2017年に引き続き第2回目の開催となった、愛知県犬山市での「発酵サミット2018 in 犬山@ローレライ麦酒館」。愛知近郊の“醸造愛”が一気に放たれたように会場に満ちていた今回のイベントの様子を、まずは午前中のトークを中心にご紹介します。
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「発酵サミット2018 in 犬山」の会場は、愛知県犬山市『犬山ローレライ麦酒館』
ドイツにある“横を通ると美しい旋律が聞こえる”という伝説の岩の名前から名づけられた、愛知県犬山市のビアホール「犬山ローレライ麦酒館」。1998年にドイツの職人から技術指導を受けてスタートした地ビールの先駆者的存在です。
「発酵サミット2018 in 犬山」への来場者約250名を迎えてくれた『犬山ローレライ麦酒館』
広々としたローレライの敷地を最大限に活かして、この日だけは、ビアホールがトークイベントとワークショップ会場に、屋外広場は「日本酒バー」に、さらに駐車場の一部が出店者による「発酵マルシェ」となり、約250名もの来場者を迎えてくれました。
「発酵サミット2018 in 犬山」のTシャツ
「発酵サミット2018 in 犬山」屋外の様子
「発酵サミット2018 in 犬山」屋外の様子
テーマ「美味しい未来をデザインする」にぴったりのプログラムとゲストが集結
受付には開場前から列ができ、ご参加者の熱意の高さが感じられます。会場では、いちばん最初のプログラム「シェフが作る新発酵メニュー開発LIVE」からスタートしました。
生放送のお料理番組を見ているような「シェフが作る新発酵メニュー開発LIVE」
「シェフが作る新発酵メニュー開発LIVE」の模様
ゲストとしてお迎えしたのは、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんと、「三州三河(さんしゅうみかわ)みりん」の三角 祐亮(みすみ ゆうすけ)さんのおふたり。斬新なことに、この醸造界のおふたりがダブル司会役となり、フレンチレストラン「santé atelier」(サンテアテリエール)の小南 恵司(こみなみ けいじ)シェフが披露してくれる発酵調味料の実演を解説してくれるというこの企画。シェフの手元が会場スクリーンに中継され、生放送のお料理番組を見ているような、想像以上の大企画でした。
ゲストとして2回目の参加となる、発酵デザイナーの小倉ヒラク氏
発酵デザイナーの小倉ヒラク氏(撮影:外山祐二)
ヒラクさんは去年に続いて2回目のゲスト。冒頭のご挨拶では、
「今日この会場には醸造家がたくさんいるので、みなさんのお話を引き出しつつ、僕もマニアックなことを紹介したいと思います」
と楽しみなお話から始まりました。
「三州三河みりん」の三角祐亮氏も、ゲストとして参加
「三州三河みりん」の三角祐亮氏(撮影:外山祐二)
そして、岐阜側にほど近い犬山に対し、同じ愛知県の東側、碧南(へきなん)市からいらした三角さん。明治43年に創業された「角谷文治郎(すみやぶんじろう)商店」で三河みりんを作る醸造家。3代目代表のお嬢様と結婚されたことがきっかけで作り手となった三角祐亮さんは、
「元々サラリーマンから蔵元に転職しました。発酵食を中心にした食習慣とは無縁だった暮らしから、きっかけを得て勉強して、のめり込んできました。そういう意味でもいろんな方に伝えやすいものがあると思っています」
と、一般ユーザーの気持ちに寄り添った自己紹介をされていました。
多くの人に愛されている、本物のみりん「三河みりん」
みりんの原材料となる焼酎の仕込みから自社で行うなど、創業以来伝統的な製法を実直に守り抜き、琥珀色で美しい本物のみりんが多くの人に愛されている三河みりん。以前、haccolaの「米一升、みりん一升。『三河みりん』の生まれる場所、角谷文治郎商店」という記事でも蔵見学の様子をご紹介しておりました。
小南シェフ直伝!発酵調味料のあたらしい使い方
「シェフが作る新発酵メニュー開発LIVE」の模様
ステージでは、「お店でも隠し味に使っているのであまりお伝えしたくなかったけど(笑)」と言いながら、次々に「秘伝レシピ」や「秘密のテクニック」を披露してくださる優しい小南シェフ。
まず最初は作り置きしておくと便利という、塩麹とみりんで作るトロッとしたソースから。
「何か物足りないな…」と思った時は、少し足すだけで味が決まる「三河みりん」を
「最近フレンチのシェフでも発酵食品を使う人が増えているんですが、理由はやはり圧倒的な旨味です。三河みりんは、味が濃くて、深みがある。少し足すだけで味が決まるので、ご家庭でも、何か物足りないなと思った時は三河みりんや、こうした本物の調味料を入れてあげると味わいが増します」(小南シェフ)。
【年末年始のお休みについて】
こんにちは。今日は冬至ですね。今夜はゆず湯を楽しもうとワクワクしています。
さて、弊蔵の年末年始のお休みは、12月30日(水)~1月3日(日)となります。
誠に勝手ながら、この期間のウェブからのご注文、お…
米の甘みと旨味が微生物によって引き出されるため、みりんの糖度はメロンよりも高い
「みりんの原材料は、もち米、米麹、焼酎の3つだけ。つまり元々、米と水だけで作るんだけど、お米の甘みと旨味が微生物によって引き出されるので、みりんの糖度はメロンよりも高いんですよ」とヒラクさんが教えてくれてる間に、先ほどのソースが完成しました。
塩麹とみりんで作るトロッとしたソースのお味は?
カボチャのポタージュを使ってのソースの味見
ご参加者のうちジャンケンの勝者5名がステージに上がり、このソースを味見。それも、シェフが用意したカボチャのポタージュを使い、このソースを使ったものと使ってないもの、という味の比較です。
ひとくちですぐに「わぁ!全然違う!」「旨味が増えた」「おいしい〜!」「野菜の味がより甘く感じる」と感想を話す試食者の皆さん。発酵調味料がお料理の味わいを深めるかということを体感されていました。
素材の旨味を引き出しながら作られる発酵調味料は、料理に使うと材料の味を高める
「みりんはもちろん、お味噌も醤油も、時間をかけて他の素材の旨味を引き出しながら作られるもの。だから料理に使ったときも、野菜など材料の味を高めるんですね」(三角さん)。
醸造家たちも登壇!「発酵食品同士は相性が良い」
東海醸造の本地猛氏がステージに参加
「発酵サミット 2018 in 犬山」のステージに登壇するゲストの方々
トーク後半では、会場内に控えていた他の醸造家をアドリブでステージへお招きすることに。
ちょうど小南シェフが、東海醸造の豆味噌を使って作る「冷や汁」を作っていたので、まずは東海醸造の本地(もとじ)猛さんがステージに参加されました。(本地さんが登壇なさった2017年の「発酵祭 in大阪」のレポートはこちら)
東海醸造の豆味噌は、大豆100%、そして3年間熟成。今回シェフが冷や汁に使ったお味噌について教えてくれました。
「今回シェフに提案したのは、信州の米味噌と合わせた「ミックス味噌」という調合みそです。味噌は2種類以上ブレンドすると予想を超えて、おいしさを濃くしてくれます」(本地さん)。
そしてこの「豆味噌」と「米味噌」を合わせたものが「赤だし味噌」だ、と教えてくれました。
赤だし味噌とは、豆味噌と米味噌を合わせて赤い色味を出した味噌
「“赤だし味噌”と聞くと、味噌にダシが入ってると思ってる方も多いのですが、実は真っ黒の色合いをした豆味噌に、白っぽい味噌を合わせて、茶色っぽい色にして“赤い色味を出す”という意味です。黒い味噌は、塩分や味が濃いと思って食べずに敬遠する方も多いかもしれません。赤だし味噌は、見た目と、食欲増進のために生まれたと言われています。けっしてダシを加えているわけじゃないんですよ」(本地さん)。
東海醸造の赤だし味噌と三河みりんを使った、発酵食品同士の相性がピッタリの「冷や汁」
小南シェフはこの赤だし味噌に、三河みりんを使い、暑い季節にぴったりの冷汁を作ってくれました。「暑い季節、ご家庭で火を使うのも大変ですよね。混ぜたらしっかり冷やして召し上がってください」と、料理する人の気持ちになったオススメのレシピを教えてくれました。
「発酵食品同士は相性がとても良い。味噌とお砂糖ではなく、味噌とみりん。こんなにおいしいのは発酵同士だからです」(本地さん)。
かつお節「タイコウ」の稲葉泰三氏がステージに参加
「発酵サミット 2018 in 犬山」のステージに登壇するゲストの方々
かつお節「タイコウ」代表、稲葉 泰三(いなば たいぞう)さんもステージに参加されました。
「タイコウ」は、各地のかつお節職人が作ったかつお節を仕入れたあと、さらに1本1本それぞれが最もおいしい状態になるまで熟成させてから販売するかつお節問屋さんです。まるでワインを熟成するかのように、最高のかつお節を目利きする稲葉さんは、かつお節の歴史について教えてくれました。
“世界で一番硬い食べ物”といわれる、発酵食品のかつお節
「かつお節の歴史は約1500年ですが、現在の製法になったのは300年前。元禄の、徳川統治だった時代です」
“世界で一番硬い食べ物”といわれるかつお節が、発酵食品だと意識されたことはありますか? 燻製を重ね、カビを重ね、さらに乾燥させながら味わいを深めるかつお節。しかもタイコウでは、強制的にカビを付着させる製法はしておらず、菌たちが活動しやすい環境を整えて、時間と手間暇をかけて熟成しているんです。
「その分とてもおいしいかつお節になります。ただ旨味が強いだけではなく、滋味深くて、しみじみと、ゆっくり味わえる、そういうダシを引くことができます」
タイコウのかつお節の削りたてを使えば、半量〜1/5の量でおいしい出汁がとれる
通常1リットルのダシを取るのに30〜40gのかつお節が適量とされていますが、タイコウのかつお節の削りたてを使えば、たった7〜8gで十分なのです(袋入りの削りぶしを使う場合でも15gでいいそう)。
つまり一般的と言われる量の、半量〜1/5のかつお節でとてもおいしい出汁がとれるんですね。
これにはヒラクさんも「え、そんなに少なくていいんだ!」と驚きのコメント。
かつお節で出汁を取った後は、濾さずにそのまま飲んでもいい
「それに濾さなきゃいけないと思ってる人もいますが、濾さずにそのまま飲んだっていいんです。出汁取りってそんなに難しくとらえるものじゃないんですよ」と、稲葉さんの心強い言葉に、少しホッとした方もいらしたのではないでしょうか。
タイコウのかつお節でとったお出汁は、体に染み渡るような滋味深い味。
動物性でありながら脂が浮かず、透明で澄んでいるのが、かつお節の上品な特徴ともいえる
「発酵サミット 2018 in 犬山」のトークライブも終盤へ
小南シェフは発酵調味料を使った野菜のマリネなどを実演した他、
会場にはそれらの試や、塩麹を使った「塩麹キャラメル」の限定販売なども大好評でした
トークライブも終盤。司会のお2人からは、発酵に日々触れているからこそ感じられるこんなお話しも。
人間が細胞レベルで求めるような味を可能にしてくれる、天然素材の発酵食品
「みりんでもかつお節でも、発酵食品というのは時間がかかるものです。そこに効率や生産性を求めると、何かの工夫が必要になってくる。でも稲葉さんがおっしゃったように、滋味深い味わいは本来ぼくたち人間の体が必要とする、細胞レベルで求めるような味。その味を、何のてらいもなく可能にしてくれるのが、天然素材の発酵食品だと思います」(三角さん)。
本物の発酵調味料を買うことは、誰かが費やしてくれた熟成のための時間を買わせてもらうこと
「日本食の特徴として、新鮮素材を生のままいただくというものと、それとは逆に、時間をかけた熟成の両方があります。生の魚に醤油を合わせるように、その両方が合わさることで、旬のものにも味の奥行きがでるんですね。しかも食材同士の相性がとても良い。洋食の調味料は重ねすぎると調和されにくいですが、和食の調味料は重ねることで味わいが広がります。今日シェフが紹介してくれた料理はどれもシンプルな作り方でしたが、それは発酵食品を使ったからだと思うんです。僕たちはこういう本物の調味料を買うことで、誰かが費やしてくれた熟成のための2年、3年という時間を買わせてもらってるんですね。こういうものがキッチンにあれば、普段の料理をシンプルにして、でもとても豊かなものにすることができますよ」(ヒラクさん)。
タイコウのかつお節削りに描かれたヒラクさんのサインとイラスト
「発酵サミット 2018 in 犬山」はこのあと、ワークショップが開催されました。イベントレポート後編では、発酵マルシェのご出店者、そしてワークショップをご紹介します。
発酵サミット 2018 in 犬山
関連リンク
発酵サミット実行委員会
小倉ヒラク氏
三州三河みりん
東海醸造
かつお節のタイコウ
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