昨年7月、東京・表参道にオープンした「発酵居酒屋5(ゴ)」。鎌倉で発酵料理と韓国料理のお店を営んでいた発酵料理人・鈴木大輝さんを料理長に迎え、発酵食品を用いたメニューを提供しています。
店名の「5」は自然を五つの元素に分類する「五行思想」や「五感」、「五味」、「五色」などに由来しているそうです。
では、「発酵居酒屋5」では、どんなお料理&お酒が楽しめるのでしょう?
「発酵居酒屋5」の美味しさの秘密!料理長こだわりの自家製麹
店に入ってすぐ左手に「ただいま発酵中」の札が立つ桶があります。中を覗いてみると、今まさに発酵中の麹が! 「発酵居酒屋5」で毎日仕込んでいるそうです。原料は、千葉県鴨川市の生産者さんと一緒に鈴木さんが収穫したお米。「ながさ米」というお米で、明治天皇に献上されたこともあるそうです。
でも、お店で麹を仕込むなんて大変なのでは?
「温度管理をしっかりしていればそんなに神経質になる必要はありません。昔は一般家庭でも作っていたくらいですからね。それに、菌も人も同じ生き物です。大切な人に接するように、優しく接すると応えてくれるんですよ。逆に、手を掛け過ぎてもダメ。子育てと一緒です(笑)」と、子育て中のパパでもある鈴木さん。休みの日にも麹が気になってお店に見にきてしまうほど、愛情を込めて作っています。
そして、こう続けます。「人間も麹も年を取る分だけ深みが出ているんです。甘酒用の麹は2日、味噌や醤油など旨味を出すものに使う場合は5日発酵させています」。
取材当日、麹の仕込みを体験させていただきました。蒸したお米の粗熱を取り、前に作った麹を少し加え、種麹を加えながら手で混ぜていきます。「種麹は、京都の菱六さんのものと、千葉県にて無農薬米で昔ながらの自然の酒造りをしている寺田本家さんのものをブレンドしました。生物多様性っていいますし、いろんな人がいた方が楽しいですよね。同じようにいろんな菌がいたほうが楽しいかなと思って」と話しながら、鈴木さんは笑顔で種麹をパラパラとふりかけていきます。取材スタッフは、鈴木さんと一緒に発酵談義に花を咲かせながら手で混ぜ混ぜ。
「不思議なことに、楽しみながら作ると美味しい麹ができるんですよ」と、教えていただきますますテンションが上がります。そして、混ぜていると手のお肌がスベスベに! 楽しくて、美しくなれる麹作り。これはハマりそうです!
蒸したお米を桶に入れて粗熱を取ります
麹と種麹をふりかけます
麹と種麹がお米に行き渡ったか確認しながらまぜまぜします
ちなみに、麹はそのままでも食べられるそう。その日、出来上がった麹を試食させていただきました。ポリポリと食べると、ふんわりと優しい甘さを感じます。
「いい麹は栗のような味がするんですよ。うちの子どもたちは、麹をおやつ代わりに食べています」と、鈴木さん。
「発酵居酒屋5」で提供している参鶏湯にも、干し栗の代わりに麹が入っています。丸鶏と朝鮮人参を煮込んだ参鶏湯に、ほっくり優しい麹の風味が良く合います。
ジューシー&ヘルシーな「発酵からあげ」
「発酵居酒屋5」の看板メニューといえば「発酵からあげ」。塩麹にごま油、合わせ醤油を加え、その中に3日間鶏肉を漬け込んで、餅粉と片栗粉をまぶして揚げるそう。ひと口食べるとサクッとして、ジューシーな肉汁が溢れ出てきます。その鶏肉の柔らかさにもびっくり! しかも、「食べた後、胃もたれしない」と評判で、女性ファンも多いそうです。
人気メニューの「焙烙焼き」
淡路島産の猪と豚を掛け合わせた香り良い「金猪豚」を醤油麹で熟成させ、かたまり肉のままじっくり土鍋で焼き上げた「焙烙焼き」。発酵だれセットと巻き野菜付きの人気メニューです。
守りたい伝統の郷土料理!おすすめは「ふな寿司」と「かぶら寿司」
「創作料理よりも各地の伝統料理を伝えたいんです」と、鈴木さん。全国を訪ね歩き、地元の方からその調理法を学んできて、お店でふるまっています。
おすすめは、滋賀県の郷土料理「ふな寿司」です。鈴木さんは、彦根に通い、師と仰ぐ88才のおばあさんからふな寿司の作り方を教わっています。足繁く通うこと4年! 琵琶湖で獲れたふなを丁寧に洗い、半年以上かけて熟成発酵させたふな寿司は上質なチーズのような味がします。「ふな寿司は臭い」というイメージを払しょくする美味しさです。
その他、北陸の郷土料理「かぶら寿司」の作り方も富山の方から学んだといいます。塩漬けにしたかぶに切り込みを入れて、ブリなどの魚介やにんじんを挟み込んで熟成発酵させて作るそうです。
手間ひま惜しまず、じっくり時間をかけて作ったなれ寿司は、ぜひ食べて欲しいメニューです。ただし、手作りで長期熟成が必要なため、いつも食べられるとは限りません。運よく、メニューに出ているのを見つけたら逃すべからず!
季節を慈しむ「二十四節気」を意識したメニュー
鈴木さんは、季節感を大切に、二十四節気に合わせてメニューを考えているそうです。二十四節気とは、1年を春夏秋冬の4分割し、それぞれをさらに6分割して表す暦のこと。
写真は「立春大吉豆富」。雨水が訪れる2月18日まではこちらが先付けとして提供されるそう。
白味噌の吸い地に、酒粕、時には鮒鮓の飯、チーズなどで発酵感を出して、シンプルな豆富と京人参の酒粕漬け、新春春菊を合わせた「立春大吉豆富」。春菊の代わりに春の七草がお目見えすることもあるそうですよ。
また、2月18日の雨水以降は、ふきのとうの白和えと鎌倉産生わかめのナムルがの先付けに。
雨水とは、雪が雨に変わり、水が流れていく時候。雪から顔を出したふきのとうを白和えで演出し、雪解け水が海に流れ、海の生態系を豊かにしていく様をわかめで表現する予定です。
「食材の旬は、走り、盛り、名残に分けられますが、当店では走りを大切にしています。その食材や料理を見て季節の訪れを感じていただき、『家で作って、家族にも食べさせたいな』と思っていただけるといいですよね。3月はひな祭りに合わせて、蛤を使った料理やちらし寿司、あとは白酒(はくしゅ)を提供してみたいと考えています」と鈴木さん。
白酒とは、古くからひな祭りのお祝いに飲むお酒。甘酒と混同されがちですが、実はまったく別物です。一般的に、蒸したもち米や米麹をみりんや焼酎などと混ぜ熟成させ、もろみを軽くすりつぶして作ります。甘酒のように白濁している、ねっとりした舌触りの甘いお酒です。
賞味期限はわずか1週間?新鮮で美味しい国産マッコリ
「発酵居酒屋5」では、福島県の「虎マッコリ」と千葉県の「華本生マッコリ」の2種類の国産マッコリを置いています。市販の生マッコリは“生”といいつつも、その大半には合成甘味料が入っているといいます。酵母菌が食べれない合成甘味料を入れないと発酵が止まらないため、瓶が割れてしまうからだそうです。この2つのマッコリには一切甘味料が入っていないため、マッコリ本来のお米を醸した味を堪能することができます。しかし、賞味期限が1週間と非常に短いのだそう!
鮮度が命の“生”マッコリ。ぜひ、お試しあれ!
「発酵居酒屋5」のメニューからは、鈴木さんの発酵食品に対する愛情や、自然に対する敬意が伝わってきました。「発酵居酒屋5」のお料理を食べていると、心がほっこりしてくるのはそのためでしょうか。
木の温もりを感じるテーブルやイス、流木をあしらった照明など天然素材に囲まれたくつろぎの空間で、真心のこもった美味しい発酵料理&お酒を楽しんでみませんか?
教えてくれた人
発酵居酒屋5 料理長・鈴木大輝さん
店舗情報
発酵居酒屋5
〒107-0062
東京都港区南青山3-18-3 B1F
営業時間:月-金 12:00-15:00(LO14:00)/17:00-23:00(フードLO22:00、ドリンクLO22:30)
TEL:03-5413-8701
公式サイト:http://www.cafecompany.co.jp/brands/hakko5/