愛知・岐阜・三重の東海三県を舞台にした「発酵ツーリズム東海」が開幕しました。キュレーターは、各地の発酵文化を探求し続ける、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんです。
「発酵文化は、その土地の風土に根ざした食の技術であり、土地と人の記憶のアーカイブです。特に東海地方は、街道文化と気候風土が交錯して、独自の発酵圏が育まれてきました。その奥行きを感じてほしいです」
そう語る言葉の通り、発酵という側面から見た歴史や人々の暮らしが想像できる要素が盛りだくさん。2025年5月17日〜7月13日まで開催されている本イベントをご紹介します。
歴史と、未来への可能性を旅するプロジェクト
発酵ツーリズムの始まりは2019年、東京・渋谷ヒカリエで開催された「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜」でした。47都道府県の各地からひとつずつ厳選された発酵食品が並び、文化人類学の視点から分類された伝統食は、本質的に地域の文化に触れられるものとして話題になりました。発酵食品に詳しい方はもちろん、予備知識がなくとも体感的に楽しめるよう配慮された展示に訪れた人は、のべ5万人。
その後、2022年の発酵ツーリズムでは北陸、さらに多摩エリアをテーマに開催。2024年には石川県・金沢21世紀美術館での開催と、各地での発酵ツーリズム展を経て、この度、満を辞して東海エリアでの開催となりました。ヒラクさんが全国の発酵食品や作り手たちと築き上げてきた信頼関係を映し出すように、三県におけるたくさんの醸造蔵や生産者が集結しています。
多様さを体感できる仕組みが満載
イベント公式ガイドブックによると、東海三県は日本を縦断するようなその地形によって、冬の間は閉ざされがちな北の山間部で漬物が発展したり、海沿いでは穀物類を活かした調味料や酒が盛んに作られ、南部ではおすしが生活の味として根づくといった、東海地域独特の発酵食文化が定着したことが紹介されています。
東海のグルメといえば、しっかり濃厚な豆味噌やたまり醤油が有名な一方で、軽やかな白醤油や、まろやかな甘味のみりん、さっぱり爽やかなおすしと、実は大変多様です。そこで本展示では、東海を「うまみの首都」と位置付け、身近に数えきれないほど存在するという八百万(やおよろず)の神に例えた物語も展開。他の地域ではおそらく引き出されなかったであろう、東海の独自性を体感できるように考えられた3箇所の常設展示の他、醸造蔵での体験ツアーをはじめとする合計100を超えるプログラムが企画されています。
楽しみ方はこの3つ。自分なりのマストチェックを決めよう
発酵ツーリズム東海を楽しむための、基本ポイントはこの3つです。
1. 公式ガイドブックを買う
広い開催エリアと、数多くの関係各所をもれなく掲載したガイドブック。これさえあれば、一安心です。関係各所の詳細や、ローカルな発酵食の情報源としても、ぜひ最初に入手されてください。目印は、発酵文化への造詣が深く、ヒラクさんと共に日本酒の魅力を発信するEXILEの橘ケンチさんです。
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2. 3箇所の展示を見る
発酵ツーリズム東海の展示は、ぜんぶで3種類。愛知県半田市のミツカンミュージアムで開催されている「すしの千年を巡る旅」、同じく半田市の半田赤レンガ建物で知多半島をテーマにした「ハントーフードハント展」、そして、名古屋から電車で30分の距離にある岐阜市では、全国47都道府県の巡回展を含めた「うまみの聖地巡礼展」が開催されています。
いずれも展示された発酵食品のキャプションをじっくり読んだり、サンプルの匂いをかいだり、併設されたショップで買い物をするなどなど、ゆっくり過ごすことができるはず。
3. プログラムに参加して東海の発酵文化を体感
既出の通り多様なプログラムが用意されているため、日程や希望にあわせて、しっかり事前に見定めて、必要に応じて事前申し込みしておくのがオススメです。蔵開きに行って見学するもよし、ワークショップで非日常の手づくりを体験するもよし、ローカルのおいしいものを食べるツアーや、作り手の思いに触れられる講座などなど、本当に盛りだくさんです。

三県という広範囲に及ぶイベントのため、楽しみ方は実にさまざまな可能性を秘めています。ガイドブックには、日帰り、一泊二日、二泊三日と、それぞれのモデルコースが提案されているほか、立ち寄れるレストランも非常に魅力的なお店が紹介されていますので、できれば時間に余裕を持ち、たっぷりと満喫しましょう。
魅力の再発見。つなぐ先は未来
「発酵ツーリズムは、発酵という視点から日本文化の価値を再発見するプロジェクト」と、ヒラクさんが明言されている通り、本イベントはわたしたちが日々、当たり前に口にしている「価値」を見直せる機会だと思います。
普段とは少し違う街を訪れ、その土地の自然環境と共に紡がれてきた価値に、主体的に関わってみる。その一歩こそが、大切な食文化を未来へ受け継いでいくことに繋がるはずです。7月13日までの会期中、どうぞ東海エリアをお尋ねください。
発酵ツーリズム東海2025
◉会期
2025年5月17日(土)〜7月13日(日)
◉メイン会場
岐阜会場:みんなの森 ぎふメディアコスモス(岐阜県岐阜市)
愛知会場:MIZKAN MUSEUM(愛知県半田市)
三重会場:VISON(三重県多気郡多気町)