以前も「ぬかの継ぎ足し、ニオイ、漬かり過ぎ、保存法…舘野先生直伝!ぬか漬け・漬物の“困った”解決法」という記事で、haccolaにご登場いただいた舘野 真知子さんは、発酵料理に関する著書4冊、共著や監修は合計8冊と、大人気の料理家さんです。
なかでも、お漬け物をより多くの方が楽しめるようにと、129品ものレシピが納められた著書『きちんとおいしく作れる漬け物』は、はじめての方も気軽に始められるように配慮され、比較的手に入りやすい道具や調味料が紹介されていたり、季節ごとに漬けるお野菜の素材別、もしくは、漬け床となる素材別に索引できるページなど「かゆいところに手が届く本だなぁ〜」と感動を覚える名著です。
舘野真知子著『きちんとおいしく作れる漬け物』 成美堂出版 定価:本体価格 1,200円+税
紹介されているレシピも定番の漬け物だけでなく、早く作れるものや、漬け物のセオリーを活かした発酵調味料、食べ方のアレンジなど、漬け物に関する概念が広がるようなバリエーションが掲載されています。
そして先日、この本の英語版『Japanese Pickled Vegetable』が発売されました。ご自身初の英訳本と共に、ちょうど東西二都市を巡るアメリカツアーを実施中の舘野さんにお話を伺います。
Machiko Tateno (Author)『JAPANESE PICKLED VEGETABLES』 Tuttle Publishing Price:$16.99
発酵が世界のムーブメントになったことを感じた
舘野さん:これまで数年に渡り国際交流の料理教室「Kitchen Nippon」も続けてきて、「いつかもっと広く、日本の家庭料理の魅力を海外の方にもお伝えできたらいいなぁ」と考えるようになりました。そんなときたまたまご縁のあったジャーナリストの方がこの本に興味を持ってくださって、監修をしてくださるということで英訳版の出版が決まったんです。当初、日本の家庭料理の魅力を、と思って他の著書も見ていただいたのですが、漬け物に強く興味をもってくださったことに、改めて海外での発酵食の注目度を感じましたね。
海外、とりわけ欧米での発酵食ブームはhaccolaでもたびたびご紹介してきましたが、歴史上、欧米の発酵食といえばチーズやヨーグルトといった動物性の乳酸菌系発酵が主流です。もちろん日本の漬け物にも乳酸菌は欠かせず、舘野さんに寄せられる質問も、漬け物に関しては「ぬか漬け」に関することが多いんだとか。
舘野さん:ぬか漬けは、旅行などで日本に滞在経験がある方はいちばん出会いやすい漬け物なのかもしれませんが、ぬか漬けを知ってる方は多いなぁと感じます。機会があればチャレンジしてみたい、と言われることが多いのもぬか漬けですね。腸内環境を良くするなど健康効果が知られていることも人気の理由かと思いますし、あとベジタリアンやビーガンなど、動物性食材をとらない方にとっては、旨味やコクを味わう食材として認識されているようです。そして注目の発酵調味料は断然、塩麹!日本でブームになってから10年ほどですが、「とうとう来たか!」と感慨深いものがあります。
英語版『Japanese Pickled Vegetables』でも丁寧にぬか漬けを紹介。
確かにぬか漬けは、米ぬかのビタミンが野菜に浸透するすることで味わい深くなるもの。野菜がもつ栄養をより豊富にし、食物繊維と共に味わえる健康効果が注目されているのかもしれません。塩麹も、塩分量を気にしながらも味わいは欲しい、というニーズが世界で高まっているのかもしれませんね。
漬け物のある食卓がずっと続いてほしい
「子どものころは祖母や母が作るのを見ているだけで食べる専門でした」と笑顔でお話しされる舘野さんのご実家は、8代続くという農家さん。ご自身で漬け物を楽しまれる様になったのは、お料理が仕事になってからだそうですが、舘野さんの漬け物への思いをうかがっていると、体感として慣れ親しんだ季節の味や、ふるさとの味をずっと内包されていたんだなぁと感じます。
舘野さん:漬け物の魅力って、なんといっても発酵が生み出す深い味わいですよね。生の野菜にはない複雑なフレーバーがクセになり、日常の食卓に欠かせなくなるような。
それに、保存がきくようになったり、環境によって風味が変わる発酵の過程は本当に興味深いですよね。今でも発酵食を仕込むときは、料理とも実験ともいえないワクワクした気持ちになります。また、いくら保存食になったり体に良いとはいえ、「こんな風に変化したものをよく口にしたなぁ〜」と先人たちの知恵に感服する瞬間もありますよね。食べ物を大切にしていた日本人の気質を誇らしく感じます。
すでに、デンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma」をはじめとする世界のガストロノミーやシェフのあいだでも、独自性をもった形にどんどん深化している発酵食。今後、色んな国の家庭に広まることで、ますますその土地ならではの展開を広げることでしょう。
舘野さん:実際、食のありかたは生活と切り離せない密接したものなので、その土地や時代に合わせて変化するのが自然だと思います。日本国内であっても、生活様式が多様になるのであれば、漬け物もこれまでとは違うスタイルに変わっていくかもしれません。それでも私たちの食卓にずっと残ってほしいと思いますね。
この本を開くと、一年を通してこんなにも豊かな一品がつくれるのか!と漬け物の奥深さを実感して、早く作ってみたい、という気持ちが込み上げます。こんな前向きなクリエイティビティの刺激もまた、発酵食がもつ魅力のように感じました。どうぞ日本語でも英語でも、この楽しみが多くの方に届きますように。
舘野真知子 (たてのまちこ)さん
舘野真知子 (たてのまちこ)さん
料理研究家・管理栄養士。栃木で8代続く専業農家に生まれる。
管理栄養士として病院に勤務後、2001年アイルランドの料理学校「Ballymaloe Cookery School」に留学し料理を学ぶ。校長ダリーナ・アレンに影響を受け、生産者を尊重すること、素材を生かす料理をすることをモットーにしている。帰国後はフードコーディネーターとしてメディアなどで活動した後、レストラン「六本木農園」の初代シェフを務め、現在はフリーランスの料理家として発酵料理をキーワードに、料理の楽しさや食べることの大切さを栄養・料理・文化を通して伝える活動をしている。また国際交流にも積極的に参加し外国人向け料理教室「Kitchen Nippon」にて講師を務めている。2015年にはイタリア・ミラノで開催されたPeace Kitchenが実施した和食をつたえる料理教室のカリキュラム作成、講師を担当した。
舘野真知子さんオフィシャルサイト