愛知県は碧南市。愛知県南部の三河湾に面し、日本酒、みりん、豆味噌、たまり醤油、白醤油、と周辺に多くの醸造元が集まるこの地域には、「もち米のリキュール」ともいわれる『三河みりん』を作り続ける角谷文治郎商店さんが蔵を構えています。
今回は、そこを切り盛りされる角谷文子さんのお導きで、特別に蔵見学をさせて頂きました。
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Sumiya Bunjiro Brewery, the mother of sweet rice wine Mikawa Mirin
みりんと甘酒と日本酒の違い
まず、文子さんからみりんと甘酒の作り方の違いを説明して頂きました。
みりんと甘酒の違い
まず、甘酒の材料は、米麹と米。高温で仕込むことで一日で澱粉質が溶け、それがブドウ糖の「甘さ」に変わります。
対してみりんの材料は、米麹ともち米と米焼酎。甘酒とは違い、「甘さ」だけではなく「旨さ」も必要とするため、甘酒の様にでんぷん質だけを分解するのではなく、旨さを産み出すタンパク質を分解するために、常温で仕込み、ゆっくりと3か月もの時間をかけて作るのだそうです。
また、その間に過発酵から腐敗に傾かないよう「発酵のブレーキ」として焼酎が使用されます。
もち米で作った甘酒を試食で頂く
みりんと日本酒の違い
日本酒との違いは、米の種類と製法。日本酒は酒米(うるち米)、みりんはもち米を使用します。日本酒は「寒造り」といって、冬の一番寒い時期に低温で仕込むため、寒さが「発酵のブレーキ」になります。
また、日本酒は「仕込み水」という水で仕込み、甘みからアルコール発酵させていくのに対し、みりんは前述したように焼酎の中でもち米の甘み、旨みを引き出すという仕込み方をとります。
「みりんの銘醸地」である愛知県碧南市には、専業みりん業者が多い
みりん製造と日本酒製造に必要な設備と道具はほぼ同じであるため、全国的には冬に日本酒を仕込み、その後にみりんを仕込むという蔵も多いのですが、碧南では独立したみりん業者が200年以上前から存在し、今でもほとんどが専業であるため、「みりんの銘醸地」ともいわれる所以となっています。
三河みりんが育った三河地方
愛知は「醸造王国」と言われ、八丁味噌に代表される豆味噌や、武豊町のたまり醤油、そして碧南はみりんの本場と呼ばれており、5社のみりんメーカーがあります。また、ほぼ小麦だけで作った「白醤油」も碧南発祥の醸造製品として有名です。
隣の半田市はミツカンの酢発祥の土地であり、今ではJR半田駅からすぐの運河沿いにミツカンミュージアムがあります。また、常滑市には白老で有名な澤田酒造さんがあります。
三河みりんの背景には、日本酒づくりがある
このように味噌、日本酒、白醤油、たまり醤油、お酢、みりんなどあらゆる醸造製品が揃った全国でも珍しいエリアである三河地方。その理由は、「温暖な気候」と「豊富で綺麗な水」が矢作川から得られることにありました。何よりもこの地域でみりんが栄えた一番の理由は、日本酒づくりが盛んだったことにあります。かつては灘や伏見よりも酒造蔵が多かったこの土地では、日本酒の副産物である「酒粕」を蒸留して粕とり焼酎を造り、それをみりんの原材料にしていたという背景があったのでした。
今でこそもち米、米麹、焼酎からつくられるみりんも、昔はお米が自由に手に入らない状況で酒粕を利用する、という知恵の産物だったということですね。
「みりんメーカー数全国1位」の愛知県を後押しする碧南市
碧南市は、昭和30年代は人口3万人の町で、20件のみりんメーカーがあり、今現在は7万人で5社となりましたが、愛知県のみりんのメーカー数を全国1位にするほど、みりん醸造元が多い地域となっています。
『三河みりん』角谷文治郎商店の蔵見学
特別栽培の米を自社精米、焼酎も自家蒸留する、角谷文治郎商店のこだわり
いよいよ蔵の中を案内して頂きました。案内して頂いた他にももうひとつ蔵があり、そちらでは焼酎づくりと米の精米をしているとのことでした。三河みりんで使用している米は、すべて玄米の状態で産地から直送し、自社で精米を行っているのだそうです。ここにも角谷文治郎商店さんならではのこだわりが見られますね。なんと一日3トンものお米を蒸すのだそうです。
仕込みの時にしか見られない、米の蒸し段階を見学
今回は運よく、仕込みの時にしか見られない米の蒸し段階を見学させて頂くことができました。
つやつやでもちもちの蒸米
麹と焼酎で蒸米を仕込み、櫂入れをしながら3カ月間熟成させる
蒸米は冷ましてから麹と焼酎をあわせて仕込み、3か月の間タンクの中で手動で櫂入れをしながら熟成させていきます。
熟成させたもろみを搾る
角谷文治郎商店さんでは、春と秋に2回仕込みがあるのですが、春に仕込んだものを夏に搾る時は飛来昆虫などの虫が近寄ってくる可能性があるので、クリーンルームで搾りが行われるのだそうです。搾り機は、40年物の槽(ふね)という機械を使用されていました。
もろみを麻袋に入れ、それを並べていきます。最初は、もろみ自身の重さで搾り、最後に圧をかけて完全に搾っていきます。
搾汁したみりんは、三河の温暖な気候で1年以上熟成
熟成の後は火入れをせず、そのまま瓶詰めをすることで酵素を生かしたまま出荷されているとのことでした。
ここで搾られたみりんは、貯蔵タンクへ入れられ、三河の温暖な気候にまかせて1年以上熟成させていきます。その熟成期間の間に、メイラード反応で色も琥珀色になっていき、甘さと旨さのバランスもまとまってまろやかな風味になっていくのだそうです。
搾る前のもろみと搾った後のみりん粕を試食
角谷文治郎商店でしか試食できない、貴重な「もろみ」
まず、搾る直前の「もろみ」を試食させていただきました。水分が多めのもろみ、という感じでアルコールの入ったデザートのようです。これは、醤油もろみのように販売されていないので、角谷文治郎商店さんでしか頂くことができない、貴重な一品です。
『こぼれ梅』とも呼ばれる、搾った後の「みりん粕」
続いて、搾った後の「みりん粕」を試食。甘くておいしいおやつのようなこれは「こぼれ梅」とも呼ばれ、白くぽろぽろとした形状が満開の梅の花に見えることから名付けられたそうです。
みりん粕は「有機みりん粕」として販売されています(販売時期は要確認)
三河みりんならではの「米一升、みりん一升」
一升の三河みりんは、同量の米一升から作られる
三河みりんファンならば当然の知識かと思いますが、一升の三河みりんは同量の米一升から作られています。糖類で甘みを添加することなく、もち米本来の美味しさを引き出す、本格みりんならではの製法です。
米不足のため、戦中・戦後は「米一升、みりん一升」製法が禁止されていた
この「米一升、みりん一升」という製法は、戦中・戦後では米不足のため許されず、昭和18年からみりんの製造そのものが8年間禁止されていました。その後また解禁されたものの、原材料の調達が難しく、高い酒税が課せられました。当時のかけ蕎麦が30円だとすると、みりんは千円、そのうち762円が酒税だったというから驚きです。
角谷文治郎商店さんの「米一升、みりん一升」での製法は至ってシンプルです。また、特別栽培米、もしくは有機米を使うことも三河みりんへのこだわりが感じられます。
三河みりんのおいしい楽しみ方
三河みりんには、賞味期限のようなものがあるのでしょうか?
三河みりんには賞味期限のようなものがあるのでしょうか?という問いに対し、文子さんからのアドバイスは、「火入れをしていないので麹菌が生きている。つまり、時間が経てば経つほど色が濃くなっていき、甘みがひいて、旨みが増していきます。ですので、1年をめどに使い切ったほうが、みりん本来のおいしさをお楽しみ頂けるかと思います」とのことでした。
三河みりんの、ちょっと変わった使い方
文子さんから三河みりんのちょっと変わった楽しみ方を教えて頂きました。
・ナッツやレーズンをラムで戻す代わりにみりんで戻す。
・バルサミコ酢とみりんをあわせて、肉料理のソースに。
・ブルーチーズに煮切ったみりんをかけ、デザートのように頂く。
・珈琲や、紅茶に甘みとして少量たらす。
・みりん粕にみりん、白醤油、塩をあわせ、野菜を漬ける。
どれも斬新で美味しそうですね!筆者もレーズンを三河みりんで戻したものを豆乳ヨーグルトに混ぜてお客様にお出ししてみましたが、大変喜ばれました。
海外へのお土産にも。世界で愛される、角谷文治郎商店の三河みりん
伝統の本格三河みりんをつくる角谷文治郎商店さんは、日本国内にとどまることなく、フランスやドイツの展示会にも積極的に参加されており、日本が誇るみりんの良さを世界的に伝えられています。海外に旅行に行くときは、三河みりんや三河みりんの梅酒をお土産にしてみると日本通には意外だと驚かれ、そしてとても喜ばれます。
三河みりんに青梅を漬け込んだ、≪砂糖無添加≫の二段仕込み梅酒(アルコール14%の辛口タイプと、10%の濃縮タイプ)。
ロックでも、ストレートでもおいしい
皆さんも、三河みりんを手土産に、国内外のご友人を驚かせてみてはいかがでしょうか?
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