男性はタペクタンを作らない!?

イブと私と、現地で仕事をしている日本人男性とそのスタッフの女の子の4人で、きゅ、きゅ、と作っていると、近所に住む女性が笑いながら、「これ(タペクタン)は、男の人は作らない」と言う。
「口噛み酒のように、女の人が作る意味があるのかな…」なんて思ったが、その理由はよく分からなかった。

タペクタンは若干のアルコールを含むが、インドネシアのイスラム教徒も食べることができる

ちなみにこのお菓子(タペクタン)は、数%のアルコールを含んでいる。しかし、伝統的に食されてきたものとして、インドネシアのイスラム教徒(飲酒は禁止されている)にも食べることが許されている。

6. もち米を発酵させる│「タペクタン(tape ketan)」の作り方

丸め終わったタペクタン。入れ方にはあまりルールはないようで、ぎゅうぎゅうに容器に入れていた
丸め終わったもち米。入れ方にはあまりルールはないようで、ぎゅうぎゅうに容器に入れていた

丸め終わったもち米はそのまま室内で2日ほど発酵させ、冷蔵庫で保管しておいてもらったのを、後日受け取りに行った。

「タペクタン(tape ketan)」の完成!

出来上がったタペクタン
出来上がったタペクタン

出来上がったタペクタンがこちら。え…、茶色いのがいる…。

男性が丸めたから茶色に…!? 2色のタペクタンの出来上がり

部分的に茶色いのではなく、1個の単位で茶色いタペクタンと白いタペクタンがあり、思わず1人混じっていた男性に全員の目が行く。

白いタペクタンを実食!柔らかい団子を味醂に漬け込んだような味で、とってもおいしい

とりあえず白いのを食べてみる。以前もらったものとは少し味が違うが、柔らかいもち米の団子を、酸味のきいた味醂に漬け込んだような味で、やはりとってもおいしい。

茶色いタペクタンを実食…。若干固くて、甘さが弱い

一応、茶色いのも食べてみる。食べられなくはないが、白いタペクタンと比べ若干固いのと、中は白く、甘さが弱い。
茶色くなった理由は誰かの手の菌というよりは、握る強さが影響して(たぶん強すぎて)、発酵が変に進んだのではないかという見解になった。
…が、みんな(女達)は、どっかでやっぱり「男の人が作ったから…」という気持ちが拭えなかった。

お祝いの時に食べられる「タペクタン(tape ketan)」

タペクタンは、そのままでも食べるし、氷菓や焼き菓子などの原料としても使われている。また、普段でも食すことはあるが、お正月やお祝いの時に食べるそうだ。

「タペクタン(tape ketan)」と甘酒の共通点は、体調を整えること

また、イブの旦那さんに聞いた話では、体調が悪い時にタペクタンの汁を飲むといいらしい。
日本でも、甘酒は江戸時代の夏の栄養ドリンク的に飲まれていたものだ。形は違えど、同じように暑さを利用して仕込み、なおかつ、体調を整える役割も持つタペクタンの存在を面白く思った。

味覚だけでは計り得ない食のおいしさ、それを共有する喜びを感じたインドネシアのラマダン

タペクタン作りを教えてくれたイブ
タペクタン作りを教えてくれたイブ

今回は、インドネシアのカリマンタン島でラマダンで断食を体験し、味覚だけではない食のおいしさや、それを共有する喜びを初めて感じた。
「食べない食文化って、あるんだなぁ」と、無宗教で、“意識的に食べない”なんてしたことがなかった私には、
想像もできなかった貴重な体験と発見があった。
またぜひインドネシアに行く機会を作って、今度は女子のみでタペクタンを作ってみたいと思う。

【6/30(土)開催】料理人・発酵トラベラー、安田花織さんの発酵料理教室へ行こう!

なかなか発酵食を手づくりすることに踏み出せない方や、夏バテで料理を作る気も出ない方にこそお伝えしたい、旬の食材を使った発酵料理教室が開催されます。
こちらの料理教室では、「夏野菜を使った水キムチ」を中心に、水キムチを使った応用料理と、夏の弱った内臓にも優しい酒粕で発酵させた蒸し鶏、傷みやすい青魚を上手に保存しておいしく食べれる一品などを学ぶことができます。詳細は以下よりご確認ください。

料理人・発酵トラベラー、安田花織さんの料理教室へ行こう!
【6/30(土)開催】夏野菜を使った水キムチなど、夏を楽しむ発酵食を学ぶ


安田 花織

安田花織

「ヤスダ屋」主宰/料理人。在日韓国人のおばあちゃんと農家の日本の母の味、2つの豊かな食文化に触れながら育つ。高校卒業後食の世界へ。懐石料理店、オーガニックコミュニティカフェなどを経て2012年独立。繋がりを大切に、出来る限り食材の産地に足を運び食材の育った風景、作り手の思いを込めて料理を作る。「ヤスダ屋」として、各種イベントケータリング、出店、お弁当ケータリング、料理教室など行う。 Instagram  http://yasuda-shikutan.com/

関連タグ

この協力者の他の記事を見る

このライターの詳細へ

最新記事

もっと見る

SERIES 連載

More

CATEGORIES カテゴリー