タイ、チェンマイの納豆「トナオ」後編:トナオを作る・料理する【諸国菌食紀行】

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フリーランスの料理人であり、発酵トラベラーでもある安田花織さんの「諸国菌食紀行」。前編ではタイの納豆「トナオ」の作り方を現地のトナオアーチャン(納豆先生)に教えてもらい、中編では「トナオ」を使ったさまざまな料理に挑戦しました。
3回めの後編は、タイ、チェンマイから日本に帰ってきた安田さんがトナオを日本で発酵させ、料理を作ってみました。

✔タイの納豆「トナオ」について、トナオアーチャン(納豆先生)に教えてもらいました!
タイ、チェンマイの納豆「トナオ」前編【諸国菌食紀行】
✔タイの納豆「トナオ」を使った、さまざまな料理にチャレンジしてみました!
タイ、チェンマイの納豆「トナオ」中編【諸国菌食紀行】


タイの納豆「トナオ」料理への驚きと発見

近くに生えてる植物からできるタイの納豆「トナオ」の存在は大きな衝撃だったが、それ以上に、トナオにスパイスや魚醤を合わせたり、乾燥させて保存し、旨みとしてスープに使ったりと、多様なトナオ料理の数々に、驚きと発見が盛りだくさん。日本の納豆では見かけない調理法や使い方に感心した。

せっかくトナオ料理を教わったので、今回は旅ではなく、教わったり、食べたトナオ料理を日本で再び作って食べる『回想菌食食堂』にしたい。

お家で『回想菌食食堂』。日本で、タイの納豆「トナオ」作りにチャレンジ

まずトナオを作るところから。
作り方はとっても簡単、柔らか~く茹でた大豆(親指と薬指で軽く潰せるくらい)をさっと熱湯にくぐらせた葉で包み、40度くらいで2~3日置く。
(寒い時期の作り方は後述の「作り方」参照)

帰国し最初にトナオを作ったのは7月、気温は30度くらい。6月に行ったタイの平均気温30度前後とさほど変わらない気候で、置く場所によっては、納豆の発酵に最適な40度を保てていた。

タイの納豆「トナオ」作りのコツは、菌がのびのびと発酵できる環境を整えること

簡単とはいえ初めての場合は、見えない菌を相手に、どうしていいか困惑する場合もあると思う。しかし、菌がのびのびと発酵できる環境を整える気持ちで自分が立ち回ると上手く行くことが多いようだ。

まず大切なのは主に働く菌について知り、好きな環境を整えてあげること。
特に温度と、邪魔してくる他の菌を発生させないようにしてあげることが大切。

100度でも死なない、熱に強い枯草菌の一種「納豆菌」

今回の主役「納豆菌」が活発に働くことができるのは40度〜45度とされているが、100度でも死なない。

納豆菌について少し詳しくお話しすると、納豆菌は「枯草菌」の一種で、藁だけに限らず、葉っぱや枝、土壌など自然界に広く存在している。
今回は朴葉でトナオを作ったが、シダやミント、よもぎなど様々な葉で作ることができる。

タイの納豆「トナオ」作りの最初の工程で高温処理を行う

枯草菌は、「枯れた草を熱湯で煮沸すると草に付いていた微生物の大半が死滅し、この菌だけは生き残る」という性質から名前がついたと言われている通り、とにかく大変強い菌で、適温ではない状態に陥った場合だけでなく、乾燥や栄養不足によって悪い環境になってしまった時には、胞子になって休眠することができる。

高い温度でも納豆菌は死なないので、最初の段階(以下「作り方」3、4の工程)で高い温度で作業することで、他の菌の繁殖を防ぐことができる。

タイの納豆「トナオ」の作り方

材料(出来上がりは約500g)

・乾燥大豆 200g
 ※タイでトナオに使用されていた大豆は極小粒のもの、今回は北海道産の黒千石大豆を使用
・朴葉 2〜3枚
 ワラビ、イチジク、ローズマリー、ミントのなどの清潔な葉
 ※葉が手に入らない場合は市販の納豆大さじ1くらい

作り方

1. 大豆を洗い、ひと晩水に浸ける、最低6〜8時間。
2. 大豆を柔らかくなるまで煮る。
 圧力鍋を使う場合は、圧がかかってから弱火で5〜7分加熱。人差し指と親指ですっと潰れるくらい。
3. 朴葉を煮沸消毒しておく。
4. 茹で上がった大豆を清潔なざるにあけて、よく水を切る。熱いうちに葉で包むまたは納豆を入れる。
5. 40℃くらいの場所に1日から2日間程度置く。
 寒い場合は、ヨーグルトメーカーなどで、42℃程度で24時間から48時間保温。
POINT: 納豆菌は好気性なので密閉はしない。大豆の表面にうっすらと白い膜がついたらできあがり。
保存期間: 冷蔵庫で7日~10日間、冷凍庫で1ヶ月ほど保存可能。

タイの納豆「トナオ」の賞味期限が短い理由

発酵食品であるタイの納豆「トナオ」の賞味期限が短い理由は、納豆菌が様々な栄養素を出しながら早いスピードで発酵していくため。
そうした中にアンモニアも含まれていて、時間が経つとどんどんツーンとしたニオイが強くなっていく。また、自分たちが出した栄養さえもエサにしてさらに発酵を進めてしまい、だんだんと納豆菌のエサ自体も少なくなり、力が弱まって、他の菌がつきやすくなり腐敗しやすくなる。

タイでは生のトナオ(納豆)を乾燥して保存している

タイの市場で売られているトナオ

タイの市場で売られている乾燥トナオ。
高温多湿のタイでは、食べきれない生のトナオを乾燥させることで発酵を止め、保存可能にしている。

お家で『回想菌食食堂』。日本で、タイの納豆「トナオ」料理にチャレンジ

トナオができあがったところで、いよいよ料理スタート。
トナオは、同じ発酵食品である「魚醤」と合わせて加熱すると、新しい味になって大変おいしかった。
今回は、魚醤を使ったトナオ料理を2品、ご紹介したい。

異なる発酵食品を合わせて加熱すると、料理はさらにおいしくなる

タイの納豆「トナオ」料理だけではなく、他の料理も同様に、異なる発酵食品を合わせて加熱することが、おいしさのポイントになる。

ナンプラー、ニョクマム、しょっつる、いしり…。「魚醤」とは何か?

ちなみに、今回トナオと合わせるのは、醤油や味噌の原型といわれている醤(ひしお)の一つで、魚醤(うおひしお)の一種。
魚介類の内臓の酵素と好気性菌を利用し、塩で腐敗を防ぎながら発酵、熟成させた調味料で、タイのナンプラーやベトナムのニョクマムをはじめ、魚と塩がとれる地域で育まれた調味料だ。

日本にも「しょっつる(ハタハタ)」、「いしり(イカ)」、「いしる(イワシ)」などがあり、新鮮な魚介と塩さえあれば、家でも作ることができる。

タイの納豆「トナオ」料理に使った自家製の魚醤

今回の隠れた主役「魚醤」は、自作の魚醤を使った。

三崎で買ったヒイラギ
三崎の漁港に行った際に見つけた『ヒイラギ』と呼ばれるひと山100円の小魚を塩に漬け発酵させた。

半年後の発酵したヒイラギ
半年後の発酵したヒイラギの様子。

今回の、お家で『回想菌食食堂』では、まずはトナオ包み焼、またはトナオ蒸しを作ってみる。

タイの納豆「トナオ」の包み焼(またはトナオ蒸し)

材料

トナオ包み焼、またはトナオ蒸しの材料

・トナオ 茶碗1杯くらい
・塩 2つまみ
・魚醤 小さじ1/2
・ニンニク 1/2片
・粉唐辛子 適量
・包む用葉っぱ 適量

作り方

1. すり鉢にまずニンニクを入れて潰し、トナオ、 唐辛子、魚醤、塩を入れ、すりこぎで潰す。
 ※タイの石臼「クロックヒン」をお持ちの方は、そちらを使用

すり鉢にまずニンニクを入れて潰し、トナオ、 唐辛子、魚醤、塩を入れすりこぎで潰す。

潰す目安は、粒がなくなるくらい。それぞれの調味料の量はお好みで大丈夫。

目安は粒がなくなるくらい、それぞれの調味料の量はお好みで大丈夫。

2. 次に葉っぱで包む。今回は熊笹を仕様。
 お好みの包みかたで大丈夫、ちまきを包む要領で包んだらいい感じ。

次に採ってきた葉っぱで包みます。今回は熊笹。

3. 次に蒸す、または焼く。サイズにもよるが、10分から15分も加熱すれば十分。
 もともと生でも食べられるものなので、多少加熱が不十分でも食べられる。

次に蒸す、または焼きます。

蒸すとほっくり、焼くと香ばしくなる。どちらも笹の香りが移っていい香り。
トナオの一部を豚のひき肉などにしても大変おいしい。

蒸すとほっくり、焼くと香ばしくなります。

トナオ葉っぱ包みはそのまま食べても美味しいですし、ご飯や蒸した野菜や肉にディップのようにして食べます。

タイの納豆「トナオ」のスパイス炒め

材料

自家製トナオのスパイス炒めの材料

・クミンシード 大さじ1/3
・雑魚 大さじ1
・ターメリック 小さじ1/2
・にんにく(みじん切り) 1/2かけ
・植物油 大さじ1
・トナオ 60g
・トマト(ざく切り) 1個( 小さめなら2個)
・水 適量
・魚醤 小さじ1/2
・塩(あれば岩塩) 少々
・パクチー(ざく切り) 1/2束
・唐辛子 お好みで

作り方

1. 鍋に油を入れ、熱する。

鍋に油を入れ、熱する。

2. クミンシードを入れ、はぜてきたら、ニンニク、雑魚を入れて軽く炒る。

クミンシードを入れ、はぜてきたら、ニンニク、雑魚を入れて軽く炒る。

3. トナオを入れ、ざく切りにしたトマト、パクチーの根っこの部分、水、ターメリックを入れ、潰しながら炒める。

4. 少し煮詰まったら、魚醤、塩で味を整え、火を止め、好みで唐辛子、パクチーを入れて完成。
 そのまま食べてもおいしいし、ご飯や蒸した野菜や肉をディップして食べてもよい。

少し煮詰まったら、魚醤、塩で味を整え、火を止め、好みで唐辛子、パクチーを入れて完成。

タイの納豆「トナオ」料理は無限大

どちらも簡単にできる、「トナオの包み焼(またはトナオ蒸し)」と「トナオのスパイス炒め」。加熱することでトナオがほっくりとした丸みのある味になり、魚醤が香ばしい旨みになる。お好みの食材やスパイスを足すと、どんどんバリエーションが広がる。

お馴染みの日本の納豆と米でも、パラリとしたタイ米や米の麺に合わせたら、納豆の新たな魅力に出会えるはず。
トナオ作りができない方も、日本の納豆でもとてもおいしくできるので、是非作ってみてもらいたい。
そして、機会があれば、タイの納豆「トナオ」の本場、チェンマイにも足を運んでみてほしい。

今後は、まだまだ広がるアジアの納豆や発酵食品はもちろん、日本の納豆も掘り下げていきたいと思っています。

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