発酵ツーリズム展は「尊い」!haccola編集部がふたたびお邪魔しました

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4月末からスタートしていた、発酵デザイナー小倉ヒラクさんによる発酵ツーリズム展「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜」はすでにチェックされましたか?
来場者数4万人超えという異例の大好評のため、会期を2週間も延長した展示会場に、再びhaccolaもお邪魔しました。

発酵ツーリズム展「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜」

✔Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~
「発酵」一択のイベントがスタート!旅するようにめぐるローカルな食が集結


日本の発酵は海外とどう違う?

全国の各都道府県から一つずつ選りすぐりの発酵食品が選ばれ、渋谷の会場に一同に集合した同展覧会。
会期後半にかけてさらに盛り上がり、毎週末のイベントも参加者で満席が続出するなど、「一大発酵イベント」と呼べる現象が起きています。haccola読者の皆様の中にもきっと、すでにお出掛けされた、あるいはすでにリピートした方もいらっしゃるかもしれませんね。

Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~
会場の詳細は公式ページが随時更新されています


7月6日土曜日、同会場では朝からワークショップが1件、トークイベントが2件という充実ぶりでした。ワークショップはヒラクさん自身も一押しの「ごど」のつくり方が紹介されるとのことで、青森県の十和田市から十和田発酵食品協会の矢部会長も来京され、会場は満員。「ごど」についてもっと知りたい方はぜひ展示会場で青森県「ごど」をチェックされてみてください。

午後もやはり満員&増席でトークイベントが開催

トークイベントのテーマは『翻訳チームが語る「発酵ツーリズム翻訳の裏側と発酵の世界発信のこれから」』。発酵ツーリズム展ではほとんどの解説に英訳をつけたバイリンガル表記になっているのですが、実はhaccolaライターであるわたくし、やなぎさわが翻訳チームをディレクションさせていただいたのです。
今回バイリンガル化を決意したヒラクさんの思いと、実際に翻訳を担当したチームからわたくしとジャスティン・ポッツさんによるクロストークを展開してまいりました。

Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~
本展示のキュレーターである発酵デザイナー 小倉ヒラクさん(右)、日本酒に特化したポッドキャストのMCやきき酒師でもあるジャスティン・ポッツさん(中)、haccolaライター兼翻訳ディレクターである筆者・やなぎさわまどか(左)でのクロストーク


トーク前半は、発酵という日本の独自性や地域性の影響が大きい文化を、英語で発信する際に考えることやその意味について。

ヒラクさん:この翻訳で大変だったのはどんなこと?
やなぎさわ:英訳をはじめてみて早々に、想像以上にキャピタライゼーションで悩みましたね。

キャピタライゼーションとは大文字にするか小文字にするかという議論の意味ですが、ここでは主に、固有名詞の表記について検討を重ねたことを含んでいました。

というのも通常、固有名詞を表す際に英語の文頭は大文字になりますが、例えば「寿司」はすでに世界共通語になりつつあるため Sushi よりも sushi が一般的。では「江戸前寿司」はどう書くのか?という類の悩みが続出したのです。「麹」はkojiのままが良いだろうけど、じゃあ「麹菌」は koji-kin か koji-moldか?「鰹節」は katsuobushi のままとするか dried bonito と訳すか、でも英訳できないような、例えば「むかでのり」はどう表記するか?といった話し合いをしたことを紹介させていただきました。

ジャスティンさん:どちらも正解なんですよね、どれも間違ってはいません。また、多くの人が日本語でも、麹そのものも麹菌のことも、口頭ではどちらも「麹」って表現したりするし、コンテクスト(文脈)の統一はあまりないものです。だからこそ、何をどういう意味で言い表すかは実際に作りながら決める必要がありました。

Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~

ヒラクさんはヨーロッパなど海外でも活動の幅を広げはじめてから特に、日本の発酵の独自性を一層強く実感されているんだとか。例えば「味噌」のように麹菌から始まり乳酸菌や酵母がつくという、やや”複雑な”発酵は、海外における発酵の概念と大きく異なるため、それを説明するには「少し時間をもらって図解しないと伝えにくい」と感じるそうです。

ヒラクさん:海外の発酵は、乳酸菌のヨーグルトや酵母によるパンといった、ある意味で”一神教”みたいな感じなのに対して、日本の発酵はとことん”八百万(やおよろず)”。その違いを飛び越えて、できるだけ言葉だけで伝わるように体系化しようとしたことが今回のチャレンジだったよね。

もちろん英語に翻訳する前に、元の文章を日本語で書いているヒラクさんにとっても、伝え方には工夫があったはず。特に今回は、味噌や醤油といった多くの人が知っている発酵食だけではない、あまり知られていない食品も多いため「なるべく専門的な醸造用語を使わずに説明したかった」んだとか。

言葉の統一をする「用語集」のスタート

Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~

実はこの日、初めてお披露目となったのがこちらの冊子。展示に出てくる説明の中からキーとなる特徴的な言葉を抜き出して、日英辞書のようにまとめた用語集で、読み方(ローマ字)と、英訳の表記、解説を掲載しています。

ヒラクさん:これまで一度も英語になったことがなさそうな言葉や、かつて統一的な説明が存在しなかった用語も、この用語集によってある一つの基準みたいなものが示せてる。とても実用的な内容だよね。

「僕の地元の甲州ワインについても、海外の人と話すときはこの文章そのまま暗記して説明したい」とヒラクさんも絶賛してくれた発酵用語集。
「僕の地元の甲州ワインについても、海外の人と話すときはこの文章そのまま暗記して説明したい」とヒラクさんも絶賛してくれた発酵用語集。


将来的には本展示の枠を飛び越えて、もっと多くの発酵に関わる言葉が集まり、その説明が英語で解説された”一大発酵用語辞典”のようなオープンソースになること。日本の発酵を世界に向けて底上げするツールとなることを願った、最初の第一歩がこの用語集です。

個人的にはいつか「発酵」= hacco も世界の言葉になると良いな、と願ってやみませんが、すでに本展示にご来場される方の2割前後は日本語ではなく英語で解説を読まれていて、ほとんどの方がとても真剣なんだとか。
また、会場の英訳にも満足感が高い方が多いと聞き、翻訳の文脈がちゃんと伝わっていることにも喜びを感じました。

イベントご参加者からも用語集に関してもたくさんの質問やご意見をいただきました。「どんどん改善して、いつかウィキペディアみたいになるといいな」(ジャスティンさん)
イベントご参加者からも用語集に関してもたくさんの質問やご意見をいただきました。「どんどん改善して、いつかウィキペディアみたいになるといいな」(ジャスティンさん)


また、展示会場の文章を全てまとめた「47都道府県の発酵カタログ」も日本語と英語の併記です。会場で販売もされていますので、会期中にぜひチェックされてみてください。(カタログの詳細はヒラクさんのブログを参照)。まるで展示物の内容が手元にひとまとめになったような充実ぶりですよ。

「この前の欧州ツアーにも持って行ったけどみんなすごく真剣に読んでたよ」とヒラクさん。
「この前の欧州ツアーにも持って行ったけどみんなすごく真剣に読んでたよ」とヒラクさん。


トーク後半はタルマーリーの格さんも参加!

そしてトーク後半には、鳥取県智頭町のパンとビール「タルマーリー」から渡辺格さんがトークに参加くださいました。格さんの著書『田舎のパン屋が見つけた腐る経済』は韓国語や中国語、そして今度はフランス語にも翻訳され、海外、特に韓国からのご来店者も多いことで知られています。

韓国ではちょうど時の政治情勢や国民思想との相性が良く、以来いまでも観光バスでお客さまが来てくれるとか。格さんの軽快なトークに会場は笑顔でいっぱい
韓国ではちょうど時の政治情勢や国民思想との相性が良く、以来いまでも観光バスでお客さまが来てくれるとか。格さんの軽快なトークに会場は笑顔でいっぱい。


トーク前日までアメリカ西海岸に出張していたジャスティンさん、前の週までヨーロッパを回っていたヒラクさんからは、海外でどのように発酵が注目されているかという最新情報がシェアされました。

料理のプロであるシェフたちや、すでに発酵への興味が深い”ギーク(オタク)”や食通の方々などは、常に斬新なアイディアと食材を活かし、その土地独自の発酵食品をどんどん作り出しているんだとか。ヘーゼルナッツの麹、バスマティライスのどぶろく、はたまた昆虫を麹にできるか?などなど、日本の伝統食が実に多様に展開していく可能性は明るい未来を感じさせます。

「発酵って、文化的な側面と、テクニック的な側面があるよね」とヒラクさんが語るように、大きな可能性と自由な思想を含む日本独自の発酵コンテクストは、伝統を伝え守りながらも、新たに活かす方法を探るのが理想的なのかもしれません。

Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~

会場のご参加者とインタラクティブなやりとりも行いつつ、最後にヒラクさんからは「どうやら、国際的な発酵のコミュニティーが必要だね」という提案も飛び出しました。

ヒラクさん:この展覧会の方法論として、元々の技術や発祥を原型のままアーカイブ(保存)するとともに、未来にも続かさせるためには変化させながらも広げていくことを、こうしたイベントで実践しています。そうすれば参加者の一人ひとりが受け止めて続けることに繋がるでしょ。正解のないところにみんなでチャレンジするって最高に幸せなことだよね。

Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~

この日はまた夕方に、第二弾ともいえる格さんとヒラクさんによるトークも大盛況。会場は満員のため増席され、それでも立ったまま見聞きしている人が出るほど。おだやかでもアツい熱気に包まれた、希望を見つめる時間となりました。

こうして後半に向けてまだまだ盛り上がってる発酵ツーリズム「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜」は7月22日(月)までご覧いただけます。一度ならず二度三度とお楽しみください。

Fermentation Tourism Nippon ~発酵から再発見する日本の旅~ supported by カルピス

会期  2019/4/26(金)〜7/22(月) ※会期中無休 11:00~20:00 (入場は閉館30分前まで)
会場  d47 MUSEUM(ディヨンナナミュージアム) 東京都渋谷区渋谷2-21-1渋谷ヒカリエ8階
電話  03-6427-2301 / 入場無料
主催  D&DEPARTMENT PROJECT
詳細 https://static.d-department.com/jp/fermentation-tourism-nippon

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