木桶職人復活プロジェクト

2018年02月23日

「ヤマロク醤油株式会社」五代目 代表取締役 山本康夫さん【木桶職人復活プロジェクト】

醤油の郷としても知られる小豆島で、国産原料と木桶仕込みの醤油を造り続ける『ヤマロク醤油』。「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げた、ヤマロク醤油株式会社 五代目 代表取締役の山本康夫(やまもと やすお)さんにお話を伺いました。

ヤマロク醤油株式会社 五代目 代表取締役 山本康夫さん
ヤマロク醤油株式会社 五代目 代表取締役 山本康夫さん

「木桶がなくなると、醤油を造り続けることができない」。危機感を超えた切実な状況が生んだ、木桶職人復活プロジェクト

木桶職人復活プロジェクト製作風景

木桶職人復活プロジェクトを立ち上げたのが2011年の秋で、このように多くの方に参加いただくようになったのは、今年で4年目になります。木桶を自分たちで造るのは5回目です。もうちょっと、忙しすぎて、あまり詳細に覚えていられませんけれど(笑)。

このプロジェクトを始めたのは、「木桶がなくなってしまう、どうしよう、もううちの醤油を造り続けることができない」という、危機感を超えた切実な状況があったからです。

醸造用の木桶を製造する“日本で最後の桶屋”に新桶を発注、しかしその桶屋自体が存続の危機だった

最初は、醸造用の木桶を製造する日本で最後の桶屋、大阪府堺市の「藤井製桶所(株式会社ウッドワーク)」に木桶を発注しました。2009年のことです。新桶を発注したのは、醤油屋ではうちの蔵が戦後初だったそうです。木桶仕込みの蔵の多くは、まだ今のところは昔あつらえた木桶を使っていて、それが使えなくなったら木桶を捨ててタンクに移行する。だから新桶を頼まなくていいんですね。

うちは、可能な限りの借金をして、いきなり9本の新桶を発注しました。そんな数の新桶を発注されたことも戦後初だったらしいですけれど、先方から「もう桶屋を続けられないかもしれないから、自分の桶は自分で直してくれ」と言われまして。もうそうなったら、選択肢は「自分たちで木桶を造ってメンテナンスしていくしかない」と。

木桶を組むには3人の人間が必要。幼なじみの2人の大工と3人で“日本で最後の桶屋”に修行へ

木桶は、3人の人間がいないと組めません。それで、大工である同級生の坂口直人さんと後輩の三宅真一さんの2人に声を掛けました。小豆島には、工務店に所属していない大工はその2人しかいないんです。2人には私から、「ちょっと、行っとく?」と。2人は、何のことだかよくわからないまま「ええよ」と(笑)。

そして2012年の1月、3人で藤井製桶所に弟子入りしました。新たに借金をして発注した3本の新桶を使って、造り方を直接教えてもらったのです。弟子入りといっても、うちが発注した3本の新桶が出来上がってしまえば終了です。木桶造りの一通りの工程を体験させてもらって、その後は、自分たちで試行錯誤を繰り返して小豆島で木桶を造り続けています。

木桶を使った醤油や味噌の生産量は全体の1%以下。そんな中で「うちの醤油だけ売れればいい」と思ったら廃業

木桶職人復活プロジェクトでの山本康夫さん

なぜそこまでするのか、と聞かれることが多いのですが、そこまでしないと、木桶造りの醤油が日本からなくなってしまうからです。
現在、木桶を使った天然醸造による醤油や味噌の生産量は全体の1%以下です。そのようにきちんとした醤油を造っている蔵は、うち以外にもいくつかあります。そんな中で、「うちの醤油だけが売れればいい」と思ったら廃業です。

木桶の需要があって桶職人の仕事が増えないと、木桶仕込みの醤油が造れなくなる

自分の醤油だけを売ろうとすると、自分の蔵にある木桶の数しか醤油ができません。そうすると、桶職人の仕事が限られてしまい、桶屋は成り立たなくなります。職人がいないと桶は造れない
今は自分の蔵で木桶仕込みの醤油を造っていても、息子や孫の代になったときに桶職人がいなければ、その蔵は醤油が造れず、廃業しなければならない。ということは、自分のところだけが売れてもダメなのです。桶職人の仕事が増えないと意味がない

木桶醤油の需要を1%から2%にすることで、息子や孫の代まで廃業しなくて済む

木桶職人復活プロジェクトで造られた新桶

そのためには、木桶醤油の需要を現在の1%から2%にするしかないのです。2%に増えると、計算上は20石の大桶(今回のプロジェクトで造っているサイズ)が3000本必要になります。木桶の需要ができると、うちで桶職人を育成できるし、技術も残せます。そうすると、新桶をいつでも造ることができて、息子や孫の代まで廃業しなくて済むんですね。こうやって考えていくと、自分だけが儲かろうとすると負けだと気づいたのです。

「1%の市場を取り合うのではなく、一緒に2%に伸ばしていこう」。各地の蔵元さんも心を同じくしてこのプロジェクトに参加

このプロジェクトに来てくれている各地の蔵元さんも、「1%の市場を取り合うのではなく、一緒に2%に伸ばしていこう」と心を同じくして参加してもらっています。また今後は、昔から使っている木桶の交換時期に差し掛かってくる蔵もたくさん出てくるはずです。きっと、この想いに賛同してくれる方ももっと増えてくると思っています。

蔵同士は、市場のシェア率ではなく品質を競争し、お客様に合ったものをそれぞれに提供していくといい

そんな中で、蔵同士は、市場のシェア率ではなく品質を競争すればいい。お客様の好みは人それぞれ、うちの醤油ではなく、このプロジェクトにも参加している片上醤油さんや足立醸造さんほうが口に合う方という方もたくさんいらっしゃる。お客様の嗜好に合ったものをきちっと提供していけば、それだけで十分だと思うのです。

木桶職人復活プロジェクトでのラーメンの昼食
木桶職人復活プロジェクトに参加された、「麺や七彩」店主、
株式会社アール・エー・アール取締役の阪田博昭さんたちによる手造りラーメンの昼食

木桶職人復活プロジェクトをきっかけに、各地で広まる新しい取り組み

ヤマロク醤油施設内

また、想いを同じくする方々がこのプロジェクトに集まると、自然と何か新しいことが始まるものです。私はそれを“悪だくみ”と呼んでいるのですが(笑)、知らないうちにみんなが勝手に繋がって意気投合して、自分たちの地元に戻ってプロジェクトを立ち上げたり、商売を始めた方もいらっしゃいますよ。

足立醸造さんの「木桶職人復活プロジェクトin兵庫」は、木桶醤油の需要を1%から2%にする最高の取り組み

たとえば、足立醸造さんの「木桶職人復活プロジェクトin兵庫」では、企業の方と一般の参加者の方を集めて、みんなで小さな木桶を造ったそうです。その際に、地元のメディアにプレスリリースを流して取材に来てもらって、地元のニュースでその模様が報道される。地元の人によりよく情報が伝わるのが、ローカルニュースです。その後、全国区で木桶のことが取り上げられたら、さらに興味を持ってもらえます。これぞ、1%を2%にする最高の“悪だくみ”だと思うんですよね、すごくうれしいです。

木桶職人復活プロジェクトで造った木桶を使って、食品メーカーが木桶仕込みの醤油や味噌造りを始める計画も

今回は6つの木桶を造るのですが、そのうちの2本は静岡の食品製造販売メーカーさんに卸すことになっています。そこではもともと埼玉県日高市の弓削多醤油さんの醤油を販売していたのですが、今後は自分たちで蔵を建てて木桶仕込みの醤油や味噌を造りたいと。そこで、弓削多醤油さんが麹を提供して、仕込みもサポートするそうです。ここでもまた、1%を2%にする取り組みが広がっています。

木桶職人復活プロジェクトの木桶は、海外にも進出!

木桶職人復活プロジェクトでの新桶完成品

その取り組みは日本を超えて海外にも広がっています。木桶職人復活プロジェクトで造った木桶のうち1本は、実はイタリアにあるのです。
2015年に開催されたミラノ万博のテーマは「食」だったので、「日本館にも木桶を置いてほしい」と国に相談したら、内容が決まっているからちょっと難しい、と断られたのです。香川県でもミラノ万博に出展するのとのことで、そちらにもお願いをしてみたら、うどんと盆栽で出展するから難しいと。こうなったらもう、自分たちでどうにかしようと(笑)。ありとあらゆるルートを使ってミラノに木桶を輸送して、ミラノ万博の会場周辺3カ所で移動展示を行いました。そこでも大変多くの方々に木桶を見てもらえましたよ。

ミラノ万博の会場周辺での移動展示の後、木桶職人復活プロジェクトの木桶はどこに…?

しかし、日本からミラノへ大きな木桶を送るのに、高額な輸送費がかかりました。それを日本に戻すとなるとまた同じように費用がかかってしまう。どうにかならないかと考えて、「食科学大学(※)」に置いてもらえるよう交渉したところ、大学のほうから、「ある人が日本の木桶に大変興味を持っている」と教えてくれたのです。その人こそ、イタリアNo.1のクラフトビールメーカー「バラデン(Baladin)」の創始者であり、醸造家としてイタリアで初めてクラフトビールを製造したテオ・ムッソ氏でした。

(※)食科学大学:イタリアのピエモンテ州ポッレンツォにある食科学大学は、食科学(ガストロノミック・サイエンス)を専門とする世界で初めての大学

木桶は、イタリアNo.1のクラフトビールメーカー「バラデン(Baladin)」の工場見学の目玉として展示されることに!

テオさんは世界中の樽をコレクションしている“樽マニア”。テオさんに連絡したところ、ちょうと樽でビールを仕込みたいと思っていたとのことで、うちの木桶が絶対に欲しいと。そこで、今回は無料で木桶を進呈する代わりに、日本の木桶とこの木桶職人復活プロジェクトのことをイタリアで紹介してもらうことにしました。今、その木桶は、バラデンのブルワリーツアー(工場見学)の目玉として、イタリア語と英語の説明パネルと共に、工場の一番最後の部屋に展示されています。木桶の中では実際にクラフトビールが仕込まれていて、ヨーロッパ中の観光客がガラスケースの中の木桶を興味深く見学しているのです。

海外での広がりを国内でも知ってもらって、木桶醤油の需要を1%から2%にしたい

バラデンの一挙手一投足は、イタリア全土とクラフトビール業界から常に注目を集めているそうで、以前うちの蔵見学に来たクラフトビール関連の方が「これが世界で知れ渡ったら、えらいことになりますよ」と教えてくれて(笑)。「イタリアで日本の木桶がすごいことになっている!」ということを、日本でももっともっと知ってもらいたい。そして、木桶の発注がたくさん来たら、全国の木桶職人に仕事を任せていくようにしたい。そこまでのことができるようにしようと思っています。

全国の木桶職人に仕事を任せていけるようになるための木桶職人復活プロジェクト

木桶職人復活プロジェクトでの昼食風景

このプロジェクトに参加してもらっている徳島の桶樽職人「司製樽(つかさせいたる)」の原田啓司君は、当初はここまで大きい木桶を造ったことがなかったそうなんです。出会いのきっかけは、原田君自身がテレビの取材を受けたときに、テレビ局の人がうちに「木桶がたくさん並んでいる写真を貸してほしい」と問い合わせてきたこと。そこで原田君の存在を知って、「うちで大桶造っとるんやけど、やる?」と原田君に電話をかけたら、「やる!」と。「じゃあ、おいで」と(笑)。
また、五島列島の桶職人「桶光(おけみつ)」の宮崎光一君は、このプロジェクトへの参加がきっかけで桶屋になったんですよ。

造るべき木桶があること、仕事の依頼が継続的に来る環境をつくることが、木桶職人、ひいては木桶を守り、増やしていくことにつながります。そのためにも、木桶醤油の需要を1%から2%にしなければなりません。

木桶できちっと造った醤油を味わってもらいたい

ヤマロク醤油施設内

木桶できちっと醤油を造っている醤油屋さんは全国にあります。でも、醤油屋や味噌屋は、そんなに儲からないんですよ。なぜって、スーパーに行くと、醤油より水のほうが値段が高い場合がある。それっておかしいですよね? 水より安い醤油を造りながら、塩分が高くて体にやさしくないというイメージを持たれてしまう。そのうえ、料理や食事には少量しか使わない。お酒が好きな方は、たくさん飲まれるでしょう? でも醤油は、量は使わない、イメージが良くない、単価が安い、と来ています。これではいけない。

いい醤油を使うだけで料理がガラッと変わる。小さいサイズでいろんな醤油を買って、用途によって使い分けて欲しい

木桶職人復活プロジェクトでの昼食時に出された各地の醤油
木桶職人復活プロジェクトの昼食時に出された「醤油職人」さんの各地のお醤油など

でも、醤油のいいところは「毎日使うこと」です。きちっと造られた醤油は、特価で販売されているスーパーの醤油と比べると値段が高くなるのは当然です。しかし、一食あたりに換算すれば大した金額にはなりません。日本人が1ヵ月で消費する醤油の量は、平均500ml程度。1Lのペットボトル入り醤油を198円で購入して、2~3カ月使い続けて酸化させるより、500mlのきちっと造った醤油を1,000~2,000円で購入して、1ヵ月でおいしく食べ切る。いい醤油を使うだけで料理がガラッと変わります。なので、小さいサイズでいろんな醤油を買って、用途によって使い分けて欲しいですね。

自分たちの孫の代まで木桶仕込みの醤油造りを残すことが使命。木桶職人復活プロジェクトもその一環

ヤマロク醤油の山本康夫さん

こんなふうに、木桶を通して醤油の使い方から造り方までを多くの方に伝えていきたいですし、伝統ある島の産業を守り抜くために惜しみなく尽力したいです。せめて向こう100年、自分たちの孫の代まで木桶仕込みの醤油造りを残すことが、今の私たち世代の使命。木桶職人復活プロジェクトも、その一環なのです。
今後も小豆島で木桶を造り、自分たちが造った木桶で醤油を造り続けて行きたい。そして、志を同じくする醸造家さんや蔵元さん、その商品を愛するお客様とともに、おいしさのネットワークを広げていきたいと思っています。

ヤマロク醤油

ヤマロク醤油 オフィシャルサイト
ヤマロク醤油 Facebookページ
小豆島 木桶職人復活プロジェクト
職人醤油 – こだわる人の醤油専門サイト
KIOKE 木桶を伝えて増やすためのサイト


この記事の関連リンク

食科学大学(The University of Gastronomic Sciences)
バラデン(Baladin)

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