近年、料理レシピにはフリーコンテンツが多く、多種多様なレシピにすぐリーチできるようになりました。その一方、あまりにも多くの情報から何を選択していいかと悩み、自分の料理や味付けにそこまで自信が持てないという声も少なくありません。
以前、ハッコラの記事「そのまま食べる味噌「和牛なめみそ」レシピ│発酵カフェの人気メニューを食卓デザイナーが伝授!」でご紹介した、食卓デザイナーの石橋直樹(いしばし なおき)さんが主催する『おいしさの法則ワークショップ』では、味付けを論理的に学ぶことができると聞き、お話をうかがいました。
『おいしさの法則ワークショップ』で味付けを仕組みを知ると「まずいと言われる料理ができるはずがない」
食卓デザイナーの石橋 直樹(いしばし なおき)さん
以前の記事でもご紹介した通り、石橋さんの『おいしさの法則ワークショップ』では、味付けを仕組みとしてメソッド化しています。その仕組みを知ることにより、「まずいと言われる料理ができるはずがない」と言い切る石橋さん。その言葉にはとても説得力がありました。
参加理由の多数は「自分の味付けに自信をつけたい」
現在は不定期開催となっている『おいしさの法則ワークショップ』ですが、ほぼ毎回満員となるほどの人気。参加者は、お料理に苦手意識がある方から、逆に料理経験の豊富な方、またはメーカーや飲食業界の関係者など幅広く、毎回さまざまな方がいらっしゃっています。
参加理由はそれぞれですが、男性も女性も「自炊をおいしくしたい」「自分の料理をもっと好きになりたい」「レシピ本を見なくても味が整えられるようにしたい」といった日常の食卓をより豊かで、満足度の高い内容にしたいとお考えの方が多いようでした。
食卓をより豊かにすること。石橋さんはこれを「食卓をデザインする」と表現、ワークショップを開催し続けている理由だと言います。
この日の会場は発酵カフェの元祖、荻窪『醸しカフェ』
荻窪にある発酵食品の専門店といえば『醸しカフェ』。2013年から素材にこだわったランチプレートやドリンクメニューに加え、興味深いテーマと講師によるワークショップをたくさん開催されています。石橋さんのワークショップも、醸しカフェではすでに3年ほど前から開催し、すっかり定番人気の講座。
釀(かもし)カフェさんの投稿 2013年7月23日(火)
醸しカフェのオーナー、品田和義(しなだ かずよし)さん曰く「おいしさの法則ワークショップは、すごくわかりやすく作り上げられている内容です。料理は好きだけど味がいまひとつ決まらないという方など、参考になることが多いと思いますよ」と教えてくれました。
『おいしさの法則ワークショップ』講義スタート!
ワークショップは主に石橋さんによる講義と、味の変化を体験するワークショップの2部構成。講義ではまず「食卓」を構成するものにどんな要素があるのか、という点を掘り下げて始まりました。
これがとても興味深く、熱心にメモを取る方や、質問する方、大きくうなづきながら話に引き込まれている方も見られました。
「食卓」を構成するのは、体調・環境・人間関係・料理の4要素
食卓をハッピーにする要素は大きく4つ。「体調」「環境」「人間関係」「料理」、これらそれぞれにもたくさんの項目が含まれており、どれひとつ独立することなく、複雑で繊細な相互関係を保っているのです。
「これ全てをクリアして作られる“ハッピーな食卓”は、ある意味、飲食店よりもすごいことをしているんですよ」という石橋さんの言葉に、なんだか勇気づけられる気持ちに。
料理を“劇的に”変えてくれるのは「味付け」
講義は続いて、ハッピーな食卓の1要素、「料理」に関する説明へ。
「料理に含まれる大切なことは、まず素材。なんといっても素材の良さは否めません。続いてその素材を活かす味付け。そして料理に合った適切な切り方。外気温や体調にも配慮した適温であること。配慮された歯ごたえ。火入れの具合。そして盛り付け。この全てが揃って“料理上手”を作り出します」
な、なるほど…!さすが和食やイタリアンの厨房で実績を重ねてこられただけあって的確な分析。
「この中で一番、劇的に、あっという間に解決できるのは味付けです」
そしてこの後いよいよ味付けの仕組み解説に。“劇的に”とは一体どういうロジックなのでしょうか。
味付けの基本は「素材 × 塩味 × 旨味」
石橋さんは、味付けをレベル1から5の5段階に分け、なかでももっとも大切なのはレベルの1から3までの要素だと説明します。
レベル1 「素材」
最も大切なことは、おいしい素材であること。野菜や魚、また、味噌汁を作るなら水など、元の素材そのものが良質であることが理想的。逆説的に言えば、素材がいい場合、味付けは極シンプルにすることが最もおいしくいただける。
レベル2 「塩味」
味噌汁なら適量の味噌、刺身を食べるなら醤油、といったある程度の塩気こそが素材のおいしさを引き出す秘密。塩の持つ役割はとても大きい。
レベル3「旨味・ダシ」
ダシとは昆布や鰹節だけでなく、魚料理なら魚の、肉料理なら肉の、野菜料理なら野菜から出る旨味成分のこと。おいしさを支えるおおもとでもある。
「この3つが整えばすべておいしくなります、まずいものはできません」と力強い言葉で解説を続ける石橋さん。
味付けレベル2の「塩味」と3の「ダシ」は比例関係
わたしたちの味覚は、料理を食べた時に「おいしい」と感じる“味覚の範囲”があり、その範囲を下回ると「もの足りず」、範囲を超えると「しつこい味」と感じるようにできています。
そのためレベル1(素材)が揃ったら、レベル2(塩味)と3(ダシ)のバランスを”おいしい範囲”にもってくるように調整することが最重要ポイントになるのです。
塩味を強める方がいいのか、ダシを効かせた方がいいのか、味を整えるときに判断しよう
味覚の範囲は多少の個人差があるので、味を整えるときには具体的に「レベル2(塩味)をもっと強める方がいいのか?」、それとも「レベル3(ダシ)をもっと効かせた方がいいのか?」を判断しましょう。
作る料理によって調理の順番は変わりますが、このレベル1、2、3がどんな料理も味のベースを支えているそうです。この3つが整った上ではじめて、さらに複雑な味付けや料理の提案が成り立ちます。いかにこの3要素が大切かが分かります。
人それぞれだからこそ、自分の感覚を信じてほしい
ワークショップでは基本のレベル1、2、3を習ったあと、さらに続く4、5の解説に進み、私たちの「おいしい」は味の層が積み重なってできていることを論理的に学びます。
そしてさらに、実際に石橋さんがお吸い物を作りながら、各レベルによる味の変化を体感。何をどのくらい加えることで味がどう変化するのか?参加者は自らの味覚で何度も変化するお吸い物を味わいました。
目分量ではなく計量すること、味見は一口分を食べること
味覚のレベル分けは、一見ロジカルで概念的なものにも感じますが、そこに加えられる石橋さんのアドバイスがとても具体的です。
●素材と調味料の味を理解し、目分量ではなく計量する
●何をどのくらい入れたらどう変わるのか?味見は一口分をしっかり食べてみること
この2点に注意しながらレベル1、2、3を実践することが大切とのこと。
「この基本が習得できたら、もうレシピは無限大になりますよ」(石橋さん)。
“味付士(あじつけし)”として、一緒に『おいしさの法則』を伝える人になろう
さらに石橋さんは、この『おいしさの法則』を同じように伝える側となる人を増やす活動も開始されました。これまでのご実績や、ワークショップを続けることで積み上げられたことをメソッドとして習得できるように全7回の講座として構成。受講されると、色んなご家庭の食卓を豊かにする“味付士(あじつけし)”として石橋さんのように活動することも可能です。
「レシピに縛られず自由に手料理を楽しめる人を増やすことは、大切な人の食卓をハッピーにするお手伝いです。ワークショップの開催を副業とするも良し、食の未来に貢献したい方などには始めやすいと思います」(石橋さん)。
ご興味のある方は石橋さんのウェブサイトで詳細をご覧ください。
『おいしさの法則ワークショップ』参加者のご感想
ワークショップ参加者からはこんな感想も。
お子さんを含むご家族の健康に配慮しながら毎日お料理をするというMさんは、「自分の味付けを好きになるために基本を覚えたい」と思って参加されました。
レベル2(塩味)と3(旨味)のバランスを知ったことで、これまで「自分の料理に何か物足りない」と感じていたのは旨味不足だったと気付いたそう。ワークショップ参加から約半月、毎日きちんと実践されていました。
「味付けで何か足りないと感じたらまずダシを足す。それから再度塩分が十分かと味見を繰り返して、味が整うようになりました。慣れていけば繰り返さずに決まるようになるんでしょうね。そうなることが今の目標です」(Mさん)。
もう1名、一人暮らしで自炊も日常的だけど「よりおいしくするために味付けを論理的に理解したい」と思って参加されたというAさんも、受講後に復習を続けています。
「味付けの仕組みが可視化できたようで、自分の進化を感じる」とのこと。レベル2(塩味)と3(旨味)の組み立て方が実感できたことで、レシピ本にある食材と調味料の組み合わせがイメージしやすくなったそうです。
「買い物に行っても食材の選び方が変わりました。調味料の使い方がわかったことで、余計な食材も買わなくてすむようになり、効率的にもなったと感じています」(Aさん)。