醤油

2017年03月06日

老舗醤油屋さんに聞いた、包丁いらずの発酵お惣菜レシピ

「醤油を作るのは麹菌や酵母。人間は環境を整えるだけ 」

兵庫県の日本海側、城崎温泉にほど近い竹野浜に店舗と工場を構える花房商店

「ちょっと今日は寒いから、室の温度が下がっているみたいだな」
「そうか。そしたら、ちょっと上げようか」

兵庫県の日本海側、城崎温泉にほど近い竹野浜に店舗と工場を構える花房商店。工場の室(むろ)はステンレスの近代的なもの。温度管理は自動で行われる。しかし、同じ冬の日でも比較的暖かい日もあれば氷点下になる日もある。微妙な変化を感じ取るには、やはり人間の五感に沿った判断が必要だという。醤油が完成するまでの約1年間、まるで醤油と会話をするように熟成させるのだ。
7代目当主の花房靖裕さんは、「醤油を作るのは麹菌や酵母です。我々にできることは、麹がのびのびと働けるような環境を作ってあげることだけです」と笑う。

天保12年の創業から170余年続く花房商店。始めは味噌や醤油を手作りする江戸庶民に向け、糀を取り扱う「かうじや(糀屋)」だったとか。昭和2年から醤油の醸造を始め、今では但馬の気候を活かした天然醸造で、ゆっくりと、丁寧に、時間をかけて発酵させていく。大量生産ができない手間ひまがかかる製造方法だが、まろやかで深みのある唯一無二の味になる。

CGデザイナーから転身。江戸時代から続く伝統の醤油工場へ

CGデザイナーから転身。江戸時代から続く伝統の醤油工場へ

花房さんは、高校卒業後は京都の美大に進み、映像の勉強をした後、大阪のCGプロダクションに就職。CGデザイナー/テクニカルディレクターとして勤務していた。若い頃は家を継ぐ気は全くなく、子供の頃から憧れていたコンピューターの世界に進んだそう。
もともと「食べること」が好きだった花房さんは、おいしいものが集まる大阪でさまざまな美味を食べ歩いた。世の中にはおいしいものがたくさんある。しかし、醤油はどうも自分の口に合うものがない。慣れの問題なのかとも考えたが、どうも違う。

「醤油は、うちのが絶対においしい」。

花房商店が位置する但馬地方は、冬は松葉ガニの名産地。目の前に広がる竹野の海は漁場でもあり、豊かな海の恵みをもたらしてくれる。また、牛肉好きにはよく知られる但馬牛の生産地でもある。ふんだんに獲れる海の幸と山の幸。それに加えて、江戸時代から明治にかけて大阪や北海道への交易を担った北前船が行き交う貿易港でもあったことから、昔から非常に豊かな食文化に恵まれていた土地だという。

美しい竹野浜の風景

焼杉板の家が立ち並ぶ

花房さんがお正月などに帰省すると、近所の人や観光客に「あんたのところの醤油は本当においしいね」「ここの醤油がないと味が決まらないんだよ」と声をかけられる。家を離れてみて、地元の豊かな食文化とその地域の中で根付いた実家の醤油のおいしさにやっと気がついた。年齢を重ねるにつれ、この醤油作りを続けなければ、という思いが募っていく。そうして花房さんは、コンピューターの世界から一転、醤油醸造業を継ぐことを決意したのだ。年齢は32歳だったという。

農業系の大学を出たわけでもないし、若い頃から修行をしていたわけでもない。花房さんは、「0から人生をやり直した感じ」と笑う。CGデザイナーとしての経験が活かせることはなかったかと伺ったところ、「いやあ、びっくりするほどありませんね(笑)。本当に、180度を通り越して185度くらい違っています(笑)」。
先代である父親から学び、現場を通して、醤油作りの過程を体験して学んできた。「まだまだです。たぶん、一生終わりがない学びですね」。

時代に寄り沿う、新しい“発酵調味料”への挑戦

醤油を作るための大豆や小麦は、すべて国産のもの。輸入大豆や小麦と比べ圧倒的に生産量が少ない国産大豆や小麦。町の小さな工場だからこそできることだ。
こだわりぬいた製法や原料で作る醤油の数々に加えて、近年では新しい発酵食品の開発にも挑戦している。現在、花房商店さんの看板商品となっているのは、発酵した麹にさまざまな味や食材を加えた発酵調味料シリーズ「HANAFUSA」だ。

現在、バリエーションは「塩糀」「醤油糀」「甘糀」「もろみ味噌」「するめ糀漬」「もろジェノ」の6種類。

バリエーションは「塩糀」「醤油糀」「甘糀」「もろみ味噌」「するめ糀漬」「もろジェノ」の6種類。

中でも兵庫の名品・逸品「五つ星ひょうご」に選定された「するめ糀漬」がおすすめ。大人気商品となった。糀で柔らかくなったするめと発酵の甘み、それに唐辛子のピリリとした辛味がアクセントとなり、あとをひくおいしさ! お酒のつまみにもご飯のおかずにも最高の逸品だ。リピーターが途切れない大人気商品となった。
また、もろみに香り豊かなバジルをたっぷりと練り込んだ「もろジェノ」も人気。バジルが苦手な年配の方も、食べ馴染んだもろみに加えてあることにより、「これは大好き!」と大好評だそう。

「するめ糀漬」とクリームチーズを乗せたカナッペ。簡単で手軽なオードブル。
「するめ糀漬」とクリームチーズを乗せたカナッペ。簡単で手軽なオードブル。

「言葉にするとありきたりですが、ポリシーは“安心・安全”、そして当たり前ですが”おいしいもの”です。食材を扱う人だったら誰もが思うことでしょうが、しかし突き詰めて考えていくと、結局はそれしかありません。丁寧に、実直に仕事をして、“安心・安全”と“おいしさ”が結びついたものを作ることによって、人々の生活を支えることができたら嬉しいですね」

地元の“おいしさ”に気づき戻ってきた花房さん。伝統を守りながらも醤油や発酵文化を進化させていく挑戦は、これまでも、これからも、人々の食卓をおいしさで包んでいくに違いない。

醤油糀でつくる「ピーラー人参のさっと炒め」

花房さんに、簡単にできるお惣菜レシピをおうかがいしました!

花房さんの醤油糀でつくる「ピーラー人参のさっと炒め」

材料(作りやすい量)

・人参…中1本
・醤油糀…大さじ1
・青のり…少々
・油…大さじ1/2

人参をまるごと1本、ピーラーで帯状にして、油を熱したフライパンに入れ醤油麹でさっと炒める。

作り方

1)人参をまるごと1本、ピーラーで帯状にして、油を熱したフライパンに入れ醤油糀でさっと炒める。
2)盛り付け時に青のりをふりかける。

「簡単ながら、本格的なお惣菜になります。青のりをたっぷりかけると風味が増しておいしいですよ!」(花房さん)

有限会社花房商店 代表取締役 花房靖裕さん

有限会社花房商店 代表取締役 花房靖裕さん

兵庫県生まれ。京都芸術短期大学映像コース卒業後、大阪のCGプロダクションにてCGデザイナー/テクニカルディレクターとして勤務。2004年に、実家「有限会社花房商店」を継ぐべく故郷に戻り、2014年に代表取締役就任。「味噌ソムリエ」の資格も持つ。
現在7代目当主として、伝統的手法を守りながら、醤油や味噌の可能性をさまざまなメディアで発信している。

しょうゆの花房

有限会社花房商店
住所:〒669-6201 兵庫県豊岡市竹野町竹野375
TEL:0796-47-0003  FAX:0796-47-0004
定休日:土曜・日曜・祝日
オンラインショップ:http://www.syouyuhanafusa.co.jp/html/syo/syo_shopping.htm
しょうゆの花房公式サイト:http://www.syouyuhanafusa.co.jp

いしだわかこ

いしだわかこ

ライター・編集者・マンガ家。雑誌編集者、制作会社、少女マンガ誌連載などを経てフリーに。インタビュー取材をメインに、紙・Web問わず活動中。最近では、電子書籍編集や企業・行政広報誌の制作ディレクションなども行っている。 ウェブサイト

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