かつお節

2020年01月24日

おいしさを最大値にする「目利き」に学ぶ。今だからこそ「かつお節のある暮らし」をする意味

美食家で知られた北大路魯山人は、「かつお節がある日本人はまことに幸せである」と書き残していますが、かつお節を取り巻く社会は時代とともに変化してきました。魯山人が好んだかつてのかつお節は、現在大きく流通量を減少させています。しかし実は、昔ながらのかつお節にこそ、現代社会の課題を解決する糸口がありました。消費者として心地よい「かつお節のある暮らし」を送るために、まずはよく知ることからはじめましょう。


かつお節問屋タイコウの代表で、目利きとして35年活動する稲葉泰三(いなば たいぞう)さんと、目利きとして見習中の大塚 麻衣子(おおつか まいこ)さんに、かつお節について教えていただきました。

タイコウのかつお節ができるまで

まずはかつお節が作られる工程のおさらいから。

カツオの入荷・生切り

タイコウではかつお節職人の宮下誠さん(鹿児島県枕崎市)と40年来のパートナーシップを保ち、原材料となるカツオを宮下さんが加工します。理想的なカツオは鹿児島近海で一本釣りされた5〜6キロサイズ。

煮熟(しゃじゅく)

頭とヒレと内臓をきれいに落としておろしたカツオは、鉄製のカゴに並べらてカゴごと煮ます。沸騰させずに約2時間。

骨抜き(ほねぬき)

煮上がって冷ましたあとは、骨抜きといって骨やウロコなどを取り除きます。骨が残っているとかつお節が変形したり痛んだりする原因にもなるため丁寧な手作業。

修繕(しゅうぜん)

生のカツオをおろした中骨のついている部分から身を取り出し、煮釜の隅ですり身をつくり、凹みや全体に付けて、かつお節らしい形状に整形されます。

タイコウのホームページから、修繕の様子
タイコウのホームページから、修繕の様子

焙乾(ばいかん)

焙乾用のカゴに並べ、薪を炊いた室内で燻し、水分を取り出します。生の鰹から始まりここまで一気に1日で進みますが、焙乾はあん蒸(あんじょう)と呼ばれる乾燥と交互に繰り返すことで水分量を少なくし、脂(飽和脂肪酸)なども落としていきます。
期間は魚体にもよりますが3週間〜2ヶ月ほど。ここで出来上がるのが「荒節」または「鬼節」となります。

削り

焙乾後は表面にタールが付着しているので小刀やグラインダーで削り落とします。ここで、かつお節らしい形に仕上がります。

カビつけ

天日で乾燥させた後は、室(むろ)に入れ、極限まで温度と湿度を下げて時間をかけながらカビ付けをします。細かくきれいにカビが付着することでさらに水分が抜かれ、他の雑菌を妨ぎ、保存性が高まります。さらに脂質を分解し、必須アミノ酸やたんぱく室に変化させます。一番カビ付け後は天日に干して乾燥させ、日干し後は二番カビ付けのためにまた室に入れます。二番カビまで繰り返したあとは天日干しに約2ヶ月。大体の大きさを揃えて荷造りをしてタイコウに送られてきます。

東京のタイコウに到着後、3ヶ月から1年ほど日干しと選別を繰り返し、1本1本の状態を見ながら品質を揃えます。
「100点満点の状態にまでしないとお客さまには出せません。目利きとして重要な仕事です」(稲葉さん)

普段使いの「荒節」と、本格派の「本枯節」

「業界内では“はだかもん”と呼ばれるのが、カビつけ前のかつお節。荒節(あらぶし)とか裸節(はだかぶし)と呼ばれるかつお節です。
燻製のいい香りがしますよね。この黒いタールを落としてから青カビをつけて仕上げたのが本枯節(ほんかれぶし)と呼ばれる極上で最高級品のかつお節です。料亭や蕎麦屋などの料理店、もちろん一般のご家庭でもお使いいただいています」(大塚さん)

カビ付けする前の荒節(左)とカビ付け後の本枯節(右)
カビ付けする前の荒節(左)とカビ付け後の本枯節(右)

自分で削るもよし、削り節を買うもよし

約35年前、先代であるお父様からタイコウを引き継いだ稲葉さんは、業界の傾向を考慮し、本枯節の姿売りがメインだった事業に加えて「削り」と呼ばれる事業も開始されました。

ひらひらとした形状が花びらの様に見えることから、削ったかつお節を「花かつお」と呼びますが、一般的に、カビつけ工程前の荒節を加工したものを「花かつお」と表示してもよいことになっています。

タイコウでは、荒節についた黒いタールを洗い機で落として削った一般的な削り節だけではなく、目利きとしてかつお節の質にこだわる稲葉さんならではの、他社では真似できない削り商品も誕生しました。それは、カビつけまで終了した「本枯節」を削った花かつお、商品名は「花くらべ®」です。

カビをつける前の荒節と、カビをつけて極上に仕上げられる本枯節(リーフレットより)
カビをつける前の荒節と、カビをつけて極上に仕上げられる本枯節(リーフレットより)

「最高級品の本枯節の削りをはじめて作ったんです。1本ずつ厳選していると、どうしても全体のうち数割は姿売りにできない本枯節が出てくるんです。他社なら一級品にできる本枯節を削るなんて、と同業者からも呆れられましたが(笑)上質な本枯節の姿売りを行なっているなら、削り節をつくるにあたっても最高を目指しました。それに実際、一般のご家庭からは削ってあるかつお節が求められていることも感じていたんです。結果的にできた「花くらべ®」は、最高級のインスタント食品が作れたと思っています」(稲葉さん)

haccola読者の皆さんのなかには、子どもの頃に食事の準備の手伝いでかつお節を削ったことがある、という方もいるかもしれませんが、かつお節問屋の二代目である稲葉さんはもちろん、まだお小さい頃から現在に至るまで日常的に削りたてのかつお節を使ってるそう。

「でも今の忙しい人たちにそれを強いることは難しいですよね。だったら、本枯節の「花くらべ®」、もしくは、もっと普段使い向けに、荒節の「花かつお」を食べてもらいたいと思います。荒節の花かつおは『だしはこれ』というシンプルな商品名にしてから特に売れ筋の商品になっています」(稲葉さん)

ふっくらとして美しいピンク色の削り節。開封後は空気を抜いて冷凍庫で保存が望ましい
ふっくらとして美しいピンク色の削り節。開封後は空気を抜いて冷凍庫で保存が望ましい

驚くほどに簡単!しかもお得!タイコウ直伝だし取りのコツ

「一般的に、かつお節のだし取りは、沸騰させない・ぎゅっと絞らないなど、やってはいけないことや細かさが伴います。正直めんどくさいことが多いイメージですよね。でもそれは、本来のかつお節とは違う作られ方をしたかつお節だからなんです。うちのかつお節は、沸騰させたって大丈夫だし、絞っても苦味が出ることはありません。もしくはそのまま具として食べるのも栄養丸ごと取れるしおいしいですよ」(大塚さん)

と、話しながらテキパキと出汁をとり、この日のまかないのお味噌汁をつくる大塚さん。出汁の取り方をうかがいながらいただいたお味噌汁は、取材から時が経った今でも思い出すほどおいしいものでした。

この取材後「タイコウのまかない味噌汁を飲んだことある」と言うと羨ましがられるので、調子にのっていろんな方に話しています
この取材後「タイコウのまかない味噌汁を飲んだことある」と言うと羨ましがられるので、調子にのっていろんな方に話しています

「昆布は水から、かつお節はお湯から、出汁をとります。昆布との合わせ出汁にする場合は先に取っておいた昆布出汁を鍋で温めて、かつお節を入れるだけ。削り節なら15〜20gほど、削りたてなら半量の7〜10gくらいで十分1リットルくらいの出汁が作れます」(大塚さん)

なんと、良質のかつお節であれば使う量も少ない上に、出汁の取り方まで実に簡単なのでした。「かつお節の出汁はめんどくさい」と思っている方や「出汁取りも料理も苦手」という方こそ、このかつお節が強い味方になると感じました。

「熱くした昆布出汁や湯の中に入れる、それだけです。いかようにしても大丈夫です。かつお出汁を効かせたいからって大量にかつお節を入れる必要はありません。中〜強火で数分煮出せば出汁の味が強めに効きます。出汁が好みの濃さになったらザルやさらしでかつお節を漉す。そのときギュッと絞ってもらっても大丈夫。ちゃんと作られたかつお節は、煮出しても絞っても、渋みとかえぐみとか、ましてや苦味も生臭さも出やしません。むしろギュッと絞った中においしさが出ます。それに、めんどうだったら漉さずにそのままかつお節も味噌汁の具にするのだっておいしいですよ。むかしの庶民はそうしてたはずです」(稲葉さん)

かつお節を漉した後のお出汁は透明に透き通った黄金の輝き。じんわりと滋味深く、体に沁みこんでいくようなおいしさでした。

「毎日できない場合、出汁は冷蔵庫で2日間は保管できます。翌日の出汁は香りこそ少し飛びますが、慣れた味わいがしてさらにおいしく感じられるかも。味噌汁だけでなく、ポタージュなどを作るのにも使えます。バターや生クリームを使わなくてもコクがありますね」(大塚さん)

また、漉した場合のかつお節の再利用についておうかがいしたところ、佃煮やふりかけを作る、もしくはもっと簡単に、カレーに入れたり、クリームチーズと和えてお醤油で味を整えると立派なおつまみの一品になるんだとか。昔ながらの製造方法をされたかつお節は、簡単なうえに余すことなく食べられる秀逸な食材だと言えそうです。

かつお節は「平和な社会」だからこそ生まれた文化品

2018年に愛知県で開催された「発酵サミット」にも出店・登壇されていたタイコウのおふたり。(その時の様子はこちら
その際、稲葉さんは「平和な時代だったおかげでかつお節ができた」とお話しされていたのが印象深かったため、もう一度おうかがいしてみました。

「江戸時代、庶民にとって平和で安心して暮らせる時代がありました。良い出汁を取るためだけに時間をかけて食材を開発するような余裕があったんです。もしも食うに困ってるときだったら、魚も獲ってすぐ食べるでしょう。でも社会が落ち着いていたから、時間をかけて、試行錯誤を繰り返し、生活に入り込んで、文化になっていった。そうやって和食に欠かせない、なくてはならないものになったんです」(稲葉さん)

かつお節は、先人たちのクリエイティビティによって作り出された素晴らしい食材であり文化的資産でした。それがいつの間にか簡素な作られ方に変わったり、海の資源が枯渇するような獲り方をしていては、あまりにも悲しいことではないでしょうか。

長いあいだ環境に沿って完成したかつお節のような食材には、理にかなった本質があるはずです。私たちはそれらを理解した上で、自らの生活スタイルに合わせた活用や選択ができる消費者でいることが求められていると思います。


やなぎさわ まどか

やなぎさわ まどか

フリーライター/ 通訳翻訳コーディネーター。10代後半から20代前半の海外生活後、英会話学校のマネージメントやコンサルティング企業に勤務。2011年3月の震災を機に、兼ねてから興味のあった農的な暮らしへの移行を求めて退職。現在はフリーランスにてライターやマネージメントの活動をしつつ、自然との繋がりを深める暮らしの実践中。心はいつでも旅人のままであり、自由と安定のバランスを模索する日々。 Instagram

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