発酵通信 in ベトナム【熟鮓「マム・カー」と調味料「マム」編】

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今回は、ベトナムの熟鮓「マム・カー」について、ベトナム市場に特化したマーケットリサーチ企業『B&Company』社の現地スタッフ、アンさんに教えていただきました。


Q:ベトナムの熟鮓「マム・カー」とはどんな発酵食品なのですか?

A:「マム・カー」は、魚を塩漬けにした後、炒った米の粉を加えてカメに入れ、発酵させたものです。

チャウ・ドク市場(Chau Doc market)

日本の熟鮓は、ベトナムの「マム・カー(Mam ca)」に似ています。
「マム・カー」は、魚を塩漬けにした後、炒った米の粉を加えてカメに入れ、発酵させたものです。ウイスキーを香り付けや発酵を早めるために加えることもあります。
魚は淡水魚でも海水魚でも構いません。よく使われるのは、かたくちいわし、雷魚、鯉などです。
「マム・カー」の作り方は、2段階に分かれています。

「マム・カー」の作り方 第1段階:下準備

・魚を水で洗い、鱗を取り、内臓を取り出します。
・水気を切り、カメに入れます。
・塩を入れ、カメの口をしっかり塞ぎます。
・半月ほど発酵させると、「マム」になります。

「マム・カー」の作り方 第2段階:仕上げ

・炒った米の粉を加えます。特徴的な香りが生まれます。
・2〜3カ月、発酵させます。

マム(魚やエビに塩をまぜて発酵させたもの)作りに必要な2つの条件

「マム・カー」などの発酵食品はベトナムや南アジアではとても人気があります。「マム(魚やエビに塩をまぜて発酵させたもの)」には、2つの条件が欠かせません。
1. 魚がたくさん取れる河川
2. 一年間、高温な気候(虫の侵入を防ぐ)
この条件を十分満たしているベトナム南部は、「マム」の本場として知られています。

Q:ベトナムの熟鮓「マム・カー」の食べ方を教えてください

A:「マム・カー」は、ご飯や生野菜など調理をしていない食べ物と一緒に食べるのが一般的です。

「マム・カー」は、ご飯や生野菜など調理をしていない食べ物と一緒に食べるのが一般的です

「マム・カー」の最も一般的な食べ方は、加工や調理をしていない食べ物と一緒に食べることです(「マム・ソング」とも言います)。ご飯や生野菜、スライスした生姜、胡椒などと一緒にいただきます。「マム・カー」は、さまざまな料理に使われます。

マン・チエン(man chien):ベトナムの熟鮓「マム・カー」の食べ方

「マン・チエン(man chien)」は、ニンニクとコーン粉で揚げたもの。

マム・チャング(mam chung):ベトナムの熟鮓「マム・カー」の食べ方

「マム・チャング(mam chung)」は、蒸し料理で、魚一匹丸ごとのものや、バラバラにしたものを鶏ひき肉や卵、他の調味料と一緒に調理したものもあります。生野菜やグリーンバナナ、キュウリなどと一緒に食べます。

マム・コー(mam kho):ベトナムの熟鮓「マム・カー」の食べ方

そのほか、「マム・コー(mam kho)は、水を加えて煮る料理で、クーロンデルタ地域で一般的なものです。特に、ドンタップ省では、ハス、シトロネラ(香草の一種)、ナス、雷魚、ベーコンを加え、ご飯と一緒に食べたり、あるいはスープとしていただきます。

ベトナムの熟鮓「マム・カー」の「マム」は調味料としても使われます

ベトナム南部地域の人々は「マム」をたくさん食べています。魚は体に良く、健康を守ってくれます。

ラウ・マム(lau mam):ベトナムの調味料「マム」の食べ方

「マム」は、「ラウ・マム(lau mam)」という鍋料理にも使われます。南部の名物で、とても美味しい料理です。初めて食べる人は、色鮮やかな野菜が盛り付けられた大きな皿の数々や、マムを身と骨が分かれるまで煮詰めた、濃厚で甘いスープの香りにきっと魅せられることでしょう。
「ラウ・マム」のスープは砂糖やスパイスで味付けされ、ココナッツミルクをほんの少しだけ、濃厚さや香り、粘り気を出すために隠し味として加えます。唐辛子や刻んだシトロネラも香り付けのために欠かせません。
新鮮な魚、淡水のカニの身、かたつむり、うなぎ、豚の薄切り肉、エビなどを、ナス、ニガウリ、セリ、「キバナツノクサネム」という黄色の花、豆もやし、ハス、フクロタケといったいろいろな野菜と一緒に鍋でよく煮て食べます。

ラウ・マム(Lau mam)
ラウ・マム(Lau mam)

食品の保存にも使われる「マム」

南部では、「マム」は食品の保存にも使われます。「マム」の中に食品を入れておくと、「マム」に含まれる塩分によって、食品が長期保存できます。こうして保存された食品には、「マム」の風味が移ります。例えば、豚肉を「マム」に漬けたデュア・マム(dua mam)などです。

Q:ベトナムの熟鮓「マム・カー」がおいしい地域はどこですか?

A:ベトナム南部には、各地域に独特の「マム」の作り方があります。

それぞれ材料や作り方が異なり、地域の特産品になっています。「マム・ヌク(mam nuc)」「マム・タイ(mam thai)」「マム・チャウ・ドク(mam Chau Doc)」、魚の腸で作る「マム・ドン・タップ・ムオイ(mam Dong Thap Muoi)」などです。特に以下の3カ所が有名です。

アンザン省「チャウ・ドク(Chau Doc)」:ベトナムの熟鮓「マム・カー」がおいしい地域

アンザン省「チャウ・ドク(Chau Doc)」:ベトナムの熟鮓「マム・カー」がおいしい地域

「マム」の最も有名な地域で、25種類の「マム」があります。広大なチャウ・ドク市場のおよそ半分近くの店で「マム」が売られています。
ここでは古くから「マム」が作られてきました。昔、メコンデルタは広大で、人があまり住んでいませんでした。雨季になると、たくさんの魚やエビが取れ、余ってしまうほどでした。そこで人々は保存する方法を見つけ出しました。魚やエビが取れるのは、通常、7、8月頃から、ピークは10、11月で、その時期が「マム」を作るシーズンにもなります。
この地域の「マム・カー」には、砂糖が加えられ、他の地域のものより甘くなります。ヤシから作られた砂糖を茶色っぽくなるまで熱して、他の香辛料と一緒に加えます。

チャウ・ドク市場(Chau Doc market)
チャウ・ドク市場(Chau Doc market)

この地域の最も有名な「マム・カー」は、「マム・タイ(mam thai)」です。「タイ」は、国のタイの意味ではなく、スライスの意味です。
雷魚の身を手よりも長く切り、パパイヤも千切りにします。それらをさまざまな香草と一緒にマリネします。その際、ニンニクは必須です。忘れてはいけません。最後に混ぜ合わせます。
忙しくて料理する時間がない時は、温かいご飯と一緒に「マム・タイ」を食べると良いでしょう。きちんと料理できる時は、豚肉、エビ、魚を茹で、ライスペーパーに包んで食べます。
最も一般的な食べ方は、ライスペーパーに「マム・タイ」、豆もやしやハーブ、茹でた肉、茹でた魚、茹でたエビを乗せ、さらに「ブン」という米粉から作った白い麺を少し加えます。それらを巻いて、チリソースを付けて食べます。
現在では、チャウ・ドクの「マム・カー」は工場で作られ、ラベル付きのパッケージで売られています。

「マム・カー・ロック(Mam ca loc)」90,000 VND/500g
「マム・カー・ロック(Mam ca loc)」90,000 VND/500g

「マム・カー・コム(Mam ca com)」65,000 VND/500g
「マム・カー・コム(Mam ca com)」65,000 VND/500g

カマウ省(Ca Mau province):ベトナムの熟鮓「マム・カー」がおいしい地域

カマウ省(Ca Mau province):ベトナムの熟鮓「マム・カー」がおいしい地域

カマウはベトナムの最南端にあり、西部から北西部にかけて広大なウーミン(U Minh)・マングローブの森が広がっています。カマウは森と海が調和した地域で、汽水性の生態系が広がっています。
カマウの「マム・カー」は、チャウ・ドクのように甘くありません。甘みが苦手な人にはピッタリです。「マム・カー」を作る際に、塩味を弱めるために、多少の砂糖を加えますが、新鮮な魚と炒った米から生まれる自然な甘さを活かしています。カマウの調味料は水分がなく、乾燥した状態になっています。
カマウでよく使われる魚は、「カソン(ca son)」です(学術的には「テンジクダイ科」の魚)。3月から8月にかけてたくさん取れます。水で洗った後、1カ月ほど塩漬けにし、炒った米の粉や他の香料などと混ぜ合わせます。3カ月ほど発酵させると「マム」のできあがりです。カマウでは、「マム」をアヒルの卵や豚肉と一緒に蒸して食べます。

「マム・カー・ソン(Mam ca son)」60,000 VND/kg
「マム・カー・ソン(Mam ca son)」60,000 VND/kg

ドンタップムオイ、ドンタップ省(Dong Thap Muoi, Dong Thap province):ベトナムの熟鮓「マム・カー」がおいしい地域

ドンタップムオイ、ドンタップ省(Dong Thap Muoi, Dong Thap province):ベトナムの熟鮓「マム・カー」がおいしい地域

ドンタップは、自然が生み出した珍しい地形と川が作り出す魅力的な風景が特徴的なドンタップムオイ地域で知られています。ドンタップでは、名物の「ボン・ソン・チャム・マム・コー(bong sung cham mam kho)」を知らない人はいません。その味は忘れがたいものです。
毎年、旧正月が終わると人々は魚を取り始め、大きな魚は売り、小さな魚で「マム」を作ります。そして雨季に入ってから少しずつ食べます。「カリン(Ca linh:鯉の一種)」と「カサック(ca sac:スネークスキングラミー)」が「マム」作りによく使われます。
「ボン・ソン・チャム・マム・コー」は、まず「マム」をココナッツジュースで身が柔らかくなるまで煮ます。骨を取り除き、チリ、レモングラス、豚肉などで味付けをします。チリのスパイシーさ、レモングラス、エビの甘み、ハスの辛味、この素晴らしい料理には、当地のすべての風味が含まれています。

Q:ベトナムの調味料「マム」は若い人たちに人気ですか?

A:ホーチーミン市には「ブンマム通り(Bun Mam Street:マムを使った汁麺の通り)」があります。

ホーチーミン市には「ブンマム通り(Bun Mam Street:マムを使った汁麺の通り)」があります

「マム」は、若い人たちにも人気があります。
ホーチーミン市には、「ブンマム通り(Bun Mam Street:マムを使った汁麺の通り)」があります。200メートルほどの距離に、20の店が並んでいます。場所は、タンフー(Tan Phu)地区、Phu Th Hoa区、Nguyen Nhu Lam通りです。店の看板には、バクリュー(Bac Lieu)麺、ソクチャン(Soc Trang)麺、カントー(Can Tho)麺など、各地の名物麺料理の名前も掲げられています。

「ブンマム」は、カンボジア生まれの料理

「ブンマム」は、カンボジア生まれの料理で、カンボジアの塩辛「プラホック」を使います。ですがベトナムでは、「ブンマム」には、「カリン(Ca linh:鯉の一種)」と「カサック(ca sac:スネークスキングラミー)」を使います。ベトナム南部のチャーヴィン省やソクチャン省でよく見られる魚です。

「ブンマム」は、手早く食べるファストフードのような存在

もともと「ブンマム」はシンプルな料理で、手早く食べるファストフードのような存在でした。「マム」に、清潔な水、砂糖、レモングラスを加え、ブン(米粉から作った麺)を入れます。
ですが「ブンマム通り」では、より豪華になっています。エビ、イカ、魚のフライ、豚肉、さらにバナナ、苦味のある野菜、黄色のベルベットリーフ(水性の植物)、ハスなど、たくさんの香草や野菜が入っています。

Q:ベトナムの調味料「マム」のエピソードを教えてください

A:「マム」は、ベトナム人の心の一部です。

「マム」は、ベトナム人の心の一部です

「マム」は、ベトナム人の心の一部です。だから、人の行動や生活態度を判断する指針にもなっています。食事において「マム」を気にかけ、大切にする人は、良い人物と判断されます。ですが、「マム」を比べたり、細かくチェックするなど、あまりにこだわる人は、心が狭く、意地悪な人物と見なされます。
「マム」は、日々の会話において、たとえ「マム」と関係のない話題であっても、人の態度や性格を示すものとして使われます。特に、恋愛中のカップルにとっては、「マム」について話すことは大切なことです。

文学作品に登場する「マム」

「マム」は、伝統的なおとぎ話「タム・カム(Tam Cam)」や、人間の浅はかで愚かな考えについての笑い話「どっちがマムのお金、どっちが味噌のお金(which coin for “mam”, which coin for “tuong”)」、さらには過去半世紀にわたって子どもたちに人気の、南部の森をテーマにした作品「ダット・ルン・プウォン・ナム(Dat Rung Phuong Nam)」など、さまざまな文学作品に登場します。
ティエンザン省出身の作家、ドアン・ジオイ(Doan Gioi)は、ベトナム南部の故郷を離れてからもう何年も経っており、この作品の中で南部の名物料理を懐かしみ、南部の料理と文化を紹介しています。この話は戦争で家族を失い、フランス統治下のベトナム南西部に暮らす、ナムという男の子の冒険話です。作品の中で作者は「マム」について、短い文章を書いています。


B&Company

B&Company

「B&Company」は、ベトナム市場に特化したマーケットリサーチ企業です
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問い合わせ: (mail) info@b-company.jp / (Tel) 03-5829-4006

参考文献

http://www.vanhoahoc.vn/nghien-cuu/van-hoa-viet-nam/van-hoa-nam-bo/2583-nguyen-thi-tuyet-ngan-van-hoa-mam-trong-am-thuc-nam-bo.html
http://vanhoalichsuangiang.blogspot.com/2013/03/mam-chau-oc-huong-vi-kho-quen.html
http://thanhnien.vn/doi-song/am-thuc/mam-ca-chau-doc-796670.html
http://www.camau.gov.vn/wps/portal/!ut/p/a0/04_Sj9CPykssy0xPLMnMz0vMAfGjzOKNHC0tPNy9DbwMvB3dDBzdLQwCXc29DS3dDfQLsh0VAWqouTw!/pw/Z7_2A98HGK0J0KAF0AG80QE7K19O3/ren/p=CTX=QCPcamaulibraryQCPcamauofsiteQCPdulichQCPsanphamQCPsdhgsfher4/=/
http://www.nguoi-viet.com/phu-nu/Muon-an-mam-sac-ban-chua-3204/
http://cachnauan.net/10-mon-dac-san-ngon-noi-tieng-cua-dong-thap
http://monngonviet.net/n180-mam-thai-chau-doc.html
https://forumamthuc.blogspot.com/2016/01/nguon-goc-cach-lam-bun-mam-ac-san-mien.html

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